下北沢通信

中西理の下北沢通信

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都筑道夫「退職刑事2」(創元推理文庫)

 都筑道夫「退職刑事2」(創元推理文庫ISBN:4488434037
 先日亡くなった都筑道夫の連作短編集。「遺書の意匠」「遅れてきた犯人」「銀の爪きり鋏」「四十分間の女」「浴槽の花嫁」「真冬のビキニ」「扉のない密室」の7編が収録されている。現職刑事である息子が持ち帰った難問を退職刑事である父親が解き明かすといういわゆる安楽椅子探偵ものの連作短編集だが、この形式は本人が明かしているようにジェームズ・ヤッフェの「ブロンクスのママ」シリーズをもとにしている。
 というのが一応のこのシリーズの説明なのであるが、そんなことは後書きを読めば載っているし、私がいまさらくどくどここで解説することでもない。このシリーズは京大ミステリ研在籍時に一冊目を読んでから、その当時は手に入りにくかったこともあってそのまま放置していたのだが、都筑道夫がその評論「黄色い部屋はいかにして改装されたか?」のなかで提唱した(当時の)新しいミステリ小説=モダンディテクティブストーリーの実践例として注目されるもので、その実態は「ホワイダニット」すなわち、なぜそんなことをしたのかという動機の解明に焦点が当てられるところにその特徴がある。
 ここで動機としたのはちょっと紛らわしいところがあるので補足すると、それはなにも犯罪それ自体の動機、つまり痴情のもつれとか、遺産めあてとか、復讐とか、そういうことではなくて、もう少しささいな謎、例えばなぜその男は3着の上着を同時に持ちながら歩いていたのか(「退職刑事1」の「ジャケット背広スーツ」)という類のものであって、例えばこの短編集に収録されているでは「四十分間の女」ではこんな謎が冒頭で提示される。

22時48分着の下りで浜松に降り23時29分発の上りで帰る、それを繰り返した女が1週間目に死体で発見された。現職刑事の五郎は名誉の負傷で入院中、そこへ見舞客が持ち込んだ「四十分間の女」事件。退屈していた五郎はもちろん、退職刑事である父親、同室の患者も加わって謎解きが始まった。議論百出するも、元刑事の洞察は宛として天眼通の如し。およそ不可解な行動の背景とは。(以上amazonサイトより引用)

 もちろん、これはミステリ小説であるから、事件の背後には犯罪行為が起こっていて、それが最後には真相として示されるのではあるけれど、ここでのメーンの謎はあくまで「なぜこの女がそんな不可解な行動を取っていたのか」というとこにあるのだ。
 この作品集ではほかの作品でも真冬に戸外で死体として見つかった女がビキニを着ていたのはなぜか(「真冬のビキニ」)、殺されて発見された女性のツメが片方だけ切られていたのはなぜか(「銀の爪きり鋏」)というような奇妙な謎が冒頭で提示され、いずれもそれには合理的な理由がちゃんとあったのだということが、解決段階で示される。
 実はこの解決の合理性(つまり動機の合理性といってもいい)がモダンディテクティブストーリーという都筑の主張の骨子であるわけだが、このタイプの謎の構造にはもうひとつ「ホワットダニット」がある。そして、謎の構造からいうと「ホワイ」「ホワット」は表面に見える立ち表れかたが異なるだけで、論理構造は同じ、兄弟のような存在なのである。本当はそのことについてもう少し書きたかったのだが、ここでは時間もないので予告だけの形にして、もう少しほかのところでそのことについて詳しく述べたいと思う。