下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

青年団リンク ホエイ「郷愁の丘 ロマントピア」(2回目)@こまばアゴラ劇場

青年団リンク ホエイ「郷愁の丘 ロマントピア」(2回目)@こまばアゴラ劇場

ホエイ、北海道三部作、第三部。


北海道空知地方、夕張。
1980年代初頭。かつて良質な製鉄用コークスを産出し、高度経済成長を支えたこの地方の鉱山も、エネルギー政策の転換や、安い海外炭の普及により閉山に追いやられていた。
「石炭から石油へ」「炭鉱から観光へ」
国策で推し進められてきたはずの産業は、急激な転換を迫られ、混迷し、国からも企業からも見放され衰退していく。
それから約20年後、2000年代、財政破綻後の夕張。再建の道は絶望的とされ、この町から出ていく者はあとを絶たない。2014年、かつて2万人近くが暮らした町たちが、ついにダムの底に沈んだ。
いま、町を弔う。


作・演出:山田百次(ホエイ|劇団野の上)

出演:河村竜也(ホエイ|青年団) 長野海(青年団) 石川彰子(青年団) 斉藤祐一(文学座) 武谷公雄 松本亮 山田百次(ホエイ|劇団野の上)

照明:黒太剛亮(黒猿) 衣裳:正金 彩 演出助手:楠本楓心 制作:赤刎千久子
プロデュース・宣伝美術:河村竜也

青年団リンク ホエイ「郷愁の丘 ロマントピア」(1回目)@こまばアゴラ劇場

青年団リンク ホエイ「郷愁の丘 ロマントピア」(1回目)@こまばアゴラ劇場

ホエイ、北海道三部作、第三部。


北海道空知地方、夕張。
1980年代初頭。かつて良質な製鉄用コークスを産出し、高度経済成長を支えたこの地方の鉱山も、エネルギー政策の転換や、安い海外炭の普及により閉山に追いやられていた。
「石炭から石油へ」「炭鉱から観光へ」
国策で推し進められてきたはずの産業は、急激な転換を迫られ、混迷し、国からも企業からも見放され衰退していく。
それから約20年後、2000年代、財政破綻後の夕張。再建の道は絶望的とされ、この町から出ていく者はあとを絶たない。2014年、かつて2万人近くが暮らした町たちが、ついにダムの底に沈んだ。
いま、町を弔う。


作・演出:山田百次(ホエイ|劇団野の上)

出演:河村竜也(ホエイ|青年団) 長野海(青年団) 石川彰子(青年団) 斉藤祐一(文学座) 武谷公雄 松本亮 山田百次(ホエイ|劇団野の上)

照明:黒太剛亮(黒猿) 衣裳:正金 彩 演出助手:楠本楓心 制作:赤刎千久子
プロデュース・宣伝美術:河村竜也


北海道に題材をとった北海道三部作の最後の作品。夕張の炭鉱町を舞台にその盛衰をそこで働く男らの群像劇として描いていく。
冒頭、前説に山田百次が現れ、「本日は青年団リンク ホエイの公演にご来場、まことにありがとうございます」と観客に向け挨拶。続いて「皆さん夕張市はご存知ですか?」などとこれから始まる芝居の概要を話し出す。そのままニット編みの帽子をかぶり、「申し遅れました。わたくし山田百次が演じる今回の役名は鈴木茂治と申します」などといい最初は自分が演じる役の人のことを「彼は」などと三人称で呼ぶのだが、「彼は御年92となりました」などといいながらいつのまにか腰をかがめた老人の演技に入っている。演技スタイル自体は意図的に平板なセリフ回しを多用するマレビトの会などとは違って、普通の会話口調に近いが、この舞台では「登場人物は○○」というだけではなく、登場シーンで「松本亮演じる加藤謙三が来ました」と他の俳優のセリフによって説明されることで「俳優、××が演じる○○」という二重性がたえず呈示される。
舞台上では男らが80~90にならんとする現代から、炭鉱で働いていた彼らが若かった時代までを時代を交錯させながら役者たちが瞬時に演じわけていくのだが、それが不自然ではなく受容できるのは登場人物を完全にリアリズムで演じるというわけではなく、先述した「××が演じる○○」が中間項として入り込んでいるからかもしれない。
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「郷愁の丘 ロマントピア」で描かれているのは「大夕張」と呼ばれている地域。夕張には北炭(夕張鉱業所・平和鉱業所)・三菱(大夕張鉱業所)の3つの炭鉱があったが、現在の夕張市街地があるのはすべて北炭があった地区。これらの地域は同じ夕張市内といってもかなり離れた場所にあり、三菱合資会社大夕張大夕張炭鉱のあった大夕張地区は全盛期には2万人近くの人口をかかえた(上記に写真とのリンクあり)が、廃坑とともに人口は激減。現在はダムの完成にともないかつての市街地はほとんどシューパロ湖の底に沈んだ。

KARASアップデイトダンスNo.50「ピグマリオンー人形愛」(勅使川原三郎)@荻窪・スタジオアパラサス

KARASアップデイトダンスNo.50「ピグマリオンー人形愛」(勅使川原三郎)@荻窪・スタジオアパラサス

出演 佐東利穂子
出演・演出・照明 勅使川原三郎

ジャン=フィリップ・ラモーのオペラ「ピグマリオン」製作のための習作的な意味合いもあるようだが、そのせいか勅使川原作品ととしては演劇的な要素が強い。例えば物語バレエのようなはっきりとした筋立てというわけではないが、この作品にいくぶん物語性を感じさせるところがあるのはそのせいかもしれない。
 ただ、そういうことは実は観劇後に分かったことでもあり、真っ黒な衣装のためか、陰影を強調した照明のためか、壊れた機械を思わせるようなダンスの動きのせいか、全体として「カリガリ博士」や「メトロポリス」など古いドイツ映画を思わせるような雰囲気を感じさせた。
 「ピグマリオン」はもちろんもともとはギリシア神話であるが、今回の舞台では人形を愛でるピグマリオン勅使川原三郎)自体が何ものかに操られている人形のようである冒頭からはじまり、最後はガラテア(佐東利穂子)の首を絞めて殺してしまい自らが彫像のガラテアが座っていた椅子に彫像と同じ姿勢で座り、固まって彫像となってしまうという衝撃的なラストを迎える。
 大理石で美しい乙女の像ガラテアに恋をして、アフロディーテによって命を吹き込まれたその像と結婚するという原神話の物語よりも「コッペリウス博士」「メトロポリス」のように現代人の目からはロボットテーマの悲劇的な物語と重なるような印象もある。
 勅使川原作品ではダンサー同士の接触(コンタクト)がほとんどないというのがひとつの特徴なのだが、この作品では最後の首を絞める場面やその前の抱き合う場面などそれがけっこうあって、オペラ作品へ向けての習作のためか理由は定かではないが、作風の変貌の予感も感じさせる作品でもあった。

「ダンス×アート 源流を探る ダムタイプと音楽 山中透編2」セミネールin東京(再掲)

[セミネール]「ダンス×アート 源流を探る ダムタイプと音楽 山中透編2」セミネールin東京(再掲)

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山中透

【日時】2018年1月20日(土)p.m.3:00
【場所】三鷹SCOOL にて
【料金】前売:2000円
当日:2500円 (+1drinkオーダー)

【予約・お問い合わせ】
●メール simokita123@gmail.com (中西)まで お名前 人数 お客様のE-MAIL お客様のTELをご記入のうえ、 上記アドレスまでお申し込み下さい。ツイッター(@simokitazawa)での予約も受け付けます。
電話での問い合わせ
090-1020-8504 中西まで。
 セミネール「ダンス×アート 源流を探る ダムタイプと音楽 山中透編2」を開催します。プロジェクターによる舞台映像を見ながらダムタイプの音楽担当だった山中透さんが自ら語る作品の舞台裏。山中さん提供によるダムタイプ初期の超レア映像など見られ楽しい時間がすごせ好評だった第1回に続き、今回は前回に引き続き代表作「S/N」の話題に加え、前回は時間内にはをあまり紹介することができなかったダムタイプ以降に山中さんがかかわったオン・ケン・セン、高嶺格モノクロームサーカス、じゅんじゅん、MuDAらとの仕事も紹介。山中さん本人に映像を見ながら舞台裏を話してもらおうと思います。前回は山中さんと古橋悌二さんがダムタイプ以前に制作し、坂本龍一氏にこわれて審査に出した映像作品などほかではまず見られないものも見ることができダムタイプファン垂涎の企画となりましたが、今回もなにか隠し玉が飛び出すかもしれません。乞う期待。   
コーディネーター・中西理(演劇舞踊評論)
ゲスト・山中透
ダムタイプ「S/N」

モノクロームサーカス「D E S K」

山中透インタビュー
http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/00001205



セミネールレクチャー(大阪)からダムタイプについて
simokitazawa.hatenablog.com

scool.jp

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(2回目)@こまばアゴラ劇場

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(2回目)@こまばアゴラ劇場

 戦時中に暗号代わりに一般の人には聞き取るのが困難な薩摩弁を用いたというエピソードはけっこうよく知られた話なのだが、いくら難解とはいえ使い続けていると相手に見破られてしまうので、今度は海軍省千代田区霞が関)の施設に津軽弁を話す青森出身者(三上晴佳、工藤良平)とウチナーグチ琉球語)を話す沖縄出身者(安和学治、当山彰一)がそれぞれ2人ずつ集められ、秘密作戦の遂行を託されるというのが「ハイサイさば」の物語の冒頭である。
 青森市に本拠を置く渡辺源四郎商店とおきなわ芸術文化の箱の合同公演。青森、沖縄双方の俳優が出演し、それぞれの方言が舞台上で展開される会話劇。畑沢聖悟の作劇術が巧みだ。沖縄戦間近の東京海軍施設に舞台をとり、冒頭に書いたように海軍の秘密作戦という触れ込みで話は進み、そのなかで青森、沖縄の方言が舞台上で頻繁に交わされるとともに、中央政府と地域(特に東北や沖縄と言う辺境地域)との現在まで尾を引く関係性(差別の構造)が浮かび上がってくる。
(以下ネタバレあり)











 現代口語演劇のなかに地域語(方言)を入れ込んでいくという手法は畑澤聖悟も以前在籍していた弘前劇場長谷川孝治が得意としていて、そこでは津軽弁だけに限らず関西弁や場合によっては中国語なども同じ舞台の中で交錯するような舞台空間が創造されたが、長谷川のそれはあくまで現代の日常語としての地域語であり、そうした様々な言語の混在によって提示されるのはそこにいる人々の微妙な関係性の変容であったりした。
 今回、畑沢も同一の舞台空間で複数の言葉を提示したが、その趣きは全く異なる。そこではそれぞれの言葉が動物園にいる檻の中の動物のように動態展示され、対比される。
 先にも挙げたように暗号を巡る物語という設定の面白さから、実はそれは真実ではなかったというプロット上のどんでん返し。さらにそういう中で次第に浮かび上がってくる(方言札などのエピソード)差別の構造、最後に見えてくる戦争の悲劇、それをささえる三上晴佳の絶妙の演技などこの舞台は重層的な面白さを抱えており、そこに評価すべき点は数多いが、実は最大の魅力は青森、沖縄の俳優が交わす方言とそれが生み出す「そこだけ」の空気感ではないかと思っている。
 どちらかの方言は聞き取ることのできる青森、沖縄での公演はともかく、東京の観客にはこの舞台のセリフの半分近くは逐語的に聞き取り意味を解することはできないとも思われるが、それでも確かに観客に届いてくるものはあって、それこそが「演劇」じゃないかと思ったのである。
 

作・演出:畑澤聖悟
出演:
<渡辺源四郎商店>三上晴佳 工藤良平
佐藤宏之 我満望美 工藤和嵯 畑澤聖悟
<劇艶おとな団>安和学治 当山彰一

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(1回目)@こまばアゴラ劇場

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(1回目)@こまばアゴラ劇場

作・演出:畑澤聖悟
出演:
<渡辺源四郎商店>三上晴佳 工藤良平
佐藤宏之 我満望美 工藤和嵯 畑澤聖悟
<劇艶おとな団>安和学治 当山彰一

『池袋ウエストゲートパーク』@東京芸術劇場シアターウエスト

池袋ウエストゲートパーク』@東京芸術劇場シアターウエス

原作 石田衣良(『池袋ウエストゲートパーク』文春文庫刊)

脚本 柴 幸男
演出・美術 杉原邦生
振付 北尾 亘
作詞 柴幸男/杉原邦生/森翼RYUICHI(OOPARTZ)

作曲 JUVENILE(OOPARTZ)湯浅篤/齋藤優輝/兼松衆

出演

大野拓朗
矢部昌暉(DISH//)

塩田康平
海老澤健次
大音智海
尾関陸
加藤真央
小島ことり
笹岡征矢
高橋駿一
富田大樹
細川優
三井理陽
伊東佑華(Wキャスト)
徳永純子(Wキャスト)
田中佑弥

染谷俊之

  ヒップホップ系の群舞と歌によるミュージカル風の舞台という意味では池袋を舞台にした日本版の「ウエストサイドストーリー」といった趣きがある音楽劇。恋愛要素がほとんどないのが大きな違いだが、冒頭、ひとりの男が「20年も前の昔話だ」などと回想として語り始めて物語が始まるのは、「ウエストサイドストーリー」の原作でもあるシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の「序詞」の趣向を取り入れたのかもしれない*1
  それでこの話は現代ではなくて原作の小説「池袋ウエストゲートパーク*2が描いた20年近く前の池袋を舞台として展開していくことが提示される。
本編の開演前にヒップホップ系ダンスチームによるダンスバトルがあって、毎回ゲストの他にチームヤクシャと称して出演キャストによるチームも参加している。
バトルは勝ち抜き戦でフリーダンスでのダンスバトル形式になっているが、私が見た回では出演者チームが勝利を収め、そのまま実際の舞台の冒頭シーンに流れ込み、回想シーンによる一端の中断はあるが、バトルで盛り上がった空気がそのまま青い衣装を着た集団のダンスへとつながっていく。

『池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE』開幕!
テレビドラマでは長瀬智也が演じた真島誠役を演じているのが大野拓朗。どこかで見た名前だと思ったら、現在放送中のNHK朝ドラ「わらってんか」で芸人のキース役を演じていた。冒頭の「回想のセリフ」の件「ロミジュリ」を連想したのは事実関係としては間違っていたのかもしれないが、大野拓朗はミュージカル版「ロミオとジュリエット」でロミオ役を演じたばかりでもあり、当然、柴はそれを知った上で戯曲を書いていそうで関連性がまったくないわけでもないようだ。
 実はダンスバトルがやられた場所は作品内でさまざまな出来事が展開される「舞台」でもあるのだけれど、これは通常の客席のほかに舞台の奥にも客席が設営されていて、2方向から観客に囲まれる風になっている。舞台上方には杉原邦生が用意した舞台装置として巨大な「IWGP」の文字が吊るされていて、これはもちろん「池袋ウエストゲートパーク」の頭文字ではあるのだが、私のような年寄りにはその下に広がる「バトルフィールド」と相俟って、新日本プロレスがかつて開催したIWGP(「International Wrestling Grand Prix)」を連想させる。
 すなわち、ここは格闘技が戦われるリングにも見えてくるし、一方で東京芸術劇場の隣に今もあり、物語の中ではカラーギャング集団「G-Boys」と「Black Angels(舞台版ではRed Angels)」の最終決戦が戦われる池袋西口公園池袋ウエストゲートパーク)でもあるのだが、そのすべてを「IWGP」の4文字が象徴するように作られているのだ。
 

*1:と考えたがこれはおそらく原作小説が一人称の回想体で書かれていたからと考えるべきだろう

*2:小説『池袋ウエストゲートパーク』は1998年文芸春秋社から刊行。有名なドラマ版は2000年放送

新作歌舞伎通し狂言 日本むかし話(にほんむかしばなし)@新橋演舞場

新作歌舞伎通し狂言 日本むかし話(にほんむかしばなし)@新橋演舞場

宮沢章夫 脚本
宮本亜門 演出
新作歌舞伎
通し狂言 日本むかし話(にほんむかしばなし)

竜宮物語
桃太郎鬼ヶ島外伝
疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。

一寸法師
かぐや姫


市川海老蔵宙乗り相勤め申し候
赤鬼/シロ/重信ノ尊
浦島太郎/青鬼/正造爺
かぐや姫
幼少かぐや姫
一寸法師

乙姫
セツ婆
亀吉/黄鬼/車持皇子
お婆さん
潮女/阿部御主人
磐面大臣/黒鬼/二太郎/悪鬼王
緑鬼/一蔵/石作皇子
おばば鬼/竹取の女房
竹取の翁
大王
得松爺

海老蔵
右團次
児太郎
堀越麗禾
鷹之資
吉弥
笑也
笑三郎
弘太郎
梅花
廣松
九團次
市蔵
齊入
家橘
友右衛門
獅童

新作歌舞伎で日本の昔話を題材にしたというのは知っていたけれど、獅童海老蔵ファンの妻に誘われて行ったので現地で初めて宮沢章夫脚本、宮本亜門演出と知りびっくりした。
 とはいえ、だいぶ以前に「不思議の国のアリス」を夏休みのこども向けの芝居に翻案したときにも思ったのだけれど、宮沢章夫はあまりこういう原作ものに向いていないのではないかと特に前半の「竜宮物語」「桃太郎鬼ヶ島外伝」を見終わって思ったが、後半の「疾風如白狗怒涛之花咲翁物語」「かぐや姫」はよかった。
 「かぐや姫」は帝の代わりに原作にはない重信ノ尊(市川海老蔵)という人物を新たに創造して登場させたのがなかなか効果的であった。これよってかぐや姫の昇天以下のシーンが悲劇としてより効果的に消化され、最後の長台詞には「スーパー歌舞伎」で先代の猿之助が演じたヒーローたちを連想させるような余韻があった。ただ、短編連作のようにしたので4人の貴族・皇子の求婚などの場面ははしょられたところがあって、この部分をもう少しそれぞれがどういうインチキをしたのかというような笑いどころの部分をたっぷりと演じたらより面白くなったのにとそこが残念。「竜宮物語」「桃太郎鬼ヶ島外伝」はやめて、後半の2本をたっぷりとやったらと思うのだが、青い石の縁起としてはこの部分も必要なのだろうと思うと苦慮されるところだ。

新春浅草歌舞伎第一部@浅草公会堂

新春浅草歌舞伎第一部@浅草公会堂

第一部お年玉<年始ご挨拶>
一、義経千本桜よしつねせんぼんざくら 鳥居前
二、元禄忠臣蔵げんろくちゅうしんぐら
御浜御殿綱豊卿

第二部お年玉<年始ご挨拶>
一、操あやつり三番叟さんばそう
双蝶々曲輪日記
二、引窓ひきまど
銘作左小刀
三、京人形きょうにんぎょう

「第一部」だけを見たが諸事情で「義経千本桜よしつねせんぼんざくら 鳥居前」は見られず、「元禄忠臣蔵げんろくちゅうしんぐら 御浜御殿綱豊卿」のみの観劇となった。「元禄忠臣蔵」といえば「大石最後の一日」として知られる部分は見た記憶があったが、「御浜御殿綱豊卿」は初めて見た*1 。地味な演目だと思いそれほど期待していなかったのだが、これが綱豊を演じた尾上松也のことのほか堅実な演技と相俟ってとても好印象な初芝居となった。

元禄忠臣蔵は、新歌舞伎の演目で劇作家真山青果作。昭和9年2月に最終の第10編『大石最後の一日』が初演されたのを皮切りに、昭和16年11月に第8編『泉岳寺の一日』が初演されるまでの7年間に、計10編11作が上演された。 (ウィキペディア)

 尾上松也は今回の「新春浅草歌舞伎」では座頭的な位置づけ。若手では人気のある方だが、今後一枚看板としてやっていけるのかどうかという試金石がこの「新春浅草歌舞伎」だろう。テレビのFNS歌謡祭で見て歌がうまいことには感心させられたのだが、正直言ってこれまで何度か見た舞台では演技が軽い感じがつきまとい、あまり好印象を持ってはいなかった。
 ところが今回の「元禄忠臣蔵げんろくちゅうしんぐら 御浜御殿綱豊卿」 は綱豊を重厚な演技で体現し、そうした評価を塗り替えるのに十分な存在感を見せてくれた。
 

*1:このページの過去記事検索で調べてみたら2010年7月「関西・歌舞伎を愛する会・七月大歌舞伎」@大阪松竹座で見ていたことが分かった。仁左衛門が綱豊を演じたがこれといった印象がないのは、仁左衛門なら似合った役という以上の印象がなかったせいであろう。

ゆく桃くる桃!第1回ももいろ歌合戦 ももクロカウントダウンライブ完全生中継

ゆく桃くる桃!第1回ももいろ歌合戦 ももクロカウントダウンライブ完全生中継


蒼い星くず

ももクロカウントダウンライブ「 ゆく桃くる桃!」は2部構成で、第1部は大物を含むゲスト歌手を招いての「第1回ももいろ歌合戦」、第2部はダウンタウンももクロバンド(DMB)も入ってのももクロのガチンコライブでこの途中で夏菜子のエビ反りジャンプでのカウントダウンが入った。

ここでは詳細を説明することはしないがももクロと彼女らを率いる川上アキラはデビュー以来ずっとこの芸能界を支配する「大人の事情」で総称されるような何かと戦い続けてきた。今回の「第1回ももいろ歌合戦」はおそらく、ももクロ紅白歌合戦から正体不明の落選ではじき出されて以来考えられていたもので、これまでのももクロの活動の集大成とでも言っていいものだった。

 ももクロには何の後ろ盾もないが、そうした中で生き残っていくための最大の戦略は個人と個人とのつながりであり、今回ももいろ歌合戦にはさだまさし加山雄三氣志團田中将大小林幸子らが参加したが、これらはすべて個人と個人の信頼関係で参加してくれたのだ。

 考えてみれば横浜アリーナ2DAYS(2012年)で1日目2日目と内容をガラリと変え、1日目「ももクロ春の一大事2012 〜ももクロ☆オールスターズ〜」には通常はアイドルグループが招くことはありえないようなベテランミュージシャン・芸人(ザ・ワイルドワンズ青空球児・好児横森良造)を招き、昭和的なバラエティー要素満載のステージを展開。翌日は一転して「ももクロ春の一大事2012 〜見渡せば大パノラマ地獄〜」と題して円形ステージでのガチンコライブを敢行したが、今回の第1部「第1回ももいろ歌合戦」、第2部「ももクロカウントダウンライブ」の2部構成は数段グレードアップした水準において、6年弱の年月を経て、この時やろうとした「アーティストとしての振り幅を見せる」(佐々木敦規)という演出意図を再び実行したものだ。

 さらに言えばメンバーも次々入れ替わってしまうから、ファンとアイドルという関係以外にはなりにくい女性アイドルグループにおいて、そうではない関係性を培ってきたのがももクロの特色で、しかもそれを1回性のものとはせずに一度培った関係は次へとつなげる。実は今回参加してくれたアーティストの中には本格的な共演はこれが初と言う人(指田フミヤ、大黒摩季米良美一水前寺清子)もいたわけだが、例えば大黒摩季ももクロとのコラボを気に入ってくれて「曲を提供したい」と言ってくれたことなど、例え本人に若干はサービストーク的な意味合いがあったとしてもももクロ陣営は絶対に聞き逃さないはず。水前寺清子が「これは5回、10回と続けていくことが大事」と言ってくれたことなどは今回の最大の収穫だと思う。
一方で10代に人気の井上苑子や演歌系の新人の塩乃華織も参加したが、彼女たちは今回は紅白に選ばれていないが、今後いつお呼びがかかってもおかしくない存在だろう。
今回は矢口真里森口博子、松本明子ら地上派テレビではバラエティータレントとしてしか遇されていない元アイドルにフル尺で持ち歌を歌わせたのはよかったと思う。「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~2015ver.」でアニソンの歌い手としての貫禄を見せつけた森口博子はもちろんよかったが、この日の白眉と思わせたのは矢口真里ももクロのメンバー3人を従えて歌い踊った「恋愛レボリューション21」。人気アイドルグループの看板メンバーだった実力はだてではないと見せ付けた。もともとモー娘。の熱烈なファンでもあった3人も一緒に出来た嬉しさが伝わってくるパフォーマンスだった。
 ももいろ歌合戦についてテレビ関係の仕事をしている知人は所詮あれはお遊びで「紅白歌合戦」のパロディーだからというようなことを話していて、彼の考え方が全てではないだろうけれど「テレビ関係者の反応はやはりその程度なんだな」という点では予想通りだった。
とはいえ、私は今回のももいろ歌合戦はももクロ陣営が現在できる範囲で「私たちの考える紅白歌合戦」を体現させてみたものであり、けっして紅白のパロディーではないと思う。
東京03角田晃広を出演させた前半はともかく、後半は紅白歌合戦を何度も経験しているベテラン勢が並ぶ。そんな中でも本人が歌いたい歌をフル尺でとのコンセプトもあり、紅白では絶対に歌うことがないであろう「存在理由」を小林幸子が、ラップ版の「蒼い星くず」をももクロサイプレス上野らを擁して加山雄三が歌うというのはももいろ歌合戦だからこそできたことだろう。
ももいろ歌合戦はほぼ明確に「NHK紅白歌合戦」に喧嘩を売っていたけれど、一方でももクロカウントダウンイベント終了後すぐにさだまさしが「朝まで生さだ」を収録中の両国国技館に向かいNHKの同番組に出演、リハなし生歌で「走れ!」を披露した。ももクロが理不尽な理由ではじき出された現体制での紅白歌合戦とは一線を引きながら、NHKと喧嘩するわけではないと明確化したのはよかったと思う。現に夏菜子の朝ドラ出演に続き、1月5日開始のNHKドラマ「女子的生活」では玉井詩織が主人公の友人役で出演するわけだし、「グレートトラバース 3」には引き続き応援団的な役割で出演。すでに収録済みのJ-MELOライブも来月にはNHKワールドほかで放送される予定で、NHKとの関係自体が疎遠になっているわけではないからだ。ここから先は単なる憶測にすぎないが、紅白復帰はともかくとしてJ-MELOライブやMTVアンプラグドなどの実績を武器にしてももクロが次に標的としているのは「SONGS」じゃないかと思う。この番組これまでアイドルはほとんど出演したことがなく、しかも製作総括がももクロを紅白が紅白から外れた年に紅白の担当だった人じゃないかと思うので、大きなハードルはあるはずだが。

 


概要
パシフィコ横浜国立大ホールから3年連続でももいろクローバーZカウントダウンライブ完全生中継!海側ロビーでのガチンコ3・栗本柚希無料コンサートも夜7時から独占中継

「ゆく桃くる桃へのカウントダウンコンサート」ガチンコ3愛来鈴木萌花・雨宮かのん・栗本柚希・コアラモード・奥澤村はちみつロケット


<内容>
ももいろ歌合戦出演ゲスト=井上苑子大黒摩季加山雄三氣志團小林幸子サイプレス上野ロベルト吉野・指田フミヤ・さだまさし・塩乃華織・水前寺清子・松本明子・米良美一森口博子ももいろクローバーZ田中将大東京03飯塚悟志



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第1回ももいろ歌合戦

ももクロ
01. サイプレス上野とロベルト吉野「ぶっかます」
02. ももいろクローバーZ「何時だって挑戦者」
03. 塩乃華織「イエスタディにつつまれて」
04. 松本明子 with れにメイツ「♂×♀×KISS」
05. 指田フミヤ & Kanakoo「花になれ」
06. 大黒摩季 feat. ももいろクローバーZら・ら・ら
07. 小林幸子「存在証明」
08. 加山雄三 feat. ももいろクローバーZサイプレス上野とロベルト吉野「蒼い星くず」

田中将大
01. 氣志團「乙伝説 ~月末ビンボー ももいロックンローラー乙のテーマ~」
02. 井上苑子「だいすき。」
03. 角田晃広東京03)「ろくなもんじゃねえ」
04. 森口博子「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~2015ver.」
05. 矢口真里 with 佐々木彩夏玉井詩織高城れに恋愛レボリューション21
06. 米良美一 & TeddyLoid with 有安杏果もののけ姫 2018 feat.米良美一
07. さだまさし feat. ももいろクローバーZほか「たくさんのしあわせ」
08. 水前寺清子「いっぽんどっこの唄」

・オールキャスト「三百六十五歩のマーチ
ももクロカウントダウンライブ with ダウンタウンももクロバンド」

01. 仮想ディストピア
02. 行くぜっ!怪盗少女(曲途中でカウントダウン)
03. ゴールデンヒストリー
04. 夢の浮世に咲いてみな(KISSポール・スタンレー、ジーン・シモンズの応援メッセージに呼応)
05. BLAST!
06. 走れ! -Z ver.-
07. Z女戦争
08. MOON PRIDE
09. 天国の名前
10. サラバ、愛しき悲しみたちよ布袋寅泰の応援メッセージに呼応)
11. 今宵ライブの下で
12. 白金の夜明け