下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

あいらもえかふたり舞台@フジテレビマルチシアター

あいらもえかふたり舞台@フジテレビマルチシアター
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ともにアイドルグループ「アメフラっシ」のメンバーでもある愛来鈴木萌花によるギターデュオ「あいらもえか」の単独ライブ「あいらもえかふたり舞台」をお台場のフジテレビ1階にあるマルチシアターで見てきた。曲目はカバー曲である最初の2曲を除けばいずれも彼女らのオリジナル曲と言ってもよく、しかも愛来の方はギターを習い始めて7カ月程度でここまでギターを習得していることには驚かされた。
 ももクロもフォーク村やメンバーのソロコンなどの機会を通じて楽器の習得に取り組んできて、始めたころと比べると格段の進歩を見せてはいるのではあるが、すでに卒業してしまった有安杏果を除けばもともと音楽の素養があるとは言い難いため、現メンバーでは玉井詩織が一番器用で楽器も得意ではあるものの楽器の演奏と弾き語りの経験という意味ではあいらもえかはすでに玉井を凌駕していると言ってもいいかもしれないと思った。
 これはアメフラっシのパフォーマンスにも言えることだが、この二人はスタダのアイドルの中でも歌唱力はかなりあるほうだと思う。たが、表現者として重要なのはこの先で、彼女らと百田夏菜子に比べると楽曲に要求された声をコントロールして歌うというような技巧においては上かもしれないけど、その先の音楽を表現する力においてはまだまだ差がある。そしてその差は才能の差でもあるけど、夏菜子を見ていれば分かるように経験の積み重ねというのも大きな力を発揮する。
 この日のライブを見て感じたのは全体の中で一番パフォーマンスが、際立ってよかったのはダブルアンコールで、いずれもこの日2回目に演奏した「きょうの一日」など3曲が最初の演奏とは比べ物にならないぐらいよかったことだ。リラックスしていて、音楽を楽しんでいるように感じられた。
 音楽を楽しむという極致までいけることはあれだけ経験があるももクロでも稀にしかないことを考えればもちろん容易ではないことも確かだが、彼女らに恵まれた機会がチャンスとして与えられているのも稀なこと。今後どのような成長曲線を描くのか注目していきたい。
simokitazawa.hatenablog.com

オフィスコットーネ 改訂版「埒もなく 汚れなく」 @シアター711

フィスコットーネ 改訂版「埒もなく 汚れなく」 @シアター711

改訂版「埒もなく汚れなく」は2016年の読売演劇大賞上半期 作品賞・演出家賞・男優賞にノミネートされた作品を大幅に改訂して上演!

2009年、不慮の事故により48歳という若さで世を去った劇作家・大竹野正典さん。家族を持ち、会社勤めをしながら、意欲的な作品を創り続けました。亡くなるまでに大竹野正典さんは多くの優れた戯曲を遺しています。中でも最高傑作と評される最後の作品『山の声』(第16回OMS戯曲賞大賞)は、彼自身の思いがもっとも色濃く投影されている戯曲です。

本作、改訂版 『埒もなく汚れなく』では、この作品に至るまでの大竹野正典さんの軌跡を追いながら、演劇に憑かれた劇作家・大竹野正典と山に憑かれた登山家・加藤文太郎の重なる生き様を、瀬戸山美咲ならではの斬新な切り口で描きます。また、同時期に『山の声』の初演バージョンを上演致します2作品合わせてお楽しみ下さい!


CAST

西尾友樹(劇団チョコレートケーキ)
占部房子
柿丸美智恵
緒方 晋(The Stone Age)
福本伸一(ラッパ屋)
橋爪未萠里(劇団赤鬼)
照井健仁

「埒もなく汚れなく」は2009年、不慮の事故により48歳という若さで世を去った劇作家・大竹野正典の評伝劇である。改訂版ということだが、初演とはかなり趣きが変わり、大竹野がくじら企画の後半劇作が壁にぶつかり、それと呼応するように登山にのめり込んでいく様子、妻との葛藤、そしてその中から代表作となった「山の声」が生まれてくるまでにより一層焦点を絞りこんで描き出している。
 大竹野夫妻を演じる二人の俳優(西尾友樹、占部房子)の役作りにも一層深みがまして、ルックスが酷似してるということはないのに二人の背後から実際の二人の姿が浮かび上がってきた。
 作品自体の出来映えとは直接は関係ないのかもしれないのだが、生前の本人を知っているだけに最後の場面は万感の思いが込み上げてきて涙なくしては見られなかった。そしてそこに至る流れをよりスムーズに形作ってきたのは初演では本人を知る人間にとっては若干の違和感がなくもなかった広瀬泰弘、小堀純の姿がより説得力を持って造形されていたことだ。特に広瀬は以前関西で発行されていた演劇情報誌Jamciにともに劇評を執筆していた同志でもあり、高校教諭という本業を持ちながらも現在まで演劇評論の活動を続けている人物。本作にもあるように大竹野の高校時代からの親友でもあり、今回公演の当日パンフレットにも大竹野への思いがこもった一文を寄せてきている。劇中の広瀬(福本伸一)が大竹野の妻に大竹野作品について滔々と語る場面があり、ここが終盤の非常に印象的な場面となっている。作者の瀬戸山美咲によれば「参考にした文章はあるがあくまで作家としての創作」だというが、ここで話されていることは圧倒的に正しいと思うし、何より広瀬が言いそうなことなのである。その意味でこの作品は優れた大竹野正典論にもなっている。
 今回は伊丹アイホールでの上演も予定されており、初演は見ていない広瀬がどのような感想を抱くのかが楽しみだ。他にも関西には生前の大竹野を知る人たちが多数おり、そういう人にもぜひ見てもらいたい舞台となった。

坂崎幸之助のももいろフォーク村 第96夜「オトナゲスト玉井詩織」生誕祭@フジテレビNEXT

坂崎幸之助のももいろフォーク村 第96夜「オトナゲスト玉井詩織」生誕祭@フジテレビNEXT

05/9(水) 19:00~21:00

概要
ももいろクローバーZTHE ALFEE坂崎幸之助ダウンタウンももクロバンド宗本康兵音楽監督加藤いづみ佐藤大剛・竹上良成・松本智也!しおこうじ初ライブ!

<内容>
ももいろクローバーZ玉井詩織5度目の生誕祭!百田夏菜子佐々木彩夏高城れに加藤いづみ個人戦!評判が高かった「坂崎がアコギでTDF」新作生演奏!詩織×坂崎=しおこうじ初ライブ!スタプラから10か月ぶりのゲストあり!

セットリスト
坂崎幸之助のフォークギターアレンジによるももクロ楽曲集
M01:桃色空 (村長/ももクロ)
M02:しょこららいおん (村長&れに/高城れに)
M03:渚のラララ (村長&夏菜子/百田夏菜子)
M04:幸ちゃんとあーりんは反抗期! (村長&あーりん/佐々木彩夏)

Go!Go!GUITAR GIRLZ
M05:…愛ですか? (しおりん/玉井詩織)

M06:シングルベッドはせまいのです (しおりん&いづみさん/ももたまい)
M07:恋のフーガ (しおりん&あーりん/ももたまい)
M08:夜更けのアモーレ (ももたまい/ももたまい)
M09:Ring the Bell (しおりん&れにちゃん/ももたまい)
M10:涙目のアリス (しおりん&村長/ももたまい)

しおこうじファーストライブ(前座あいらもえか)
M11:僕の一日 (あいらもえか/あいらもえか)

しおこうじファーストライブ
M12:悲しくてやりきれない (しおこうじ/ザ・フォーク・クルセダーズ)
M13:ファイト! (しおこうじ/中島みゆき)
M14:ZOO (しおこうじ/ECHOES)
M15:田園 (しおこうじ/玉置浩二)
M16:Musician (しおこうじ/THE ALFEE)

M17:同じ月を見てる (ももいろフォーク村オリジナルソング)

 ももいろフォーク村の5・6・7月は例年メンバーの生誕祭の構成で、そのうち5月は玉井詩織の生誕祭となる。ここ最近はスターダストの後輩アイドルらを交えてのお祝い会の色彩が強かった。
 これに対しては一部ファンから「後輩アイドルなど出すな。ももクロしか見たくない」などの批判が出ていたことに若干の配慮もあったのか、今回は二部構成で一部は坂崎幸之助ももクロ、バンドメンバーのみ。第二部は坂崎幸之助玉井詩織によるギターデュオ「しおこうじ」のファーストライブというきわめてシンプルな内容。しおこうじのライブはフジテレビ内の小ホールに移動して、そこで行われたため、その移動時間を埋めるための時間稼ぎ的な演出で、後輩グループ、アメフラっシメンバーでもあるギターデュオ「あいらもえか」が登場し愛来作詞によるオリジナル新曲の「僕の一日」を披露したが、これはお祝い演出というよりあくまで「しおこうじファーストライブ」に対する前座的な位置づけであり、フォーク村の「原点回帰」の傾向はこの回も続いていたのかもしれない。
 とはいえ、玉井詩織のギターの弾き語り(5曲連続)へのプレッシャーは相当なものがあったようで、それは普段から弾き語りでの活動を継続してきた「あいらもえか」などとは比べ物にならないほどの緊張感が画面からでも伝わってきていた。あいらもえかの登場については番組中であーりんが番組上のつなぎでなどと言っていたらしいし、きくちP嫌いがいるアメフラっシのファンの中には「あいらもえかを前座扱いしやがって」などとディスる人も出てきそうだが、今回の二人のパフォーマンスのレベルはこの番組のゲストとして登場するシンガーソングライターやギターガールと遜色ないものだったし、彼女らを俎上に上げたのは「後輩もこのぐらいのことができるようになっているんだぞ」というアピールでももクロのメンバーに刺激を与えたいという意図もあったのことではないかと思う。もちろん、この二人はきくちPの秘蔵っ子であり、目をかけて手塩にかけて育ててきたこともあるので、後輩グループにあまり興味がないモノノフにもその存在をアピールしたいという気持ちがあるだろうことも確かだろうが。
 

映画「あの日々の話」@渋谷ユーロスペース

映画「あの日々の話」@渋谷ユーロスペース


映画『あの日々の話』 長井短つかみあいの大ゲンカ!?

傑作舞台の完全映画化『あの日々の話』ワンシチュエーション会話群像劇を語る!!活弁シネマ倶楽部#26

【ストーリー】

大学サークルの代表選挙を終えた現役生やOBら男女9人が、二次会を開こうとカラオケボックスに集まる。思い思いの曲を歌う中、席を外した女子のバッグからコンドームが出てきて、男子たちは興奮してしまう。会が終わろうとしていたとき、ある人物の一言が人間関係を壊すほどの騒動に発展する。


演出家の玉田真也が、自ら手掛けた演劇ユニット「玉田企画」の舞台を原作に撮り上げた異色の青春ドラマ。カラオケボックスに集う人々の関係が、次第に変化していく様子が描かれる。『たまゆらのマリ子』などの山科圭太、『ジェファソンの東』などの近藤強、『世界でいちばん長い写真』などの前原瑞樹をはじめ、高田郁恵、太賀、村上虹郎らが顔をそろえる。



【公開日】
2019年4月27日

【製作年】
2018年

【製作国】
日本

【上映時間】
100分

【制作】
MOTION GALLERY STUDIO

【製作】
映画「あの日々の話」製作委員会

【配給】
SPOTTED PRODUCTIONS

【原作・監督・脚本・企画】
玉田真也

【企画】
山科圭太

【エグゼクティブプロデューサー】
大高健志 / 足立誠 / 市橋浩治

【プロデューサー】
鈴木徳至

【撮影】
中瀬慧

【照明】
玉川直人

【音響】
黄永昌

【美術】
濱崎賢二 / 福島奈央花

【助監督】
川田真理

【衣裳】
根岸麻子

【編集】
冨永圭祐

【スチール】
小野寺亮

【出演】
山科圭太
近藤強
木下崇祥
野田慈伸
前原瑞樹
森岡
高田郁恵
菊池真琴
長井短
小林未歩
今野誠二郎
那須愛美
平田理奈
深澤しほ
玉田真也
吉田靖
太賀
村上虹郎

青年団演出部所属の気鋭の若手劇作家・演出家、玉田真也(玉田企画)が自らの代表作である「あの日々の話」を初監督で映画化。青年団演出部およびその周辺には『淵に立つ』がカンヌ映画祭の「ある視点部門」で審査員賞を受賞した深田晃司岸田戯曲賞受賞作家の前田司郎ら映画製作にもかかわっている関係者も多いが、今回の作品で玉田もその列に加わった。

ストレンジシード静岡2019@駿府城公園・静岡市役所・葵区役所など静岡市内

ストレンジシード静岡2019@駿府城公園・静岡市役所・葵区役所など静岡市

ロロ


『グッド・モーニング』(ストレンジシード静岡2019ver.)
*1

出演
望月綾乃
大場みな

スタッフ
作・演出:三浦直之
制作:奥山三代都

範宙遊泳 シリーズ おとなもこどもも
『フィッシャーマンとマーメイド』

会場
ギャラリーステージ
出演
埜本幸良
油井文寧

スタッフ
作・演出:山本卓卓
制作:坂本もも

川村美紀子+米澤一平

川村美紀子
1990年生まれ。「どこからかの惑星から落下してきたようなダンス界のアンファン・テリブル」(Dance New Air 2014/石井達朗氏)とも紹介されるその活動は、国内外の劇場にとどまらず、屋外やライブイベントでのパフォーマンス、映像・音楽制作、レース編みなど多彩に展開。

米澤一平
タップダンサー。熊谷和徳氏に師事、Kaz Tap Company所属。黒人奴隷の歴史をルーツとし米国から発祥されたオリジナルの『TAPDANCE』のカルチャーを学びながら、音楽、歌、ダンス、コミュニケーション、感情表現、“TAPする行為”から生まれる様々な対話の可能性を探ってる。

カゲヤマ気象台
渡辺尚(頭と口)
ままごと×康本雅子「無題」
出演

石倉来輝
小山薫子

スタッフ

振付:康本雅子
脚本:柴幸男
制作:加藤仲葉、宮永琢生
HURyCAN(スペイン)

 野外演劇フェスティバルである「ストレンジシード」では例年、通常の劇場空間ではない場所が上演の場として選ばれるが、時として上演される場所と作品が絶妙な組合せとなって、劇場では得られないようなサイトスペシフィックな臨場感を醸し出すことがある。今年の上演作品ではロロの『グッド・モーニング』がそんな作品であった。

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この「グッド・モーニング」は学校に忍び込んでいて一晩を過ごしていた<逆>乙女(望月綾乃)と朝一番に登校してきた白子(大場みなみ )が人気のない朝の自転車置き場で出会うという物語。
ストレンジシード静岡では実際の自転車置き場を借景として使って芝居が上演される。外の声などがすべて聞こえてきてしまうような状況だが、これが劇場にはない臨場感を生み出してい非常に面白いものに仕上がっていた。
 そういえばこのロロのいつ高シリーズはこれ以外の作品もすべて学校の校内のどこかを舞台にしているから、どこかの高校か大学を会場にして複数の作品をつないだ移動演劇にしたら面白いのではないかと思った。
次に見たのが範宙遊泳 シリーズ おとなもこどもも『フィッシャーマンとマーメイド』。こちらは基本的には静岡で行われるストレンジシードに合わせて書き下ろされた子供向けの作品。実際の自転車売り場を使ったロロとは正反対にこちらは建物の中の廊下の一部に囲い込まれた空間を作り、ここを山梨県に住んでいるある男が引き篭もっている部屋という設定でこたつ机の真ん中に広げられた青いシート状の布の中から人魚の姫が出てくるという奇想天外な物語が展開された。こども向けとは書いたが、こちらは範宙遊泳が得意とする映像との融合手法が存分に駆使された作品で、アートな感覚にも溢れたものとなっていた。
 さらに次に向かったのは川村美紀子+米澤一平。こちらは歩行者天国のように交通規制を敷いて交差点の路上に作った「札の辻」エリアでのパフォーマンス。川村美紀子はコンテンポラリーダンス振付家・ダンサー、米澤一平はタップダンサーと異ジャンルの二人が大道芸風なパフォーマンスを繰り広げるというものだった。
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川村美紀子(手前)と米澤一平(奥)

京都大学推理小説研究会45周年イベント

京都大学推理小説研究会45周年イベント

 京都大学推理小説研究会(ミステリ研)の45周年記念イベントが東京・神田のビル内の宴会場で開催された。3次回では後輩のミステリ作家、我孫子武丸らと犯人当て談義ができて嬉しかった。京大ミステリ研の犯人当てのことはこういう場でしか話題にして議論することができないからである。
 京大ミステリ研の犯人当ては創設以来500作品を超える実作が発表されていて、そのルール(何が許されてなにが許されないか)はこれを体験してきた人間の間では時代により若干違いはあるとしても、共有されているわけだが、明文化されたはっきりした規則があるわけではないので、それを体験してない外部の人間に対してそれを明確に説明するのは困難をきわめる。それゆえにそれについての込み入った会話はルールを共有する人間同士の間でしかすることができないのだ。
 

アリバイ崩し承ります

アリバイ崩し承ります

soajo.jimdo.com

「JAPAN JAM2019」参戦記 ももクロライブレポート

「JAPAN JAM2019」参戦記 ももクロライブレポート


ももいろクローバーz あんた飛ばしすぎ

JAPAN JAM 2019
SKY STAGE 05/04(土)14:15〜
ももいろクローバー
セットリスト
M1 あんた飛ばしすぎ!!
M2 Chai Maxx
M3 行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-
M4 The Diamond Four
M5 ココ☆ナツ
M6 全力少女
M7 DNA狂詩曲

この日も昨年一昨年のロッキン(ロック・イン・ジャパン)同様にDMB(ダウンタウンももクロバンドがロックフェスティバルに降臨。今回はドラムに柏倉隆史、ベースに日向秀和に加え、ギターには元JUDY AND MARYのTakuyaまで引き連れる最強の布陣。昨年のロッキンでもそうであったが、ダウンタウンももクロバンドを帯同したももクロはいまや最高の戦闘能力。少し大げさな表現に聞こえることも覚悟してあえて言うが、本人たちの登場する前からバンドメンバーがサウンドチェックという名前の超絶ソロ演奏を披露。観客であるモノノフ(ももクロファンの総称)からは「DMB」コールが起こる盛り上がりようで、ウォーミングアップ代わりにバンドがインストで「サラバ、愛しき悲しみたちよ」を演奏するとももクロ本人もいないのにファンがさっそくメンバーコールでこれに呼応し、「ももクロってどんな感じなんだろう」と集まってきたロックファンの度肝を抜く前振り。
 しかもこの日はOvertureから登場した百田夏菜子が「ちょっとあんた誰見にきてんのよ?ここに来たってことは分かってる?アイドル地獄に生き埋めにしてあげる」との煽りを見せるや1曲目から激しい曲想のロックチューン「あんた飛ばしすぎ!!」を披露。スタートダッシュでいきなり場内は興奮状態に突入。この勢いは「 Chai Maxx」「行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-」とつながれ「ここだけ次元が違う」の声も聞かれるなどロックフェスはももクロの蹂躙状態となった。
 昨年一昨年のロッキンでも感じたことだが、この種の戦闘モードに入ったときのももクロの破壊力は凄まじい。日本を代表するロックフェスだけあって、この日はもちろんももクロ以外にも優れたパフォーマンスや観客を巻き込んでの盛り上がりを見せるアーティストはほかにもおり、それぞれさすがの実力を感じさせてもらったしおおいに楽しんだ。それでも自分たちのファンだけでなく、周辺の観客も巻き込んでの盛り上がりぶりはこの日一番だったかもしれない。
 この日のももクロのパフォーマンスのもうひとつの売りは近く発売予定の新アルバム「MOMOIRO CLOVERZ」のリード曲である「The Diamond Four」がすでにMVは公開されていたもののライブでは初披露となったことだ。最近は以前のヒャダインに代わりももクロのメイン作家となった感の強いinvisible mannersの提供曲で、生で歌いこなすのには相当の技量が要求される難曲と思われたが、4人はこれを当たり前のように簡単に(見えるように)こなしており、ここ数年、特に4人になって以降のレベルアップを感じさせる内容となった。

【Momoclo MV】ももいろクローバーZ(MOMOIRO CLOVER Z)『The Diamond Four』MUSIC VIDEO
「The Diamond Four」は前日に振りをつけたばかりと言いながらもパフォーマンスとしてはすでに完成されていて、新曲披露の時には毎回不安定でファンを心配させていた昔のももクロとの違い、大人の集団としての成熟をはっきりと感じさせた。
  実はこの日はももクロの前にLittle Glee Monsterのライブがあったので見ていて、彼女らの歌の上手さには舌を巻かされた部分はあったが、確かに彼女らが日本の女性ボーカルグループの技術面での最高峰にあるのは認めても、グループでの歌唱とパフォーマンスの総合的な力ではももクロは決して劣っていない。ももクロは確かにそのコーラスで「ジュピター」のようなメロディーを奏でることはできないけれど、「あんた飛ばしすぎ!!」のようなテイストの歌唱はリトグリにはできないし、それでも「下手だ」というならば、ミック・ジャガーは歌が下手だとけなすようなもので、ほとんど無意味なことにしかならないと思われたのである。
 この日の後半はまずはももクロ夏ライブのスーパーウエポンである「ココ☆ナツ」から始まったが、オールスタンディングの野外フェスではかならず皆が「ココココ」という歌詞に合わせて、ニワトリの頭が前後に揺れるような振りをしながら円状になり、ぐるぐると回るココ☆ナツサークルが会場のあちこちで複数できる。これは大規模会場の野外でもブロック分けがされるももクロの単独ライブではほとんどないのが現況であり、ロッキンや氣志團万博などの大規模野外フェスのみで推奨はされないが、自然発生的に起こるのは仕方ないと許容されている贅沢ともいえ、この日もまるで熱帯地域における台風の発生のように群衆でいっぱいになった会場のそこここに渦巻き状のサークルが発生。ほかのバンドで出来るサークルモッシュの円は覚悟なしに巻き込まれるとかなり危険だが、このサークルは女性や子供たちも和気藹々と参加でき、フェスファンの間でも風物詩として認知されつつあるのではないか。
 「ココ☆ナツ」の後は「全力少女」「DNA狂詩曲」と2曲連続でパフォーマンスを行いラストスパート。ファン投票で人気ナンバー1となった実績もある「DNA狂詩曲」はともかく、少し懐かしさのある「全力少女」はなぜセットリストに入ったのかとの疑問は現地では感じていたのだが、この日は5月4日(みどりの日)であり、「全力少女」の歌詞に「こどもの日も みどりの日もキミに 会いたい
多すぎるって 五月の祝日」というくだりがあるので十連休の今年にちなんでここに合わせて持ってきたんだということが後に分かったが、実はこういう遊び心もももクロの楽しさなのである。

BiSHセットリスト

NON TiE-UP
遂に死
GiANT KiLLERS
BiSH-星が瞬く夜に-
本当本気
stereo future
MONSTERS
ファーストキッチンライフ
beautifulさ

 ももクロの終了後は間髪入れずSKY STAGE隣のSTAGEでBiSHのパフォーマンスがスタートするために急いで移動。BiSHの楽曲は比較的新しい楽曲と思われる「NON TiE-UP」「遂に死」からとなった。

BiSH / NON TiE-UP [BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"]@幕張メッセ9.10.11ホール

BiSH / STiCKS [全曲試聴MOViE]
 この2曲はあまり知らない曲だったのだが、私が代表曲と思っていた「オーケストラ」「プロミス・ザ・スター」などはあえてやらず、3曲目の「GiANT KiLLERS」も含め、リンリンのデスボイスが入ったこれらの曲をあえてセットリストに入れているのは「楽器を持たないパンクバンド」というのを強調しようというロックフェスティバルを意識しての布陣であろうか、と感じた。 
 実は黒フェスでは見ているけれども、BiSHの単独ライブを見たのは2017年7月の幕張*1が最後で、最近はあまりフォローができていなかった。BiSHの最大の強みはタイプの違う2人のスーパーボーカリスト(アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ)を擁することだと以前書いた記憶があるが、今回驚かされたのは以前は「かわいい」担当の認識しかなかったアユニ・Dの成長である。ところどころは入ってくるボーカルに一瞬「これだれ」と思う時もあって、メンバーとしても一番若いだけに一層の伸びしろが期待できそう。ハシヤスメ・アツコも以前と比べてしっかりと強い声が出るようになっており、アイドル的要素を体現しているモモコグミカンパニー、デスボイスのリンリンを含め6人の総合力は2年前よりははっきり底上げされていると感じた。
 とはいえ、こうしたロックフェスではコンセプト的な難しさも感じた。ももクロと違いBiSHはバンドを帯同していなかったが、普段は音源で活動しているアイドル系グループもロッキンなどでは主催者側の用意した演奏者が伴奏に入ることも多い。BiSHも以前はバンドを擁してのライブハウスツアーなどの経験もあるから、バンドと一緒にパフォーマンスをしてもおかしくはないはずだが、それをここでしないのは予算的なものもないではないかもしれないけれどやはりキャッチフレーズの「楽器を持たないパンクバンド」というのが関係しているのかもしれないと思った。つまり、本人が楽器演奏しなくても「楽器を持たない」というコンセプトは薄れてしまいかねないというジレンマも出てくるからだ。
 ただ、以前ZEPPTOKYOでバンドの入ったパフォーマンスを見た時の印象からいえばBiSHの中心メンバーの歌唱スタイルや音楽性から言えば例えばBABYMETALのようにバンドと組んだ時の方が演奏者との相互作用でパフォーマンスの質は上がるだろうし、ももクロ西武ドームのライブで初めて本格的なバンドを入れたように次のステップに進むにはバンドと一緒にやった方がいいのではないかと思ってしまった。ももクロと比較すると大抵のアイドルグループはその熱量が届く範囲が狭いのだけれど、BiSHの今回のパフォーマンスに関していえばバンドの生演奏のあるなしの差がかなり大きかった気がした。

Little Glee Monsterセットリスト
放課後ハイファイブ
好きだ。
君に届くまで
だから、ひとりじゃない
OVER
SAY!!!
世界はあなたに笑いかけている
Jupiter

シアターRAKU『女の平和~不思議な国のエロス~』@本多劇場

シアターRAKU『女の平和~不思議な国のエロス~』@本多劇場

シアターRAKU「女の平和~不思議な国のエロス~」

2019年5月2日(金・祝)~5日(日・祝)
東京都 本多劇場

原作:寺山修司アリストパネス「女の平和」~
上演台本・演出:流山児祥
出演:いそちゆき、小野田大介、川本かず子、桐原三枝、佐野眞一、杉山智子、関口有子、高野あっこ、辻洋子、内藤美津枝、中尾レイ、永田たみ子、二階堂まり、西川みち子、原きよ、平山郁子、溝田勉、村田泉、めぐろあや / ラビオリ土屋、後藤英樹、橋口佳奈、流山児祥

たこやきレインボー(たこ虹)<軟体的なボヤージュ ~あなたとの約束~>BLACK@東京・Zepp DiverCity

たこやきレインボー(たこ虹)<軟体的なボヤージュ ~あなたとの約束~>BLACK@東京・Zepp DiverCity

2019年5月3日(金・祝)

1 Rainbow Plane
2 ウエッサイ・ストーリー
3 なにわのはにわ (CLUB RAINBOW Remix)
4 ちちんぷいぷいぷい
5 尼崎テクノ
6 どっとjp ジャパーン!
7 an umbrella
8 にじースターダスト
9 私、ただ恋をしている
10 Boules de poulpes S’il vous plait
11 踊れ!命尽きるまで
12 アゲたこノーティーFunk
13 めっちゃDISCO
14 元気売りの少女 〜浪速名歌五十選〜 (CLUB RAINBOW Remix)
15 疾風
16 SuperSpark
17 虹色進化論 (CLUB RAINBOW Remix)

En-1 絶唱!なにわで生まれた少女たち (CLUB RAINBOW Remix)
En-2 ナナイロダン
En-3 RAINBOW 〜私は私やねんから〜
En-4 あなたとの約束

 たこやきレインボー(たこ虹)の新アルバム「軟体的なボヤージュ」 を引っさげての東販アルバムツアーに相応しく冒頭はこのツアーが初披露となった「Rainbow Plane」(作詞作曲:invisible manners)の激しいダンスをともなってのパフォーマンスからスタートした。
 以前「夏S」のももクロトリビュートでモノノフの間でも話題となった「Blast!」をやった時にたこ虹のマネージャーである番長が「うちにもこういうカッコいいナンバーが欲しかった」とこぼしていたのが記憶に新しいが「Blast!」の作者であるinvisible mannersの提供曲である「Rainbow Plane」は文字通りたこ虹版「Blast!」といってもいい楽曲で、今回黒衣装のエイベックス・アーティストアカデミー東京校の生徒たちをバックダンサーとして展開したパフォーマンスはダンス・歌唱の完成度といいカッコよさといいももクロにも負けないレベルのものであった。
 続けてはももクロもまだない氣志團提供のオリジナル楽曲「ウエッサイ・ストーリー」も披露。ももクロファンである私にはこの立ち上がりは「わたしたちも負けけへんで」という挑戦状にも見えてきた。特に最初の「Rainbow Plane」はスタダ×avexの両方のよさを結晶させたような圧倒的なカッコよさがあった。アイドルグループとしてのスペックの高さを再認識。 
 一方、ももクロとの大きな違いはメンバーのセルフプロデュース力を伸ばし、それをグループ活動本体にも生かすことに力を注いでいることだ。それを象徴するのが、さくちゃんが作詞を手掛けた「Superspark 」。作曲、編曲の手柄もあろうが、これもメンバー発とは思えないほどスタイリッシュ。
 映像、照明などにもこだわり、ライブ全体をひとつの作品のように作り込んでいった中で、新アルバムの楽曲だけでなく、インディーズ時代の楽曲もきちんと盛り込んでいるのも今回のライブのよさであろう。たこ虹の場合、初期のヒャダイン曲に代表されるわちゃわちゃ要素の強い楽曲と最近の楽曲では雰囲気にはっきりした違いがあり、極端な言い方をすれば水と油のようなところもあった。そしてもっと問題なのはファンが自分の好きなたこ虹に固執するあまり、互いにディスりあうというようなことも起きて、グループの足を引っ張っている時もあった。

渡辺源四郎商店第31回公演「背中から四十分」@下北沢ザ・スズナリ

渡辺源四郎商店第31回公演「背中から四十分」@下北沢ザ・スズナリ

作・演出:畑澤聖悟
出演:三上晴佳 斎藤歩(札幌座) 天明留理子(青年団
   山上由美子 佐藤宏之 工藤和嵯


<トリプルキャストの出演スケジュール>
一身上の都合により佐藤宏之の本作品への出演はなくなりました。楽しみにされていたお客様、申し訳ございません。
野島役はWキャストで、工藤和嵯、山上由美子が以下のスケジュールで出演いたします。
<青森公演>
4月19日(金)19時半①工藤和嵯
4月20日(土)15時②工藤和嵯/19時半③ 山上由美子
4月21日(日)15時④ 山上由美子

<東京公演>
※東京公演は、山上由美子が全ステージ出演します。

<シアターZOO企画公演(札幌公演)>
※シアターZOO企画公演(札幌公演)は、工藤和嵯が全ステージ出演します。

 
 弘前劇場時代の初演時(2004年)から見ているが、渡辺源四郎商店として再演(2006年)。今回はそれから13年が経過しての再再演となった。深夜にホテルにやってきて少し不審な宿泊客の男(斎藤歩)とそのホテルで働くこちらもちょっと訳ありに見えるマッサージ嬢(三上晴佳)による実質的な二人芝居*1である。
 当時、弘前劇場の看板女優で現在は青年団に所属している森内美由紀にあてがきしたような部分があり、畑澤聖悟が弘前劇場退団後に再演した際もやはり同劇団を退団していた森内を客演に招き上演した。今回の再演まで10年以上の年月がかかったのも現在の看板女優である三上晴佳がこの役にふさわしい年齢に自然に感じられるようになるのを待っての満を持しての再演だったかもしれない。
 相手役の男はこちらも初演は弘前劇場の看板男優、福士賢治が演じ、再演時には青年団の中心俳優、山内健司を招いた。上演時間のうちのほとんどの時間をベッドの上で横になってマッサージされているだけなのにそういうなかでの時折かかってくる電話などねわずかなセリフによってその男が置かれた状況や人柄なども示していかなければならない難役。手練れの俳優だけが、こなせる役柄だが今回は北海道の劇団「札幌座」から客演の斎藤歩が見事に演じた。
これまでの上演と比べて今回の上演を比べるとマッサージ師の女性の位置づけがかなり違ってみえた。実は「背中から四十分」は現代における心中物として近松門左衛門の「曽根崎心中」を下敷きに構想されたと以前作者である畑澤から聞いた記憶がある。それによると肌と肌を直に触れ合わせるというマッサージという行為を作品に取り入れたのは「曽根崎心中」において、心中を決意した徳兵衛が床の下に潜んで、お初の足首を素手でつかんで自分の喉もとに当てるというきわめて印象的な場面がある。これは明らかに「性的なもの」の隠喩表現といってもいいと思うが、「背中から四十分」のマッサージも直接に性的サービスを行うわけではないけれども、その背後には隠喩としての性的行為が暗示されている。というか、初演、再演でこのマッサージ師の役を演じた森内美由紀の演技からは明らかにそういう匂いが感じられた記憶がある。
 ところが今回この役を演じた三上晴佳の演技はどうもそういうことを志向しているようには思えない。役柄のベクトルが明らかに異なるのだ。今回感じられるのは性的なものではなく、肌と肌が触れ合うことで得られる癒しなのだ。
三上の体現するものは「聖痴愚」に代表されるような聖なる救いのように次第に見えてくる。彼女はここに登場する以前に明らかに自殺未遂のような行為を企てていると思われる。それがこの旅館のこの部屋で絶望にかられてここに呼び出した女と無理心中を敢行しようとしている男と出会い、自分でも出来ることがあると思い直し、この男を救おうとあるいは少なくとも死ぬまで一緒にいることで男の魂を救済したいと考える。三上の演技でこの舞台は初演、再演時のイメージとは変貌を遂げているように思われた。

*1:ホテルの受付と女将が登場するものの上記の二人だけが舞台に出続ける。