下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

hmp「under bar」

hmp「under bar」(アートシアターdb)を観劇。

出演:伊原加積 / 臼井沙代子 / 高安美帆 / 藤井雅信 ほか
作:イトウアオヤギ 演出・音響:笠井友仁
振付:浅野泰生 空間デザイン:伊藤友哉
プロフィール
hmpとは「ハムレットマシーンプロジェクト」の略で、ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの作品「ハムレットマシーン」の上演形式を深く追求していくために1999年、近畿大学文芸学部芸術学科演劇・芸能専攻9期生(2001年3月卒)の伊藤友哉と笠井友仁が中心になって結成。作品ごとに独自のコンセプトを設け、テキストを解体し、それに基づいた空間設計や、映像、ダンス、音響効果を駆使した実験的な舞台創りを試みている。

  hmpは近畿大学系のパフォーマンス集団。以前から名前は聞いていたが実際に作品を見たのはこれが初めてである。関西には演劇の分野で前衛的なことを志向する集団は珍しいだけにある程度の期待をして観劇に望んだのだが、今回の舞台は正直言ってちょっとしんどかった。
 実験的ということをこの集団は取り違えているのではないか。実験というのは本来、ある表現したいことがあってそれが既存の方法ではこれまで行われてきたいろんな表現が歴史的な文脈において存在してきたことによるある種の制度性に絡めとられてしまうがゆえにあらたな表現形態にもちいることで、そうした制度性を解体する。
ここに実験あるいは前衛の本質があるのだと思っているのだが、この舞台から感じられたのは「ただ奇をてらって、実験のように見える形式をなぞっている」。しかも、それが結果として新しい表現として感じられるかといえばそうではなくて、「前衛の先祖帰り」のようなものとしか受け取ることができなかったのである。
 実はこの舞台を見て最初に連想したのはチェホフの舞台であった。というとそんな馬鹿なと思うかもしれないが、思い出したのは「かもめ」のなかでトレープレフが芝居の冒頭で上演する新形式の前衛劇なのである。あの劇中劇は以前にあれには実際にモデルがあったのか、それともチェホフのでっち上げだったのかというのが気になってネットなどで調べてみたものの分からなかったということがあったのだが、モデルがあったにせよ、ないにせよ、どちらにせよ、あれは新形式のパロディとしてチェホフが戯画化して描き出した舞台なのだということは確かで、hmpの舞台からは実験性ではなく、前衛のカルカチュア(戯画)のような匂いを感じてしまった。
 こういう印象を受けたのはこの舞台が実験劇というよりはこういうにすればいわゆる前衛に見えますという制度化された前衛のステレオタイプの集積のようなものになってしまっていたからではないかと思う。身体表現、テキスト、音響、照明などそれぞれの要素のクオリティーについても課題は山積ではあるのだけれども、それはこのキャリアの集団にとってはやむおえないところもあり、今現在の完成度の高さを求めることはしないが、それ以上に例えばテキストひとつを取ってみても、器官なき身体などというドゥルーズの用語を知ったかぶりで引用するような安易なことはやめて、自分の表現として言葉というものと向き合うということが必要なのじゃないだろうかと思って、舞台を見ながら苛立ちが抑えきれなかったのである。