下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

不思議少年「地球ブルース」@こまばアゴラ劇場

不思議少年「地球ブルース」@こまばアゴラ劇場

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作・演出:大迫旭洋

熊本地震の朝。小学校の校庭で。
ボランティアの方がお肉を焼いていました。
「お肉は一人一枚でお願いします!」
行列が出来るなか、先頭に並んでいたおばあちゃんは、
一人でお肉を何枚も何枚も紙皿に取っていました。
誰もかける言葉を持っていませんでした。

「恥ずかしい」
頭の中に一瞬、浮かんできた言葉です。
その正体は何なのか、考えてみたいと思います。

恥と衝動の振り子の狭間で、
死ぬまで生き続ける人間たちのブルース。
熊本からお届けいたします。
2009年結成。熊本を拠点に活動中。
創作のテーマは「笑いとせつなさと再発見」。
観る人の心に潜り込み、どこか懐かしくて愛しい景色を呼び起こす。
短編演劇コンクール「劇王 天下統一大会2015」で全国優勝、
日本演出者協会「若手演出家コンクール2014」で優秀賞と観客賞を受賞。
分かりやすさと、演劇の楽しさを存分に持つ作品によって、圧倒的な支持を集めている。
今、九州のみならず、全国へと活動の場を広げている劇団。


出演

磯田渉 大迫旭洋 森岡光 オニムラルミ(劇団きらら)

スタッフ 舞台監督・美術:森田正憲((株)F.G.S.)
音響:松隈久典((株)サウンド九州)
照明:入江徹((株)松崎照明研究所イン九州)
宣伝美術:伊井三男(転回社)
制作:森岡
制作補助:古殿万利子(劇団きらら)
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

不思議少年は熊本県に本拠地を置く設立10年目を迎える劇団。静岡市のストレンジシードで野外での公演で小品を見たことはあったが、本公演を見るのは初めてだ。
 森岡光ら中心となる俳優には演技力もあり、実力のある劇団とは感じたが、正直言ってこういうのが一番評価が難しい。コンテンポラリーアートについていえば単純な作品のクオリティー以上に作品のコンテキストが決定的に重要だ。現代演劇として東京の演劇はポスト「現代口語演劇」(平田オリザ)、ポスト「チェルフィッチュ」(岡田利規)、ポスト「ままごと」(柴幸男)の前提のもとに自分の作品の立ち位置を決定していると言ってもいいが、不思議少年はそういう文脈から完全に外れているように見える。
 ひょっとしたら東京の若い現代演劇ファンから見ればこれに似た作風の演劇はあまり見かけることがないため、新しいと感じるかもしれないが、30年以上も現代演劇(小劇場演劇)を見てきたものからすればファンタジー風味のSF的趣向に演技面での遊びを混淆したような今回の「地球ブルース」のような作品は以前(特に80年代)には見られ、時代とともに淘汰されていったもので、どうしても既視感があるのだ。とはいえ、この劇団は設立が10年前ということから、それを真似したというより独自にそうしたスタイルに辿りついたのだろうとは思う。
 それでもそれをあまり評価しにくいのは単なるスタイルの相違というだけではなく、これは90年代に平田オリザや彼と同年代の作家たちが見据えた「演劇におけるリアルとは何か」ということへの意識を共有していないように思われるからだ。つまり、この舞台には「演劇への疑い」が微塵も感じられないからだ。
 平田オリザ的な群像会話劇に組するにせよ、反発するにせよ、それぞれがどういうスタイルをとっているにせよ、演劇あるいは演技への疑いがなく演劇という行為自体を無前提に肯定しているような表現を私は「現代演劇」と見なすことは困難なのだ。そして、この舞台にそれは感じられない。とはいえ、そういうことは日本のごく一部の現代演劇(東京と京都の一部)のみが前提としてきたことともいえる*1
 判断の価値基準が面白いかそうでないかということであれば、面白い演劇と評価できないこともなく、過去に参加したフェスなどで一定以上の評価を受けてきたことにはそういう評価軸の違いなどもあるのかもしれない。地方を拠点に活動してきた劇団私が述べたような問題群を共有することを期待すること自体が無理なことであることは分かってはいるが、どうしても評価としてはそうなってしまうのだ。

*1:大阪の劇作家などはそういう前提を共有していないと感じさせることが往々にしてある

HTB50周年記念ドラマ「チャンネルはそのまま!」@NETFLIX

HTB50周年記念ドラマ「チャンネルはそのまま!」@NETFLIX

ドラマ「チャンネルはそのまま!」第4回までNETFLIXで見た。総監督の本広克行、地元の名物番組「水曜どうでしょう」のスタッフ陣、ももクロのライブ演出を手掛ける佐々木敦規らに加え、主演に芳根京子と記念番組とはいえ、1地方局の番組とは思えぬほどの陣容がそろい、内容も面白い。伝説の「バカ枠」で採用されたという天然娘「雪丸花子」を演じる芳根京子のはじけっぷりが素晴らしい。

平成の舞台芸術30本 「東京ノート」「三月の5日間」「わが星」……

平成の舞台芸術30本   「東京ノート」「三月の5日間」「わが星」……


TOKYO NOTES
新聞社の企画した「平成の30冊」*1が話題になっているようだ。新たな時代(令和)を迎える前の総括として舞台芸術でも「平成の舞台芸術30本」を試みた。ダムタイプ「S/N」をどうしても入れたいため、「演劇」ではなく「舞台芸術」というくくりにしたが、30本を選んでいった最後の方では選びきれないものが続出して思わず後悔した。選び終わった直後に惑星ピスタチオ「破壊ランナー」を入れ忘れているのに気がついた。こっそり何かを外して入れ替えようかと思ったが、それも忍びないので泣く泣く諦めた。まだまだ、入れ忘れているものがあるかもしれないが、それは容赦してほしい。

 順不同とは書いたが、最初の方で挙げた10本ぐらいは何度選んでも動かないところだろう。平成は1989年から始まるが、94年に上演された平田オリザ東京ノートはつい最近も若手劇団による独自の解釈による上演がなされ賛否両論となった。岸田國士戯曲賞を受賞した平田の代表作。現代口語演劇の典型だが、類似の群像会話劇が相次ぎ登場することで、野田秀樹鴻上尚史らの作ってきた80年代演劇の流れを一変させた。こうした群像会話劇を私自身は「関係性の演劇」*2
と名づけたが、リストの中では松田正隆「月の岬」長谷川孝治弘前劇場「家には高い木があった」、はせひろいち(ジャブジャブサーキット)「非常怪談」がこうした系譜に入る作品だ。この他にも宮沢章夫岩松了土田英生らが重要な作家だが、この1本を選びにくかったなどの理由もあり、今回の「舞台芸術30本」では漏れてしまった。

公演ダイジェスト:「月の岬」 | SPIRAL MOON


 一方では90年代は大規模野外劇でダンスと音楽、演劇を総合した維新派やダンスパントマイムによる群像劇を駆使して人類の進化や滅亡への予感などを描き出した上海太郎舞踏公司、マルチメディアパフォーマンスの嚆矢といえるダムタイプなど世界でも類のない独自性の高いパフォーマンスも生み出し、これらの集団は海外でも高い評価を受けた。この本拠地が京都、大阪といずれも関西であったのも特筆すべきことであろう。

Dumb Type - S/N


維新派 - ishinha - 『呼吸機械』 CMムービー

 ケラリーノ・サンドロヴィッチナイロン100℃松尾スズキ大人計画いのうえひでのり劇団☆新感線などエンターテインメント性と芸術性を高度な水準で融合させた劇団が登場してきたのも90年代のもうひとつの動きだ。ケラと松尾は選ぶべき水準に達した作品が数多くあり、どの作品を選ぶかは苦渋の選択だった。それぞれ「1979」「カメラ≠万年筆」、あるいは「愛の罰」「ふくすけ」なども好きな作品だが、個人的な思い入れもあって「カラフルメリィでオハヨ」「ファンキー!」を選んだ。
 平田らが作った現代口語の群像劇の流れは90年代の主流となっていき、2000年代に入ってもポツドール「愛の渦」、渡辺源四郎商店「月と牛の耳」などの後継を呼んだが、こうした流れを切断し現代演劇の流れを大きく変えたのがチェルフィッチュ「三月の5日間」岡田利規)と東京デスロック「再生」チェルフィッチュの「三月の5日間」は役と俳優の乖離、東京デスロックの「再生」は身体に負荷をかける演出の導入でポストゼロ年代演劇への道を開いた。

チェルフィッチュ「三月の5日間」

 そうした流れはミクニヤナイハラプロジェクト「3年2組」やついにはひとつの到達点として表れ、それ以降の演劇に大きな影響を与えたままごと「わが星」の登場へとつながっていった。

『わが星』オープニング

東京ノート 青年団
三月の5日間 チェルフィッチュ
呼吸機械 維新派
S/N ダムタイプ
ダーウィンの見た悪夢 上海太郎舞踏公司
月の岬 青年団プロデュース(松田正隆)
わが星 ままごと
3年2組 ミクニヤナイハラプロジェクト
家には高い木があった 弘前劇場
天守物語 ク・ナウカ

再生 東京デスロック
カラフルメリィでオハヨ ナイロン100℃
ファンキー! 大人計画
阿修羅城の瞳 劇団☆新感線
じゃばら 遊気舎
非常怪談 ジャブジャブサーキット
サマータイムマシン・ブルース ヨーロッパ企画
愛の渦 ポツドール
耳をすませば シベリア少女鉄道
It was written there 山下残

Finks レニ・バッソ(北村明子)
四谷怪談 木ノ下歌舞伎
娘道成寺 きたまり(木ノ下歌舞伎)
フリル(ミニ) 珍しいキノコ舞踊団
夢+夜~ゆめたすよる~ 少年王者舘
あの日々の話 玉田企画
月と牛の耳 渡辺源四郎商店(弘前劇場)
郷愁の丘ロマンピア 劇団ホエイ
夕景殺伐メロウ デス電所
スチュワーデスデス クロムモリブデン

(順不同、同一作家は2本選ばず)

坂崎幸之助のももいろフォーク村 第94夜「行く春来る春」@フジテレビNEXT

坂崎幸之助のももいろフォーク村 第94夜「行く春来る春」@フジテレビNEXT

03/13(水) 19:00~21:00

ももいろクローバーZTHE ALFEE坂崎幸之助ダウンタウンももクロバンド宗本康兵音楽監督加藤いづみ佐藤大剛・竹上良成・朝倉真司・鈴木康博(exオフ・コース、オトナゲスト)

M01:HERO (ももくろちゃんZ/ももくろちゃんZ)
M02:spart! (高城れに高城れに)
M03:じれったいな (高城れに高城れに)

M06:田園 (シオコウジ=しおりん&村長/玉置浩二)
Go! Go! GUITAR GIRLZ
M07:一億の夜を越えて (いづみさん&鈴木康博さん/オフコース)M04:誰もいない海 (夏菜子&あーりん/トワ・エ・モア)
M05:糸 (夏菜子&れに/中島みゆき)
M08:素敵にシンデレラ・コンプレックス (夏菜子&鈴木康博さん/郷ひろみ)
M09:ロンド (あーりん&鈴木康博さん/オフコース)
M10:幻想 (れにちゃん&鈴木康博さん/オフコース)
M11:でももう花はいらない (しおりん&鈴木康博さん/オフコース)
M12:のがすなチャンスを (ももクロ鈴木康博さん/オフコース)
M13:水曜日の午後 (村長&鈴木康博さん/オフコース)
M14:コンニチハ貴き故郷 (鈴木康博さん/鈴木康博)
M15:七色のスターダスト (ももクロ鈴木康博さん/3Bjunior)
M16:行く春来る春 (ももクロももクロ)
M17:Link Link (ももクロももクロ)
M18:デイ・ドリーム・ビリーバー(村長&鈴木康博さん/モンキーズ)

冒頭からはいろいろ企画物の連発。まずももくろちゃんZとしまじろうの映画主題歌「HERO」テレビ初披露(ニュースで一部披露と「MUSIC FAIR」収録はあり?)。このレベルになると安心安定のももクロももクロちゃんZだが……)である。
 れにちゃんソロ曲もソロコンに比べると緊張があるとはいえ、こなれてきた感じである。
 そして続く2曲「誰もいない海」 (夏菜子&あーりん/トワ・エ・モア)と「糸」 (夏菜子&れに/中島みゆき)がこの日のハイライトといえるかもしれない。ドラマでもつばさ役としてギターを弾き、土屋太鳳と一緒にギターの弾き語りでトワ・エ・モアの「誰もいない海」を歌っているのだけれど、ギター演奏は番組側が指導者をつけたとばかり思っていたのだけれどおそらくスタダ側が佐藤大剛にコーチを頼んでいたというのにびっくりした。そうなると歌唱指導がどうなっていたのかが気になるところだ。さすがにそこはドラマのメインとなるところなので読売テレビ側が用意した専門家が指導したと信じたいのだが。
 フォーク村では土屋太鳳の代わりにあーりんがデュオの相手役に入ったが、なかなか良かったのではないかと思う。とはいえ、この日は百田夏菜子の歌の安定感が際立っていた。確かに先日のソロコンを見ても高城れにの歌の面での進歩は素晴らしく、ももクロのエース格といえる存在に育ちつつあるが、夏菜子とデュエットした「糸」などを聞いてみるといい歌を聞かせるけどところどころ不安定なところもあると感じさせるれにに対し、夏菜子の歌からは抜群の安定感と余裕を感じた。郷ひろみをカバーした「素敵にシンデレラ・コンプレックス」もまるで自分の持ち歌のように歌っていた。この歌もそうだが、夏菜子の場合、アイドル的な要素を持つ男性アイドルの歌との親和性が極めて強く、男前ぶりは際立って感じられる。この歌もそうした夏菜子の良さが存分に発揮できていた。
 一方、楽器演奏を武器にももいろフォーク村のエースだった杏果に代わる新エース的な地位を築きつつあるのが、玉井詩織だ。以前は歌が不安定だったのだが、それがギターを弾きながら歌うと悪癖のフラットとかが自然と解消されているのはなぜなのか。平田オリザが演出で演技に集中しすぎると時に演技がぎごちなくなるのが、意識の分散ということで意識の一部を演技(この場合は歌)に分散させていくと自然さが増していくというのがあるのだが、玉井詩織の場合もそういうことが起きている可能性がある。特に安定感を感じるのが坂崎幸之助とのフォークデュオ「シオコウジ」。この日は2人のギター弾き語りで玉置浩二の「田園」を歌ったが、いいバランスのデュオだったと思う。詩織の声はこういう時に相手が男性であっても女性であっても、ハモでもユニゾンでも一緒に歌う相手の邪魔にならないのがとてもいい。ソロなどの場合はともすればそっけなさ過ぎると感じることも往々にしてあるが、デュオやグループでは相当な武器になる。さらに言えばこの日一番感心したのは上のセットリストでは村長&鈴木康博とクレジットされている「デイ・ドリーム・ビリーバー」(モンキーズ)にギター演奏で参加していたのだが、英語楽曲であるにも関わらず最初は少し口ずさむ程度だったのが、コーラスで参加していたことだ。こういうのは今までは杏果ぐらいしか出来なかったことだし、メンバーの中でも英語はかなり得意なので今後も挑戦を続けて、坂崎幸之助が企画しているBeatles関連ライブ*1にいつか参加できることを目標にしていったらいいのではないか。
 

 

*1:先日Dear BEATLESというBEATLESカバーライブを見に行った。これは60~70代のレジェンド的バンドメンバーがセッションしてビートルズの曲をアルバムどおりの順番で歌っていくというもの。毎回若い女性シンガーが参加するが、演奏も歌唱も相当以上にレベルが高かった

松原俊太郎の戯曲「山山」に岸田戯曲賞

松原俊太郎の戯曲「山山」に岸田戯曲賞

第63回岸田國士戯曲賞の選考会が13日行われ、松原俊太郎の戯曲「山山」が受賞作に選出された。

岸田國士戯曲賞白水社が主催する戯曲賞。今回の選考委員は岩松了岡田利規ケラリーノ・サンドロヴィッチ野田秀樹平田オリザ宮沢章夫柳美里の7人。

授賞式は4月23日18:00より学士会館にて。受賞者には正賞として時計、副賞として20万円が贈られる。

関連する特集記事

第63回岸田國士戯曲賞最終候補作品

坂元裕二「またここか」(リトルモア刊)
・詩森ろば「アトムが来た日」(上演台本)
瀬戸山美咲「わたし、と戦争」(上演台本)
・根本宗子「愛犬ポリーの死、そして家族の話」(上演台本)
古川日出男ローマ帝国三島由紀夫」(「新潮」2018年10月号掲載)
・松原俊太郎「山山」(「悲劇喜劇」2018年7月号掲載)
・松村翔子「反復と循環に付随するぼんやりの冒険」(上演台本)
・山田百次「郷愁の丘ロマントピア」(上演台本)

※作者五十音順。

個人的には2018年演劇ベストアクト*1に選んだ山田百次(劇団ホエイ)の「郷愁の丘ロマントピア」に取って欲しかったが、今回は残念。受賞作の「山山」については地点による上演は観劇しているが、あまりピンと来なかった。ただ、この上演に関しては元戯曲と上演台本はかなりかけ離れたものらしい。
 一方、話題にするにはまだ早いけれど今年はもし連続ノミネートとなれば松村翔子(モメラス)の『28時01分』はとてもいい作品だ。少なくとも今回の候補作よりは数段上ではないかと思っている。次は有力。山田百次の次回作にも期待したい。

ナショナル・シアター・ライブ「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」@吉祥寺オデヲン

ナショナル・シアター・ライブ「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」@吉祥寺オデヲン

NTL 2017 Who's Afraid of Virginia Woolf


原題:Who's Afraid of Virginia Woolf?

上演劇場:ハロルド・ピンター劇場(ロンドン)

収録日:2017/5/18 

作:エドワード・オールビー

演出:ジェームズ・マクドナルド

出演:イメルダ・ストウントン、コンレス・ヒル、イモジェン・プーツ、ルーク・トレッダウェイ

作品概要:ピュリツァー賞に3度輝いたアメリカの劇作家エドワード・オールビー(1928―2016)の1962年初演作。ある晩、大学教授のジョージと学長の娘マーサという中年夫婦のいがみ合いに、客人である若い新任教授とその妻が巻き込まれ……。イメルダ・ストウントン(『フォリーズ』)ら実力派キャスト4人が、激しい言葉の応酬を通し“夫婦”の赤裸々な姿を描き出す。『夜中に犬に起こった奇妙な事件』のルーク・トレッダウェイも出演。


バージニア・ウルフなんかこわくない(字幕版) (プレビュー)

パーティ帰りの真夜中、新任の夫婦を自宅に招いた中年の助教授夫妻。やがて激しい罵り合いが…幻想にすがる人間の姿、赤裸々な夫婦関係を描く「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」。

早川書房の文庫本の解説では上記のように書かれているが、これはエリザベス・テーラーリチャード・バートンによる映画版がきわめて有名だが、リズ・テーラーのことを単なる美人女優と勘違いしていた人は夫婦の丁々発止のやりとりに驚嘆することになった。
日本でも大竹しのぶ段田安則出演、ケラ演出によるシスカンパニー版(2006年上演)が話題を呼び、今年4月に再演が予告されていたが、事情により上演ができず、演目さしかえとなっている。
 ナショナルシアターライブの上演はどうかというと女性の方のイメルダ・ストウントンがこの舞台でオリビィエ賞にノミネートされたことでも分かるように、演技派舞台俳優4人のやり取りは相当に見ごたえがある。幕間の解説で舞台美術について劇中に登場するボクシングに準えて、中央部のカーペットの部分をリングに見立てているとあったが、劇中でコンレス・ヒル演じる助教授が何度となく「イッツ・マイターン(私の番だ)」と繰り返すことと、登場人物の言い合いがクルクルと攻守ところを変えるような構造からして、作者が全体の構造で準えているのはアメフトではないかと考えたのだが、どうなんだろうか。

小松台東”east”公演「仮面」@新宿眼科画廊 スペース地下

小松台東”east”公演「仮面」@新宿眼科画廊 スペース地下

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2019年3月8日(金)−12日(火)

それぞれ 隠していること。
そして 居場所について。
    
【作・演出】松本哲也
【出 演】
瓜生和成 今村裕次郎 小園茉奈
ナイロン100℃)廣川真菜美 松本哲也

 小松台東はこれまで松本哲也のひとりユニットだったのだが、今回の公演から瓜生和成、今村裕次郎、広川真菜美の3人が正式に劇団メンバーに加わり、新体制でスタートすることになった。体制一新に伴いこれまでのような宮崎弁(方言)を使った群像会話劇ではない作風も新たに試みることにした。今回の「仮面」はその第一弾である。
「仮面」が面白いのは狭い地下空間という新宿眼科画廊スペース地下の空間的特性を生かしたサイトスペシフィックな舞台となっていること。
 劇場空間に入場すると舞台への作品アンケートと一緒に「恩赦の請求についてのアンケート」が挟み込まれていて、ここが天皇の代替わりに伴う恩赦を希望する人たち向けの説明会の会場となぞらえていることが分かる。
 開演前の前説が説明会の開始前の案内のように始められた後で、遅れた観客が入ってくるが、それは本当の観客ではなく、俳優であり、実際にはもう舞台は始まっている。ほかの出演俳優もすでに観客に混ざり込んで、会場の壁際でアクティングエリアとなる中央の空間を取り囲んでいる観客に混じって観客席に座っており、小松台東の出演俳優は以前にも公演を見たことがあるので、それと分かるが、少なくとも最初の方は本当の観客か、出演者の区別が難しいほどである。
 

小田尚稔の演劇「是でいいのだ」 “Es ist gut”@三鷹SCOOL

小田尚稔の演劇「是でいいのだ」 “Es ist gut”@三鷹SCOOL

脚本・演出 小田尚稔

出演 串尾一輝、善長まりも、橋本清、南香好、渡邊まな実

公演日程

2019年3月7日(THU)-3月11日(MON) [全9回公演を予定]

3/7 (THU) 19:00-
3/8 (FRI) 14:00- /19:00-
3/9 (SAT) 14:00- /19:00-
3/10 (SUN) 14:00- /19:00-
3/11 (MON) 14:00- /19:00-

※上演時間は約2時間20分程度を予定しております(途中5分程度の休憩が御座います)。

チケット料金

全席自由席・日時指定
予約2800円 当日3300円 学生2500円

※初日の回は、割引価格の予約2500円、当日3000円でご覧頂けます。

_「『三月のあの日』、、『東南口』のマクドナルドにいた」
_登場人物のひとりである女は、就職活動の面接の前によった新宿のマクドナルドで被災する。電車が動かないので、徒歩で家がある国分寺まで帰宅しようとする。中央線沿いを歩く最中、女は、当時のさまざまな風景をみて、その様子を回想する。歩き疲れて夜空の星をみながら、震源地からも近い実家に住む両親のことを想う。
_そのときにみた星空の様子は、カント (Immanuel Kant:1724-1804)『実践理性批判(Kritik der praktischen Vernunft)』の「結び」の一節、 「ここに二つの物がある、それは〔略〕感嘆と畏敬の念とをもって我々の心を余すところなく充足する、すなわち私の上なる星をちりばめた空と私のうちなる道徳的法則である」カント『実践理性批判』(岩波書店波多野精一・宮本和吉・篠田英雄訳、1979年、317頁)とともに語られる。

_2018年も自然災害が多い年でした。「是でいいのだ」の執筆当時、山下達郎さんの「希望というの名の光」を聴きながらその歌詞に着想を得たり、ウディ・アレンが日本の震災について語った文章などを読んだりして、脚本のイメージを膨らませたりもしました。
_本作では、2011年3月、震災直後の東京での出来事と、カントの思索との接続が狙いでもあります。ですので、登場人物は震災直後の東京の風景を語ります。こうした逆境を受け入れて克服することは、いつの時代でも普遍性があると思っています。
_今回の上演におきましても、あり難いことに素敵な出演者の方々が集まって下さいました。ご覧頂いたお客様の心のなかにいつまでも残り続けるような、いい上演になるように努めます。

※2019年1月1日より下記のURLよりご予約開始予定です。
_
◆ 「是でいいのだ」チケット予約ページURL
http://481engine.com/rsrv/webform.php?sh=2&d=04c7babceb

音楽:原田裕
映像撮影・編集:佐藤駿
宣伝美術:渡邊まな実
演出助手:久世直樹
制作協力:川本瑠
協力:犬など、グループ・野原、シバイエンジン、青年団、ブルーノプロデュース
企画・制作:小田尚稔

 あの日から8年。意識してこの日に観劇したわけではないけれど、特別な日にこの舞台を観劇することはそれでも様々な感慨があった。登場人物は全部で5人。劇中で出会って会話をしたり、カラオケに一緒に出掛けたりはするけれど基本的には全員がひとりぼっちの孤独な人間として描き出され、そうであることが震災との遭遇という稀有な出来事によってより強くあぶりだされる。
 今回の出演者は橋本清以外前回の出演者と入れ替わっているのだが、それぞれが「そういう人がいたかもしれない」と感じさせ、とてもいい。中でも串尾一輝演じる男の本当にせつない感じがいい。クリスマスの六本木の路上で前夫とよりを戻した女性に「もう会えない」と言われ、立ち尽くすその姿がいいようもなく良い。
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平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『忠臣蔵・OL編』Bチーム@こまばアゴラ劇場

平田オリザ・演劇展vol.6 青年団忠臣蔵・OL編』Bチーム@こまばアゴラ劇場

忠臣蔵・OL編』※A〜Cの3通りのチームで上演します。
【A】天明留理子 村田牧子 鈴木智香子 長野 海 中村真生 西山真来 立蔵葉子
【B】森内美由紀 黒木絵美花 石橋亜希子 田原礼子 川隅奈保子 永山由里恵 岩井由紀子
【C】松田弘子 村田牧子 村井まどか 本田けい 申 瑞季 南波 圭 立蔵葉子


「だからさ、こう討ち入り目指してく過程で、だんだん武士道的になっていけばいいんじゃないの、みんなが。」
平和ボケした赤穂浪士たちのもとに、突如届いたお家取り潰しの知らせ。
その時、彼らは何を思い、どのように決断したのか?
私たちに最も馴染み深い忠義話の討ち入り決断を、日本人の意思決定の過程から描いた、アウトローな『忠臣蔵』2バージョン。
*上演時間: 各約60分

Bチームの観劇で、3バージョンの公演観劇を完遂。つくづく感じたのは青年団の俳優陣、特に女優陣の層の分厚さである。とはいえ、劇団の本拠地の兵庫県豊岡市への移転にともない、現有の俳優陣が参加する青年団本公演はこれが最後かも知れず、そうした状況はある意味で、藩がとり潰しとなり、それぞれがそれぞれの判断で身の振り方を決めることになる赤穂浪士と重なって見えてくるところもあると考えるのはメタファーによる見立てを多用する平田オリザとは言え、うがちすぎであろうか?
simokitazawa.hatenablog.com

劇団青年座 第235回公演「SWEAT スウェット」@下北沢・駅前劇場

劇団青年座 第235回公演「SWEAT スウェット」@下北沢・駅前劇場

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 作=リン・ノッテージ
 翻訳=小田島恒志、小田島則子
 演出=伊藤大

 日程:2019年3月6日(水)~12日(火)

 会場:駅前劇場

 一般前売開始:1月24日(木)~
 青年座ユース優先予約:1月10日(木)~


2017年度・ピューリッツアー賞(戯曲部門)受賞作品、本邦初演。



あらすじ

全米で最も貧しい街の一つとされる。ペンシルバニア州レディング。
手厚い保障が受けられる限りは現状維持で構わないとするトレーシー。週末に飲んで馬鹿騒ぎ出来れば他に望みはないジェシー。今後のキャリアを考え管理職を目指すシンシア。
三人は長年、この街の同じ工場で働き、同じバーに通い続ける友人だ。
経済のグローバル化にともなう不況の波が押し寄せる中、会社は更なるコストダウンを目標に掲げ、メキシコへの工場移転を発表する。
それに対し組合はストライキを決行するが、反対に工場から完全に締め出され、賃金の安い移民に仕事を奪われてしまう。
管理者側と労働者側に分かれたことで脆くも崩れ去る三人の友情。街中に流れる不穏な空気。
その中で労働者たちの怒りはある移民の青年に向けられた―。

ラストベルト(錆びついた工業地帯)で働く労働者たちの2000年と2008年を切り取って、
極端な分断化が進む現代アメリカ社会のリアルに迫る。



スタッフ・キャスト

スタッフ

作 =リン・ノッテージ
翻訳 =小田島恒志 =小田島則子
演出 =伊藤大
美術 =長田佳代子
照明 =宮野和夫
音響 =長野朋美
衣裳 =岸井克己
映像 =猪爪尚紀
舞台監督 =今村智宏

製作 =紫雲幸一
=長尾敦

キャスト

トレーシー =松熊つる松
(ドイツ系白人/工員)
シンシア =野々村のん
(黒人/工員)
ジェシー =佐野美幸
(イタリア系白人/工員)
イーヴァン =山賀教弘
(黒人/保護監察官)
ジェイソン =久留飛雄己
(ドイツ系白人/トレーシーの息子)
クリス =逢笠恵祐
(黒人/シンシアの息子)
スタン =五十嵐明
(ドイツ系白人/バーテンダー
オスカー =松田周
(コロンビア系アメリカ人/バーの従業員)
ブルーシー=加藤満
(黒人/シンシアの元夫)

 米ペンシルバニア州で実際に起こった工場の労働争議と従業員の大量解雇を巡る悲劇をドキュメンタリータッチの演劇にした作品。ひねりがあまり感じられないというか、あまりにストレートな作劇にどうなんだろうと感じる部分はあるが、日本の社会問題を描く演劇の場合、作為が目立ちすぎることが多すぎて、さらにいえば政治批判や政権批判など作者の政治的な主張を盛り込みすぎていて、まるでリアルさが感じられないことが多く、参考にすべきかもしれない。