下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

青年団リンク やしゃご「アリはフリスクを食べない」(2回目)@こまばアゴラ劇場

青年団リンク やしゃご「アリはフリスクを食べない」(2回目)@こまばアゴラ劇場

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作・演出:伊藤毅

兄弟2人暮らし。両親は既に亡くなっている。

知的障害者の兄と、兄の世話を理由に法律家への夢を断念した弟。
2人は、同じ工場でアルバイトをして生計を立てている。

兄の誕生日。友人たちが集まるパーティーの場。
そこで兄を施設に入れることが知らされる。

「彼は、かわいそうな人ですか?」


青年団リンク やしゃご

劇団青年団に所属する俳優、伊藤毅による演劇ユニット。
青年団主宰、平田オリザの提唱する現代口語演劇を元に、所謂『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的とする。
伊藤毅解釈の現代口語演劇を展開しつつ、登場人物の誰も悪くないにも関わらず起きてしまう、答えの出ない問題をテーマにする。


出演

木崎友紀子
井上みなみ
緑川史絵
尾﨑宇内
黒澤多生(以上、青年団
海老根理
岡野康弘(Mrs.fictions)
工藤さや
舘そらみ
田山幹雄(モリキリン)
辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
幡美優
スタッフ

舞台監督:黒澤多生(青年団
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太
美術:谷佳那香
制作:笠島清剛(青年団
宣伝美術 じゅんむ
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 単純に「今の政権が悪い」とか、「⚪⚪はけしからん」とかいう勧善懲悪の演劇は痛快かもしれないが観客にカタルシスを与えるだけで意味がないと考えている。平田オリザはそれを否定し、「この世界がどのようにあるか」を提示し、それを個々の観客に考えてもらう演劇を提唱したが、ホエイの山田百次、ダルカラの谷賢一らそうした考え方に基づき現代がかかえる問題に挑んでいく作家たちの動きが、青年団周辺で目立ってきている。青年団リンク やしゃごの伊藤毅もそうした動きを担う作家のひとりである。
 「アリはフリスクを食べない」は障害者を抱える家族の葛藤を丁寧に描いていくが、伊藤が平田と方法論的に異なるのは俳優に身体障害者をリアルに演じさせ舞台に登場させていることだ。先日、日仏韓共同制作として上演された「森の奥の奥」という舞台で平田オリザは自分の子供が障害(自閉症)を持って生まれてきたためにその症例をなんとか解明しようと類人猿を使った動物実験をしたい女性研究者と類人猿と人類を同一視し実験は決して許容しないサル学者との相容れない対立を描き出したが、この際に平田は自閉症の人を演じる人を直接舞台に登場させることはしない。これに対して、伊藤は俳優に身体障害者を演じさせる。
 とはいえ、どちらも世の中に簡単には解決できない問題があるんだということを複数の人物の関係性を丁寧に書いていくことで提示していくというやり方には共通点がある。「森の奥の奥」の研究者たちがどちらにもそれぞれの理由があってそれはどちらかが正しくどちらかが間違いというものではない。この「アリはフリスクを食べない」に登場する人物たちもそうである。
 最初にこの物語を見た時には弟の婚約者の態度に腹が立った。それはこの女性が障害者である婚約者の兄と直接目線を合わせて会話しようとしていないからだ。彼女の父親も障害者に対し不寛容であり、その結果、この弟は兄を施設に預け、自分たちの生活から排除しようとしているようにも見える。
 ただ、一方でこの女性と弟の振る舞いに対し、伊藤の筆致は冷酷である。物事が思い通りにいかなくなった時のこのふたりの感情の爆発を伊藤はきめ細かく書き込んでいくのだが、特に女性がまったくの第三者である男性の会社の後輩と彼が連れてきた女性に対して突然爆発してものを投げつけるのを見たら、二人になった後、何の憂いもなく二人で暮らしていけるとは到底思えない。例え男の兄が施設に移住し、彼らがここで2人だけで暮らすことになったとしても、根本的には彼女には自己中心的でヒステリックなところがあり、弟はそれと向き合おうとせず、しかも兄を預けることを自分で決めたとはいっても心の中では婚約者にむりやりそういう風にさせられたという意識が拭い去れないことを考えれば、この2人の関係性に綻びを感じざるを得ないからだ。
 仕事に関しても同じような危惧を感じる。この兄弟を受け入れている会社は障害者雇用に理解のある企業なわけで、「家族の問題に口出しするな」と言われても口出しするのが普通だし、今回の決定を通じて女社長の弟に対する評価は一変していることは間違いない。しかも兄もこの会社で働いており無関係ではないわけだから、兄が遠くの施設に移り、会社をやめるのであれば弟もこの会社にはいてもらわなくてもいいという結論になってしまってもおかしくはないと思う。
 以上のことを勘案すると施設に行くことを最終的に受け入れた兄の決断も誰にとってもいいことであったのかということは誰にも言えないわけだ。
 こういう舞台であることもあり、解釈も見た人によって異なってくるようで、社長が帰り際に女性に対して残した「おめでとう」という言葉に私は完全に「あんたの思い通りになってよかったね、私は関係ないらしいのでこれ以上口は差し挟まないけど」という意味合いの皮肉めいた捨て台詞めいたニュアンスを感じたのだが、「子供が出来たと聞いたからのおめでとうじゃないか」と全然そういう皮肉は感じなかった人もいた*1ようでその人のそれまでの体験で受け取り方が変わってくる舞台なのかなとも思った。
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*1:後から聴いてみると祝福の言葉に嫌味を含ませていたのは明確だったということだった。ニュアンスがどこまで強いのかは差異があるとは思うが。

快快『ルイ・ルイ』 FAIFAI “ Louie Louie ”@KAAT

快快『ルイ・ルイ』 FAIFAI “ Louie Louie ”@KAAT

ぬいぐるみの名前はルイ。
絶滅したニホンオオカミのぬいぐるみ。
かれらは、何らかのいのちを模して作られた、ひとじゃない友だち。
日々の側に置いておきながら、わたしだけの世界にも共に飛んで行ける存在。
時にひとは、社会じゃない世界、に行く事でパワーをもらえて、その世界がたしかに存在した、と思うことで、どんなに歪んだ現実にいても楽しく生きてける術をもってる。
この作品を目撃した人にとって、ルイルイもそんな感じの、あの時たしかにいた、忘れられない友だちみたいな、時間になりたい。
現実に切り込むために踊り狂うピエロは、現実を踊らせる事を願ってる。
すべての命の、累々のかがやきに目眩しながら、人類のさみしさに寄り添って、思う存分飼いならしてみたい。
北川陽子

ルイ・ルイとは? ジム・ジャームッシュ監督の映画『コーヒー&シガレッツ』でも印象的に使われているこの曲。カバーバージョンの「ルイ・ルイ」を流すだけの3時間超えのラジオ番組が放送されたことがあるほど、多くのミュージシャンに歌われてきました。原曲には船乗りの欲求不満を歌った歌詞がついていたそうですが、思い思いの「ルイ・ルイ」が無数に歌われ、それぞれに親しまれているため、もはや原曲が持つ意味は曖昧です。本作は「ルイ・ルイ」のこの【存在の、ないようで、ある】ところ、に発想を展開していきます。


演出:快快

脚本:北川陽子

出演:大道寺梨乃 野上絹代 山崎皓司 石倉来輝 白波多カミン
   初音映莉子 ルイ(ぬいぐるみ)

特別出演:毒蝮三太夫(声)

ぬいぐるみ制作:片岡メリヤス

舞台監督:藤田有紀彦(KAAT) 
照明:中山奈美 
音響:星野大輔
舞台美術:佐々木文美 
衣装:藤谷香子 
振付:野上絹代
映像・記録:加藤和也 河合広樹
制作:河村美帆香 横井貴子 小原光洋 細井優花
宣伝美術:いすたえこ 宣伝写真:岩澤高雄(The VOICE) 
宣伝ヘアメイク:山口恵理子 
宣伝衣装:overlace PHABLIC×KAZUI Little Trip to Heaven


企画制作・主催:快快
提携:KAAT神奈川芸術劇場
助成:芸術文化振興基金


協力:城崎国際アートセンター(豊岡市) 急な坂スタジオ 
   森下スタジオ 株式会社まむしプロダクション 
   株式会社エー・チーム ままごと 有限会社サウンドウィーズ

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ルイ・ルイ/ポール・リヴィアー

 「ルイ・ルイ」という楽曲を流し続けるラジオ放送という体で作品は進行していく。場面場面は印象的であったり、楽しかったりしていかにも快快らしいといえそうだが、統一された物語や主張はないようで、そのことも快快らしいといえなくもないが、「SHIBAHAMA」や「再生」のような作品としてのまとまりはあまり感じられないのも確かだ。
 快快自体がひさしぶりの公演なので、それで懐かしいということもあるけれど、何といっても小指値(快快の前身)時代の「霊感少女ヒドミ」に出演していた初音映莉子がひさしぶりに出演して狂言回し的な役割を果たしているのが何か嬉しかった。

オフィスコットーネプロデュース 『さなぎの教室』(2回目)@下北沢駅前劇場

フィスコットーネプロデュース 『さなぎの教室』(2回目)@下北沢駅前劇場

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綿貫 凜(プロデューサー)からのメッセージ

第4弾は、大竹野正典作「夜、ナク、鳥」
*1と同様、2002年に発覚した4人の女性看護師による連続保険金殺人事件をモチーフに、九州・宮崎を舞台に、より閉鎖的な人間関係から彼女たちが犯行に至るまで、またその後の心理描写を緻密に描く新作です。(綿貫 凜/プロデューサー)

●8/29~9/9◎駅前劇場
作・演出◇松本哲也
プロデューサー◇綿貫 凜
出演◇佐藤みゆき 吉本菜穂子 今藤洋子 古屋隆太 朝倉伸二 小野健太郎(Studio Life) 新納敏正 松本哲也

〈料金〉各種あり指定席¥4,000~4,500 シード(U25)¥3,000
〈お問い合わせ〉オフィスコットーネ 070-6663-1030

http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/ootakeno10/sanagi.html
 

 家を出て劇場に向かおうと思ったら台風の影響で井の頭線が全線不通になっていた。慌てて三鷹駅から新宿経由の小田急線で下北沢に向かうが、バス中でツイッターを眺めると三鷹駅で入場規制があり、しかも小田急新宿駅も激混みとの情報。一度は諦めかけたが、開演を10分遅らせるとのオフィスコットーネ側の情報に勇気づけられる。三鷹駅に着いてみるとそこは通常の状態に復旧しており、すぐに中央線快速に乗り込み新宿駅に幸い小田急線も混んではいなくて、ちょうど止まった急行に乗ることができ、本来の定時の14時には下北沢駅に着くことができた。
 開演が延びていたおかげでぎりぎり間に合うように劇場に到着することができて、幸運にも楽日の舞台を見ることができた。この作品の舞台は舞台奥にも客席を配置する二面舞台で「両方見てほしいから、もう一度来ませんか」との誘いに応じて観劇したわけだが、開演に遅れていたら舞台奥の客席には行くことができない舞台構造になっていたから、いろんな意味で幸運が重なった観劇だったのである。

悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』(2回目)@東京芸術劇場

悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』(2回目)@東京芸術劇場

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日程
2019年09月04日 (水) ~2019年09月08日 (日)

会場
シアターウエス

作・演出
作・演出:山崎彬 音楽:岡田太郎

出演
中西柚貴 潮みか 植田順平 東直輝 佐藤かりん 畑中華香 山崎彬 清水みさと(オーストラマコンドー)ほか

  悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』の楽日を観劇。山崎彬版のスラップスティックコメディで随所に岡田太郎によるオリジナルの劇中曲を織り交ぜた生歌唱やダンスのシーンが散りばめられている。場面転換、生歌も含めた歌唱場面によりシーンが次々とつながっていく、奈良時代から現代、未来、劇中劇まで、さまざま場面がスピード感を失うことなく転換しつながっていく。時間場面が山崎彬、植田順平らが演じるオースティン・パワーズ*1を思わせるようなエキセントリックな人物造形、ソフトクリームやアイスクリームをあしらったポップでキッチュな舞台美術などあくまで軽やかなビジュアルイメージは普段の重厚かつ暴力的な世界とは異なり、この劇団のB面的な路線として暑い夏の舞台には相応しいものとなった。観客の反応もよく楽日ということもあってか、この日は予定外のトリプルアンコールとなった。
 悪い芝居は日常にひそむ暴力や虐待、いじめなど人の持つ暗黒面を抉り出し描いていくことが多いのだが、この「アイスとけるとヤバイ」はそうではなく、山崎彬の演劇世界をレコードに例えるならばB面的な世界。とはいえ、今回の舞台はコメディとしての出来栄えは非常によくて、シリアスな劇世界の中にこうした軽妙なものが挟み込まれていくことで、山崎ワールドは今後より豊かな膨らみを持っていくのだろうと思わせられた。

✅ 悪い芝居「アイスとけるとヤバイ」が昨日8月16日に大阪・HEP HALLで開幕した。

 何と言っても女優が魅力的だ。悪い芝居は毎回客演女優陣がいい味を見せるのだが、ダブルヒロインといえる清水みさと岩井七世もキュートなコメディエンヌぶりがすっかり板につき、裏切らない。これを関西(奈良)のギャルをコミカルに演じる劇団メンバーの中西柚香、潮みかがサポートして悪い芝居ならではの色濃いテイストを見せてくれた。

simokitazawa.hatenablog.com

山崎彬をゲストに10月8日セミネールレクチャー開催。早めに予約お願いします。
scool.jp

愛踊祭2019決勝大会@東京シティドームホール

愛踊祭2019決勝大会@東京シティドームホール

LIVE:愛踊祭2019エリア代表決定戦ファイナリスト /
佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)/ i☆Ris / テーマパークガール
MC:ヒャダイン佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)

愛踊祭2019

fanicon賞 きゅい~んズ
推し武道賞 神薙ラビッツ
ベストオーディエンス賞 まばたき
審査員特別賞 mof mof
優勝 まばたき

 各地区代表+敗者復活戦の計11組のアイドルが参加、決勝大会を戦った。課題曲として「ドラえもん」「君が好きだと叫びたい」と自分たちのオリジナル曲の3曲を歌い、それを10人の審査員が審査するという仕組みだ。出演グループとして活動歴には差があるのだろうが、全体を見て思ったのはレベルが非常に高いなということだ。6、7年前にローカルアイドルによるコンクールを大阪で見たことがあるのだが、その時の印象からすると格段に実力が上がっていると思った。ただ、そうであるからこそ単に全体的にレベルが高いというのにはとどまらず既存のアイドルにはないような個性が求められたのかもしれない。
 その意味では北海道代表のまばたき(観客投票によるベストオーディエンス賞 もダブル受賞)の優勝はきわめて順当だったかもしれない。そして、次点格の審査員特別賞にまばたき同様にデュオである mof mof(広島)が入ったのも興味深かった。実は3人まで投票できるスマホによる投票で私はmof mof、きゅい~んズ、まばたきの3グループに投票したため、審査結果は順当なものに思えた。mof mofとまばたきはどちらも中学生による女の子デュオという共通点があり、そんな中でもmof mofは双生児という売りがあったが、歌唱の実力などパフォーマンスの各要素ではまばたきの方が明らかに上回り、かぶってしまったのが不運だった。とはいえ、まばたき同様にmof mofにもレコード会社の育成要望が入り、今後はライバルになるのかもしれない。

【4K】まばたき「ドラえもん」「ひこうきぐも」 湊林檎 水無瀬叶和 アクターズスタジオスターゲート校スタジオライブVol.166 (19 07 06)


【夢】響け!双子の美しいハーモニー!全国に笑顔と元気を届けます!いよいよアイドルたちの頂上決戦へ!【愛踊祭 2019】

愛踊祭
あーりんセトリ

君が好きだと叫びたい(冒頭の模範演技)

OVERTURE

キューティーハニー
Bunny Gone Bad
コントラディクション
だってあーりんなんだもん

 こんなことを書くと他の出演アイドルのファンから反感を買いかねないのだが、あーりんのパフォーマンスはこの日の出演者の中で数段抜け出ていて、いろんな意味で圧倒的だった。国民的アイドルグループの中の「アイドル・オブ・アイドル」のすさまじい存在感を見せ付けた感があった。たとえば歌がうまいとかダンステクニックがあるとかだけならあーりんに匹敵する実力を持つアイドルはメジャー契約のアイドルどころかこの日の出場アイドルにもいるのではないかと思う。ただ、ここから先はお前の主観じゃないかと言われても論理的には反論しにくいけれど、OVERTURE(あーりんちゅあ)から出てきた時の凄まじいばかりのオーラがまさにあーりんで特にこの日は12列とは言って実質8列目前後という絶好のポジションであーりんを確認することができたのでよりそれは明確になった。
 ももクロのメンバーはそれぞれに優れた資質を持つパフォーマーだと思うけれど、スター性はある夏菜子でもこういうオーラはないし、私はもともと卒業した杏果のファンだが彼女の魅力はもっとインティメイトなもの*1であーりんの存在の仕方とは対極にある。
あーりんはヒャダインとのコンビによるMCも安定。あーりんの愛踊祭MC起用は一昨年以来だが、この安定感とはまり具合を目の前でみるとちょっと代わりの人は見つからないかもとも思う。もちろん、アイドルたちを満員の会場でパフォーマンスさせるためにも集客力のあるゲストは必要なわけで、それらの条件をひとりで兼ね合うにはあーりんがやはりベストアンサーだろうと思える。ももクロにとっても本体がいくら多彩な活動をしていくとしても本籍アイドルを標榜するためには毎年のTIFとこの愛踊祭におけるあーりんのプレゼンスは欠かせないことになるかも。

【愛踊祭2019】佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)『君が好きだと叫びたい』(敗者復活WEB予選課題曲)

【愛踊祭2017】佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)『キューティーハニー』

idolmatsuri.jp

*1:杏果とは異なるがれにちゃんの魅力も親和性の方向だ

黒フェス2019~白黒歌合戦~@東京・豊洲PIT ももクロライブ観戦報告記 

黒フェス2019~白黒歌合戦~@東京・豊洲PIT

2019年9月6日(金) 東京・豊洲PIT
開場17:00/開演18:00
※飲食エリア、物販エリア、場外ステージは、16時より開演

<チケット>
スタンディング 7,800円(税込)/後方指定席8,800円(税込)

<第一弾発表出演者>
松崎しげる / ももいろクローバーZ / 純烈 / 鬼龍院翔ゴールデンボンバー) / 渡辺美優紀 / 東京ゲゲゲイ / 氏神一番カブキロックス) / 大橋純子
MC:伊津野亮※順不同

 この日のももクロは黒フェスでは初めてダウンタウンももクロバンド(DMB)を背負って登場。しかもそのなかに最近フォーク村にもレギュラーで登場しているやまもとひかるちゃんの顔も見つけて、思わず「おお!」と叫びそうになった。

藍二乗 - ヨルシカ【Bass & Vocal Cover】


ヒューマノイド - ずっと真夜中でいいのに。【Bass Cover】
 彼女はまだ若い(ももクロメンバーより年下)のだが、上記の演奏を見ていただければ分かるように若さに似合わぬ超絶技巧の持ち主。2カ月ほど前に初めてフォーク村に出た時には「テレビが初めて」と言ってたから現在は一般層にはほぼ無名だが、今後スターダムに乗っていくだろうと思わせる。彼女がいることでTAKUYAをはじめ他のバンドのメンバーも嬉しそうで、今後フェスでのツアーにも帯同するらしいとの情報もあり、楽器演奏によるバンドデビューを控えているももクロメンバーにも新たな刺激になりそうだ(れにちゃんへのベース指南役という役割もあるのかもしれない)。

本日のDMB
Dr.柏倉隆史
Bs.やまもとひかる
Gt.takuya
Gt.佐藤大
Sax.竹上良成
key&バンマス 宗本康兵

ももいろクローバーZ
セットリスト
overture
1.黒い週末
2.あんた飛ばしすぎ
3.ゴールデンヒストリー
MC
4.白金の夜明け
5.DNA狂詩曲

 黒フェスでのももクロはこれまでは観客層はあまり意識せずに最新のアップデートされた曲をやることが多かったのだが、今回は初めてバンドを帯同したためか、「黒い週末」「あんた飛ばしすぎ」とギターサウンドのイメージが強いアゲ曲を連発。れにちゃんボーカルの「吼えろ」のロングトーンから→咳き込み→黒い週末という流れは思わず笑わせてもらったが、いったい誰のアイデアだろう。宗本康兵なんだろうか?
 それでもこの日の白眉は「白金の夜明け」だろう。冒頭アコースティックギターが入ったバンドアレンジでの披露は初めてではないかと思うけれど、やはりいい曲だ。そして、たった今セットリストを眺めていて初めて気が付いたのだが、白黒歌合戦をイメージしての「黒い週末」「白金の夜明け」という黒白のごろ合わせだったのかもしれない(笑い)。ただ、そんなこととは関係なくひさびさに聞く「白金の夜明け」はよかった。それにしてもももクロのセトリはもはやかなり自由自在だ。この日はこれまで代名詞と言われていた「怪盗少女」も「走れ」も最新の定番曲である「THE DIAMONDS FOUR」も入ってなくてもセトリが組めているし、ひさびさの「ゴールデンヒストリー」「白金の夜明け」を組み込んでもその安定感は揺るがない。ここからはほぼ毎週フェスだが、毎回かなり異なる曲目が楽しめるのではないだろうか。
 黒フェスは「黒(96)」がトレードマークの松崎しげるにより毎年9月6日に開催されているフェスで今回が5回目となる。ももクロはこれまでも氣志團万博氣志團)、若大将フェス(加山雄三)、高校生ボランティア・アワードチャリティコンサート(さだまさし)、VAMPS主宰「HALLOWEEN PARTY*1など、と日頃お世話になった人たちの主催フェスには恒例事業として積極的に参加してきた。今年は復活のイナズマロックフェス泉谷しげる主催の阿蘇ロックフェスティバル2019 in 北九州にも参加する予定だ。そしてこの黒フェスもそのひとつとなっている。
実はももクロもフェスの代わりに年越しカウントダウンライブを「ももいろ歌合戦」として開催しており、昨年も氣志團加山雄三さだまさし松崎しげるが参加してくれたが、こうした相互の深い交流によるネットワーク作りがももクロの活動のひとつの特徴となっている。
 仕事終わりで駆けつけると数分遅れてしまうので、会場に着くと渡辺美優紀の歌がすでにはじまっていた。カラオケの伴奏で4人の女性ダンサーが左右で踊る。NMBはやめてソロになったわけだが、これはもう完全にアイドルそのものだ。こういうのをやりたいのなら別にNMBをやめなくてもよかったんじゃないかとも思ってしまうのだが、48グループではかつてのセンター、エースが次々とやめているからそういう新陳代謝が前提とされているのだろうなとも思った。
 毎年初見のアーティストが見られるのが黒フェスの魅力だが今年の黒フェスでの私にとっての最大の発見は東京ゲゲゲイというグループだった。東京ゲゲゲイという名前から勝手にドラァグクイーンのような人たちによるバンドと思い込んでいたが全然違った*2。そもそもバンドではなく、センターポジションの男性の左右でコーラス&ダンサーの4人の女性パフォーマーが踊るというスタイル。ダンスもパフォーマンスもかなりレベルが高い。参考のために動画サイトで見つけた映像へのリンクも貼っておくが、この2曲も歌った。


東京ゲゲゲイ「捧げたい」| TOKYO GEGEGAY Music Video

 昨年のフィッシャーズなどこのフェス出演の新顔勢がももいろ歌合戦にも呼ばれることがあるが東京ゲゲゲイも有力候補かもしれない。
 圧倒的な歌唱力を見せつけた大橋純子*3を除けば、今年はステージでのサービス精神が旺盛な人たちが並ぶラインナップで、オールスタンディングの後方で立ちっぱなしというポジションだが、飽きることなく楽しむことができた。
 純烈も生で見るのは初めてだったが、オルスタのライブハウスなのにメンバーのうち2人がフロアに降りて客席を練り歩くという前代未聞の光景。モノノフがけっこう多い前方スタンディングの観客もかなり協力的で、ぎっしり客が入って満員の客席に純烈メンバーが入るとそこにモーゼの十戒のように道が開いて、スタンディングゾーンど真ん中を後ろから前に通ってきたには思わず笑ってしまった。客席の様子を見てかMCでNHKの歌番組でももクロと共演した時に話を出して「れにちゃんのお尻が柔らかかった」などとモノノフを挑発して笑いを誘っていたが、こういう機微が感じられる機転がきくし、ももクロとの相性はいいと思う。ももいろ歌合戦にも来てほしいがまだ紅白狙っているのだろうな。
 鬼龍院翔ゴールデンボンバー)もソロ(ひとり)での登場で、一人しかいないためステージ上を下手上手と走り回り、息をきらしながらのパフォーマンス。これを見ると楽器の演奏をしなくても、バンドメンバーの存在は大きいのだというのが分かる。ソロだからきょうはやらないのかなと思わせておいて、最後の最後に「女々しくて」を熱唱。客席もこの日一番の盛り上がりでやはりこういう絶対的なヒット曲を持っている強みを感じた。
 純烈 や鬼龍院翔ゴールデンボンバー)はどちらもまだ紅白歌合戦に出場する可能性があるが、コラボなどでの相性は抜群のためだめもとでももいろ歌合戦のオファーは出すかも。ももクロの後に「お江戸」1曲だけを披露した氏神一番カブキロックス)もももクロ明治座で時代劇をやってきた直後だったので、年末着物姿で共演したら盛り上がるだろうなと思いながら見ていた。
さて、最後に言わずもがなだが松崎しげるは素晴らしい。年齢による衰えなど微塵も感じさせない。興味深かったのはドジャース前田健太投手がよく聴いているというエピソードから歌いだした歌があった。これは今年のワールドシリーズもしヤンキースVSドジャースの名門対決が下馬評通りに実現したらももクロVS松崎しげるの新たな因縁対決も生まれてきそうだ。
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*1:今年は米国ツアーのために中止

*2:興味を持ったので黒フェス終了後調べてみたが、もともとダンサーの人たちが結成したグループで集団でのそれならダンスのスキルが高いのもうなずける。男性ボーカルで楽曲の作詞作曲も手掛けている人が同性愛者であることをカムアウト。「捧げたい」もそうだが楽曲もLGBTを歌ったものが多いようだった。

*3:がん闘病後の1年半ぶりの復帰ステージということで「シルエット・ロマンス」1曲のみを歌った

DANCE TRUCK TOKYO2019@新宿中央公園


テンテンコ on Twitter: "今日のプログラムとステージ。 18:30から上から順番に進んで行きます。 ZVIZMOは最後から二番目‼️ 20時前後かな😇 よろしく🔥🔥🔥 9/5 18:30- フリー 【DANCE TRUCK TOKYO】 🌳新宿中央公園・水の広場 https://t.co/Y9UqC5zD5O… https://t.co/F5ZBNiFEEr"

DANCE TRUCK TOKYO2019@新宿中央公園/水の広場

DANCE TRUCK TOKYO2019@新宿中央公園/水の広場

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浄水場跡地に1968年に造られた公園にて、新宿副都心の超高層ビル群を借景に公演。
出演:
ANTIBODIES Collective(東野祥子、カジワラトシオ…)、川村美紀子、白井剛/森川祐護(Polygon Head)、新人Hソケリッサ!、鈴木ユキオ、ZVIZMO(伊東篤宏×テンテンコ)

日時:2019年9月5日(木)18時30分~20時30分
会場:新宿中央公園/水の広場

【 入場案内 】

▶ 入場無料(事前予約不要)
▶ スタンディングとなります。
▶ 会場には駐車場がありませんので、公共交通機関をご利用ください。
▶ 出演順は、当日webでご案内します。
▶ 雨天決行。荒天の場合には中止の可能性があります。開催可否は、NEWSをご参照ください。



照明:藤本隆行
音響:WHITELIGHT
映像:斉藤洋
美術監修:OLEO
舞台監督:木村孔三

協力:新宿区、新宿中央公園パークアップ共同体、一般社団法人新宿副都心エリア環境改善委員会。

 東京都庁舎を眼前に見上げる絶好のロケーションでのダンスパフォーマンス=写真下。DANCE TRUCKの表題通りにトラックのコンテナ(荷台)が舞台となり、野外パフォーマンスが行われる。この日の参加アーティストはともにトヨタコレオグラフィーアワードのグランプリ受賞者である白井剛、鈴木ユキオ、東野祥子らコンテンポラリーダンスの分野で日本を代表する振付家・ダンサーが参加。しかも野外での無料公演でダンスに興味のある人やダンスってどうなのだろうと考えている人には必見のイベントだったのではないだろうか。
 特に都庁を前にしたこの場所で今の時期に忌野清志郎が歌う日本語版「イマジン」に乗せて踊りながら、平和を訴えたかにも見えた鈴木ユキオのソロパフォーマンスは「いま・ここで」の意味合いから熱い胸騒ぎを感じさせるものであった。
 とはいえ、実はこの日を通しての白眉は元アイドルBiSのメンバーだったテンテンコが蛍光灯でノイズ音楽を奏でることで知られる伊東篤宏と一緒にキーボードを弾きインストュメンタルの楽曲を披露したことで「この人はいまこんなことをしてたのか」と驚かされ、なぜこういう風になっているのかという疑問が脳裏を駆け巡ったのだった。

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東野祥子  
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白井剛+森川佑護
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川村美紀子
 めっちゃ暴れる系。
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新人Hケソリッサ!
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テンテンコ+伊藤篤宏
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鈴木ユキオ

ANTIBODIES Collective Installation&Performance
「惑星共鳴装置」



ZVIZMO (Tentenko + Atsuhiro Ito) at Ebisu Batica Nov 2017

悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』@東京芸術劇場

悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』@東京芸術劇場

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日程
2019年09月04日 (水) ~2019年09月08日 (日)

会場
シアターウエス

作・演出
作・演出:山崎彬 音楽:岡田太郎

出演
中西柚貴 潮みか 植田順平 東直輝 佐藤かりん 畑中華香 山崎彬 清水みさと(オーストラマコンドー)ほか

  悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』は山崎彬版のスラップスティックコメディといってもいいかもしれない。随所に岡田太郎によるオリジナルの劇中曲を織り交ぜた生歌唱やダンスのシーンが散りばめられ、山崎彬、植田順平らが演じるオースティン・パワーズ*1を思わせるようなエキセントリックな人物造形、ソフトクリームやアイスクリームをあしらったポップでキッチュな舞台美術などあくまで軽やかなビジュアルイメージは普段の重厚かつ暴力的な世界とは異なり、この劇団のB面的な路線として暑い夏の舞台には相応しいものとなった。
 何と言っても女優が魅力的だ。悪い芝居は毎回客演女優陣がいい味を見せるのだが、ダブルヒロインといえる清水みさと岩井七世もキュートなコメディエンヌぶりがすっかり板につき、裏切らない。これを関西(奈良)のギャルをコミカルに演じる劇団メンバーの中西柚香、潮みかがサポートして悪い芝居ならではの色濃いテイストを見せてくれた。
 再演を見てみたら初演の時に気づかないでうっかり見逃していたことにいくつか気がついた。山崎彬が奈良出身ということもあってか、この舞台には奈良自虐ネタが頻出する。この物語に白い衣装を着た詩人のカップルが出てきてずっとヒッピー的な人物造形と思っていたのだが、この人たちが何と奈良時代の人だったと分かった。詩集を売るときに万葉集がどうとか言っていたが、それはちょっと前の時代の大ベストセラーだったわけだ。ここの部分掘り下げていくとまた見落としていたネタが、いろいろあったかもしれない。
simokitazawa.hatenablog.com

山崎彬をゲストに10月8日セミネールレクチャー開催。早めに予約お願いします。
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青年団リンク やしゃご「アリはフリスクを食べない」@こまばアゴラ劇場

青年団リンク やしゃご「アリはフリスクを食べない」@こまばアゴラ劇場

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作・演出:伊藤毅

兄弟2人暮らし。両親は既に亡くなっている。

知的障害者の兄と、兄の世話を理由に法律家への夢を断念した弟。
2人は、同じ工場でアルバイトをして生計を立てている。

兄の誕生日。友人たちが集まるパーティーの場。
そこで兄を施設に入れることが知らされる。

「彼は、かわいそうな人ですか?」


青年団リンク やしゃご

劇団青年団に所属する俳優、伊藤毅による演劇ユニット。
青年団主宰、平田オリザの提唱する現代口語演劇を元に、所謂『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的とする。
伊藤毅解釈の現代口語演劇を展開しつつ、登場人物の誰も悪くないにも関わらず起きてしまう、答えの出ない問題をテーマにする。


出演

木崎友紀子
井上みなみ
緑川史絵
尾﨑宇内
黒澤多生(以上、青年団
海老根理
岡野康弘(Mrs.fictions)
工藤さや
舘そらみ
田山幹雄(モリキリン)
辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
幡美優
スタッフ

舞台監督:黒澤多生(青年団
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太
美術:谷佳那香
制作:笠島清剛(青年団
宣伝美術 じゅんむ
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 前作「上空に光る」*1東日本大震災後の被災地の変容を描き伊藤毅の代表作ともいえる舞台となった。今回の「アリはフリスクを食べない」は2014年に初演された伊藤の処女作であり、「上空に光る」で固まってきた感のあるやしゃご(伊藤企画)の集団としての方向性を原点に回帰して再確認しているようなところがあった。
 伊藤の作品は日々を生活していくなかで誰の身にも起こるような不条理をリアルに再現して観客の目の前に突きつける。「アリはフリスクを食べない」ではそれは知的障碍者を兄に持ち、彼と同居して生活をともにしている弟とその婚約者を巡る葛藤。平田オリザは現代口語演劇でハイパーリアルな舞台空間を構築したが、伊藤はその手法を駆使して場合によっては目を背けたくなるような彼の存在が周辺の人間に広げていくささくれのようなものを抉り出す。特に知的障害の描写は迫真的にリアルであり、演劇が障碍者を描き出すときにありがちなステレオタイプを徹底的に排除しているのが最大の特色であろう。 
 演劇における障害者といえば大人計画「ファンキー!」における新井亜樹と山本密の演技が迫真という意味でも印象的だが、大人計画ではそれ以外の人物の造形には大きなデフォルメがほどこされていた。当時は差別表現へのポリティカルコレクトネスも現在ほどは厳しくなかったから、いまそれを表現しようとしたら大人計画の時よりも数段上の決め細かな人物造形が必要。例えば平田オリザの現代口語演劇では登場人物のニュートラルな身体を前提とする。そして、それからずれたような身体性を表現する場合にはそれをロボットなどに仮託し、記号的に処理することで関係性そのものは記述可能なものに還元する。
 伊藤の登場させる障害者にはそういう記号性に還元できない「そこに実在する存在」をあくまでできるだけ忠実に再現するというようなもので、下手に演劇でよくあるようなデフォルメをしようものならば隠蔽された差別意識の発露などと解釈されかねない昨今の状況であえてそれに挑戦するというところに伊藤の作家としての矜持を感じた。
 兄役を演じた辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)も伊藤の困難な要求によく応えていたと思った。そして、こんなことを書くと誤解を読みかねないのだが、天真爛漫で傍若無人な井上みなみ演じるカナコちゃんが本当に魅力的だった。ともするといたたまれないようなつらい場面ばかりにもなりがちな芝居に明るい光を当てていた。もともとうまい人だが並外れた演技力に脱帽した。
 青年団は所属している作家に多様な活動形態を提供している。伊藤毅は演出部ではなく、俳優として青年団に所属し自らの活動を展開している。類似の例としてはサンプルの松井周がいたが、松井の場合は青年団の本公演には出演しなくなってかなり久しいので、新進の劇作家、演出家であるととも青年団の中心俳優でもある伊藤が青年団の豊岡移転後、どのように活動していくのかは青年団の今後を占う試金石にもなりそうだ。