下北沢通信

中西理の下北沢通信

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千日前青空ダンス倶楽部「夏の器 総集編」

千日前青空ダンス倶楽部「夏の器 総集編」(アートシアターdB)を観劇。

演出・振付 紅玉

出演 稲吉 、てるてる 、ぽん太 、すずめ 、あやめ

宣伝美術: 川井ミカコ
舞台美術: 小石原剛
題字: 紫舟

照明: 三浦あさ子
音響: 秘魔神
舞台監督: 藤村司朗
音楽提供: 勝藤珠子
ビデオ: 井上大志
写真: 伊東かおり

プロフィール
2000年11月、DANCE BOX「Dance Circus 14」にてデビュー。〈身体〉を予め用意されたイメージを表現するための媒体と考えるのではなく、〈身体〉それ自身に記憶されている風景や歴史を引き出すことにより作品を創っている。また、能の〈静謐さ〉、歌舞伎に通じる〈ユーモア〉を感覚させる作品は、個々ソロ活動も行う新鮮な踊り手の魅力と相俟って、独自の表現として注目されている。

 千日前青空ダンス倶楽部の新作「夏の器 総集編」(10月14日)を大阪・新世界のフェスティバルゲート内にあるアートシアターdBで観劇した。
 千日前青空ダンス倶楽部は関西のコンテンポラリーダンスの一大拠点でもあるこの劇場を運営するNPO「DANCE BOX」のエグゼクティブプロデューサーでもある大谷燠(振付家としては紅玉)が率いる舞踏カンパニーで、発足は2000年11月。これまでパリ、ニューヨークをはじめとする海外での公演や国内のイベントに参加しての公演は行ってきたが、本格的な単独公演はこれが初めてだった。
 大谷は舞踏家としてはビショップ山田率いる「北方舞踏派」の出身で、いわば土方巽直径ともいえる経歴の持ち主だが、そうでありながら、自らが率いるこの集団での振付には身体においては舞踏的なメソッドを基礎としていながらも、パフォーマーである若い女性ダンサーの個性を生かしたポップな軽味を感じさせるところがあって、「舞踏」といったときに直ちに連想されるようなクリシェからはみだすような表現をしているのが特徴だ。
 音楽に合わせて仕草性の強いミニマルな動きを群舞によってユニゾン的に繰り返していくような舞踏的というよりも、ある種のコンテンポラリーダンスに見られるような手法やどちらかというと小柄な若い女性ダンサーが体現する「少女」や「女の子」のイメージを強調するようなイメージから、以前はこのカンパニーについて聞かれた時に舞踏版の「珍しいキノコ舞踊団」などと説明したこともあったが、最近はメンバーそれぞれのダンサーとしての成長・成熟にともなって、少女から女性への脱皮というようなもう少し違う面も見られるようになってきている。
 今回の作品について言及する前に長々とこれまでの経緯じみたものを解説したのは行数稼ぎというわけではない。「夏の器」というこの作品は単独の作品であるとともに「総集編」とも銘打たれたようにこれまでこの集団が踊ってきた作品から取り入れられた場面もかなりたくさんあって、カンパニーの成長の歴史を回顧しながら、集大成するというような意味合いが感じられたからだ。
 会場に入ると天井から水の入ったビニール袋(夜店の金魚すくいで金魚を入れてくれるようなもの)が無数に吊るされていて、ダンス公演としてはちょっと珍しい舞台美術にびっくり。パフォーマンスは客席側の通路から、ゆっくりと花嫁衣裳姿のダンサーたちが登場して、始まった。最初のところが一番舞踏的な場面といえばいえるだろうか。ただ、全員が舞台の方に移動して、横一列に並ぶと突然、頭の上に掲げていた赤いぽっくりのような下駄を両手に持ち替えて、床をパカパカと叩きながら、すごい速さですずめ(きたまり)だけを残してはけていってしまう。こういう予想外の展開がなかなか面白い。
 懐かしかったのは中段で登場するオクラホマミキサーの曲(おおたか静流が歌う「あんまりあなたがすきなので」)に合わせて4人のダンサーが踊る場面である。記憶に残っているだけでも少なくとも2002年2月のコンテンポラリーダンスツアーin京都で野外で上演されたのを見ているので、このシーンはおそらくこれまで何度となく踊られたはずだ。
 音楽に合わせて群舞をユニゾン的に繰り返していくと書いたのはこの場面などに特徴的に出ているのだが、客席の方を向いて、体育座りのようにひざをまるめた4人のダンサーがそのままで、まずつま先だけを曲に合わせてパタパタとやったり、それが人によって、1人だけ少し違う動きをしてみせたりする。ユニゾン的な群舞においてこうして少しづつアクセントを加えていったりして、変化を持たせる手法というのは前にキノコの例を出したが、ローザスピナ・バウシュなどが以前にやってみせた椅子を使ったダンスなどの延長線上にあり、舞踏の範囲内にありながら、西洋のコンテンポラリーダンスの群舞の振付を換骨奪胎しているのが千日前青空ダンス倶楽部の面白さで、さらにこの場面では子供のような仕草がいろいろ振付のなかに取り入れられてもいて、そこのところが昔見た時から舞踏舞踏していなくて面白く思ったところだった。
 この後、出てくる3人のダンサーが豆腐を食べるシーンもそうだが、こういうちょっとコミカルで、しかもどことなく可愛らしくて、微笑ましくも笑ってしまうようなところは他の舞踏集団ではあまり見られないところで、この集団の持ち味といっていいだろう。
 集団としての成長は後半の場面で見られた。秀逸だと思われたのはバレエのコッペリアに登場するような機械仕掛けの人形を思わせる動きを取り入れたデュオ(ぽん太、てるてる)の部分。ここは最初、奥の壁際にいた2人のダンサーがゆっくりと歩きながら前の方に出てくるのだが、衣装といい小道具の洋風の扇といいバレエを連想させるところがあって、ゆっくりした動きは身体的なメソッドとしては舞踏のテクニックを引き継いでいるのであろうが、ムーブメントはバレエの舞踏的解体とでもいったらいいか、とにかく、普通にイメージする舞踏を大きくはみ出した動きならびにテイストであることは間違いない。
 トム・ウェイツボンジョビの音楽を使った後半の群舞でも新境地が見られた。ここでは大音響のロック音楽に乗せて、性行為を思わせるようにダンサーが腰のあたりを激しく上下させるような振付もあって、ここでのダンサーは「女の子」というよりも明らかに性的なものを含めて「女」を感じさせた。