下北沢通信

中西理の下北沢通信

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7月のお薦め芝居(2005年)



7月のお薦め芝居


7月のお薦め芝居

by中西理



 




 いよいよ7月、夏本番である。舞台なぞにいかず女の子と海にでも出掛けた方がたいていの人は楽しいに決まっているのだが、一緒に行ってくれる人もいない私は泣く泣く暑いなかを今月も劇場通いである。
 大阪日記もやや更新が遅れ気味だが、今月こそ張り切って更新したいと思っているので、ぜひ覗いてみてほしい。




 関西で今月まず注目したいのはびわ湖ホールで開催されるびわ湖夏のフェスティバル(7月23日、24日、8月6日、7日)である。これは2年に1回のペースで夏にびわ湖ホールで開催されるフェスティバルで、これまではダンスフェスティバルの様相が強かったが、今年からはダンス主体ではあるものの現在もっとも注目すべき演劇集団であるチェルフィッチュ「目的地」★★★★、身体表現系では東京を代表する実力派だが、関西ではこれが初公演となるク・ナウカ「王女メディア」★★★★と演劇でも注目の舞台がラインアップに入った。びわ湖にはいけないという関東の人には7月24日にBankART Studio NYK/ 2F Gallery Aでチェルフィッチュ「目的地」ワークインプログレス★★★★というのがあるので、そちらもどうぞ。


 このお薦め芝居を毎回読んでくれている人だったら、いまさら説明するまでもないが、ここ一年以上、「いまもっとも刺激的」といい続けているのがチェルフィッチュの舞台である。関西には昨年、神戸に来て「三月の5日間」を上演したのだが、その時に会う人会う人に面白いと言いまくったり、ここを始めとしていろんなところに書いたりしたのに大阪の演劇人がほとんど公演に姿を見せなかった*1のにがく然とさせられた。結局、その作品が岸田戯曲賞を受賞したのだから、来なかった人は「ざまあみろ」言いたい気分なのだが、今回こそ関西のすべての演劇関係者、演劇ファンには瞠目して見なさいと言いたい*2


 一方、ク・ナウカはこれまで関西での公演がなかった東京の劇団のなかで最大かつ最後の大物といった存在でそれが代表作である「王女メディア」を持って、ついに公演をするのである。こちらの方は「最も面白い劇団」と言い始めてから、10年以上の歳月が立っているわけで、なぜ公演がこれまでなかったのかといえばク・ナウカの場合、地方公演は演劇祭などで招へいされれば行うが、それ以外の自主上演はしないということがあったわけでもあって、これだけでも関西の演劇事情の貧しさがうかがいしれることでもあって、これまで寂しい思いをしていた。だからこそ、今回の公演は「びわ湖ホール? 遠いからなあ」などと言ってる場合ではなく。身体表現に興味を持つすべての関西人にとって必見であると声を大にして言いたい。宮城聰の演出にも注目してほしいが、なんといっても最大の見所はメディアを演じる美加理。舞台に屹立して存在するとはこういうことだというここでしか味わえない稀有な存在の魅力を堪能してほしいと思う。




 びわ湖ホールの夏のフェスティバルはこのほかにもサシャ・ワルツ&ゲスツ「d'avant」★★★★伊藤キム「未来の記」★★★★白井剛ロダンス★★★★と注目のダンス公演が目白押し。そのほかにも公演の合間に、北村成美、j.a.m. Dance Theatre、福岡まな実はじめ、ダムタイプパフォーマーである砂山典子や振付家として赤丸急上昇中の垣尾ら関西を中心にした注目ダンサー・振付家がにびわ湖ホールのいろんな空間を使って踊る無料公演「ダンスピクニック」などもあり、お得感がいっぱいだ。


 特に日本におけるドイツ年に関連して行われるサシャ・ワルツ&ゲスツ「d'avant」★★★★は日本ではここだけの公演。サシャ・ワルツ&ゲスツはドイツを代表する劇団であるシャウビューネの芸術監督でもあるサシャ・ワルツが率いるカンパニーで今年はエジンバラ演劇祭にも招へいされるなど欧州でも注目されており、これに合わせてびわ湖に来れば23日(sonno、北村成美、清水啓司)、24日(花嵐、垣尾優、安川晶子)と関西注目のダンサーが見られる貴重な機会でもあり、これは夏休みの京都旅行と組み合わせて東京から遠征するのもあり。特に「夏の女王」ともいわれるしげやんの水着姿でのパフォーマンスはここでしか見られないもので一見の価値あり。


 





 先月に引き続きイチオシしたいのはCRUSTACEA「GARDEN」★★★★(梅田HEP HALL)*3。今年の春横浜ソロ&デュオコンペティションでナショナル協議員賞を受賞した濱谷由美子の受賞後最初の新作となるとともにHEPHALLがスタートさせるダンス企画「Dance expression」の最初の公演にもなる。
 前回の「R」はCRUSTACEAには珍しく立ち尽くすというようなミニマルな動きを主体とした舞台だったが、「スピン」は一転して体力の限界まで踊り続けるというコンセプトで、ダンサー2人のユニットであるCRUSTACEAの原点回帰といった作品。今回の「GARDEN」は横浜で上演した「スピン」を発展させたもの。
 関西のダンス公演はこれまではどうしても限られた観客が見るものというイメージが強かったが、梅田HEP HALLがダンス公演のプロデュースに乗り出したのはそういう状況を変えていこうという意図が感じられ、ぜひとも私も応援していきたいところ。その最初の公演としてはエンターテインメント性が高くダンスファン以外にも訴求力のあるCRUSTACEAの起用はうなずけるところがあり、そういう意味でこれはダンスをこれまであまり見たことのない人にもぜひ見てもらいたい舞台なのである。
 そういえば今となってはずいぶん昔のことになるが、東京のコンテンポラリーダンスの客層が一気に広がっていくきっかけとなったのが、当時まだ無名といっていい珍しいキノコ舞踊団H・アール・カオス、Nestが参加した渋谷SEEDホール*4のダンスマトリックスなる企画であった。都心の一等地にある商業施設内にあるちょっとおしゃれな小劇場という点では共通点があるし、この公演が成功して後に次の公演が続くことで関西のダンスの置かれた状況に一石を投じてほしいという意味でも注目の公演なのである。




 ダンスではじゃれみさ(砂連尾理+寺田みさこ)のかかわる2つの公演砂連尾理+寺田みさこ「I was born」★★★★(京都アトリエ劇研)、Dance×Music!★★★★(東京アサヒスクエア)も楽しみな舞台。「I was born」は松田正隆の戯曲をテキストにじゃれみさがそれをダンス化する試みの第1弾。次回公演は松田正隆の書き下ろし新作を砂連尾理+寺田みさこが舞台化する計画なのだが、今回はそのためのワーク・インプロゲレスとして松田の戯曲からの抜粋をテキストにそのダンス作品を製作する。一方、Dance×Music!は音楽家振付家の共同製作の試みで、じゃれみさは桜井圭介とジャズの音楽を使いちゃぶ台に畳の空間で小津安次郎の世界に挑戦する。こちらは北村成美×巻上公一というともにエンターテイナーとして一流の存在が競演するダンスとの2本立て。





 ニブロールを主宰する矢内原美邦による矢内原美邦プロジェクト「3年2組」★★★★にも注目したい。とここまで書いてくるとお薦め芝居といいながらダンスばかりで演劇がほとんど出てこないじゃないかと文句がでそうだが、これはれっきとした「演劇」の公演、というか少なくとも矢内原美邦はそういう風に言い張っているらしい。もっとも、あえて「演劇」と括弧で囲んだのはどう考えても普通の意味での演劇の舞台になるとは思えないからで、そういえば以前ガーディアンガーデンに参加した時のニブロールも演劇公演と称していたような気がする。あれから、共同制作で宮沢章夫の「トーキョー/不在/ハムレット」にも参加するなど演劇の世界での経験値は増えているはずだが、それでも普通の演劇じゃないことだけは間違いなさそうで、それはすなわち刺激的ということかもしれない。




 東にニブロールあれば西にクロムあり。クロムモリブデン「ボーグを脱げ!」★★★★も少なくともダンスじゃないことは確かだが、普通の演劇とは言いがたいのも間違いないだろう。チラシの表には剣道の防具を付けた人がでているのだけど「絶対違う、そんな話じゃないはず」。一方、劇団サイトの作者の日記には「今回はのテーマは『笑いと青春は残酷なもので』。家庭内暴力 虐待をテーマにコントを書いてるのですがどうしても笑いを重視すると 無理やり虐待をテーマにしなくてもいいだろうてな感じになる 笑える暴力コント 笑える暴力についてのコント」と書いてあるのだが、こちらもそのまま鵜呑みにしていいものかどうか……。そういうわけで内容はいっさい分からないのだが、それでも絶対面白いはず(笑い)。うーん、どうもうそくさい。




 演劇では弘前劇場「ケンちゃんの贈り物」★★★★に注目したい。以前、「私が選ぶ旬の10人」にも取り上げた畑澤聖悟の新作である。こちらも劇団サイトにあるあらすじを紹介すると「7月。青森県青森市の郊外。築30年の家に住む79歳の父と49歳の息子。世の中から取り残されたような二人暮らしである。いつものように始まった朝、子は言った。「ワからプレゼントあるんだけどさ」「なんだば、そりゃ」そして見知らぬ女性がひとり、現れるのであった。」。畑澤の作品はなにかそれにヒントを得たという下敷きがあることが多いのだけれど、今回はひょっとしたら表題からして「賢者の贈り物」(O・ヘンリー)? それともただの駄洒落?。




 KUDAN PROJECT「百人芝居 真夜中の弥次さん喜多さん」★★★★も天才、天野天街だからこそ許される究極の馬鹿企画として注目してみたい。どう考えてもリスキーでどうなるんだか心配でならないのだけれど、とりあえず成功・失敗の如何にかかわらず伝説の公演となるであろうことは間違いないだろう。




 スクエア「けーさつ」★★★★にも注目したい。スクエア*5といえばべたなイメージがつきまとうようだが、自らのサイトに「スクエアコメディのつくりかた 」と題して、*6どういう種類の笑いを志向しているのかを宣言しているかを読めば分かるように、その笑いは実は人間観察に基づく、シニカルなものである。強烈な個性を持つメンバー4人に加えて、前回出演した楠見薫のように客演の女優陣をうまくつかって思わぬ魅力を発揮させるのもここのセールスポイントといえるが、今回はわかぎゑふリリパットアーミーII) 佐久間京子(ランニングシアターダッシュ)と強力な客演を迎え、これを迎え撃つスクエアの4人がどんな風に渡り合うのかも楽しみだ。 




 毛皮族「銭は君」★★★★にも注目。すでに前哨戦としてレビューで大阪上陸を果たした毛皮族だが、今回は大阪では初めての本公演も行う。毛皮族は「ユリイカ」の演劇特集にもチェルフィッチュシベリア少女鉄道なんかと一緒に大きく取り上げられていて、「暗黒宝塚」などと紹介されていて、それはそれで間違いではないとは思うし、私も人にそんな風に説明してきた時もあった。だが、どうもそう説明することでは楽しさの感じが伝わらないなあと思って、思いついたのが「巨大カラオケ演劇」である。友人などとカラオケに行った時に自分で歌を歌うのも楽しいし、もちろん、カラオケはそのために行くのだが、時たま、そのなかにひどく芸達者な子がいたりして、聞いていてすごく楽しいということがあった記憶はないだろうか。これはコンサートやライブに音楽を聴きに行った時の感覚とは少し違う楽しさであり、いわば宴会芸の楽しさにも似た部分がある。毛皮族江本純子は芸達者で歌もうまいが、その魅力には大きな劇場であったとしても、芸達者なカラオケを聴いているようなインティメート(親密)な感覚があって、そこには当然、いくぶんのチープさも伴っているわけだが、そういう観客との距離の近さがこの劇団の魅力ではないかと思ったのだ。でも、どう考えても「巨大カラオケ演劇」じゃほめているようには聞こえにくいから怒るだろうなあ、本人は(笑い)。それを考えればファンにとっての究極の夢は江本と2人でカラオケに行くということになるのかもしれない。だとすれば一度、観客から大金をとって江本純子カラオケリサイタルというのをやってみたらどうだろうか。ファンなら、5万円払う人いるかしら。もし、そうなら十分商売になるのだけれど(笑い)。





 今年は夏以降の相次ぐ企画への準備もあって上期の公演がなかったが、嵐の季節への前触れとなるトリのマーク(通称)「ザディグ・カメラ」★★★★にも注目したい。年に1回の下北沢ザ・スズナリでの公演が恒例ともなった感があるが、毎回ここでの公演では普段見慣れたスズナリの空間を変えてしまうような工夫があるのも楽しみ。今回はどんな趣向を用意しているのだろうか。




 
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。







中西


*1:姿を見せたのは京都のダンス・演劇関係者だった

*2:個人的な憤怒が思わずきつい言葉になってしまった。最近分かってきたのはどうも大阪の演劇関係者は東京の先鋭的な若手劇団に関心がないのではないかということだ。

*3:公演の詳細はこちらを参照http://www.h2.dion.ne.jp/~capcr/page003.html

*4:今はなきと言わなければならないのが残念だが

*5:http://square.serio.jp/

*6:1.まず、身近で生活している人を用意する。2.その馬鹿さが笑えるまでよく観察する。3.次に、自分の馬鹿さを知る。4.馬鹿が馬鹿を笑っていたことに気付き、驚く。5.しかるのち、2つの馬鹿を共に笑う。6.明日も、とにかく生きてみる。7.1にもどる