下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

西島大介「アトモスフィア1」「アトモスフィア2」

西島大介「アトモスフィア1」「アトモスフィア2」早川書房)を読了。
 「何を隠そう最新作「アトモスフィア」上下巻は、シベリア少女鉄道*1の演劇に最も強い影響を受けています」とウェブの日記で西島大介自らが明らかにしているのを先に読んでしまっていたので、このラストには「来たか、来たか」という感じでそれほど驚きはなかったのだけれど、前知識なしで読んだら許せるか許せないかは別にして、これはちょっとびっくりするだろうなと思った。
ただ、物語内の世界観はシベリア少女鉄道の土屋亮一とは全然違っていて、ほかの作品を読んでみないとはっきりしたことはいえないけれど、これははっきりと西島大介の世界である。ある日突然、わたしの前に「分身」である「わたし」が現れて、それが増殖していくことで日常世界がどんどん不条理に崩壊していくという、ドッペルゲンガーテーマのSF漫画なのだが、この最初の設定が少しづつエスカレーションしていく展開がとてもうまい。
 だから、土屋の作品などと比べると前半部分はSFファンなどにははるかに面白く読ませるところがあるのだが、実はこれがラストの衝撃性をかえって弱めているんじゃないかと思わせるところがあり、逆に惜しまれたのだ。
 というのは、実はこういうような構造だったら、SFにはなんといってもなんでもありの世界だから、前例に近いものがないわけじゃないのだ。例えば私がこの作品を読み終わって最初に思い出したのはフレデリック・ブラウン*2だったのである。
 以前から、シベリア少女鉄道のやっているようなアイデアというのは必ずしも、演劇というメディアじゃなくても可能なのじゃないかとは思っていたのだが、フォロワーがマンガとういうジャンルに出てきたというのはちょっと意外であった。だが、このいわばマンガ版のシベリア少女鉄道ともいうべき、「アトモスフィア」を読んでみたことで逆に分かったこともあった。
 ひとつはこれまでシベリア少女鉄道を見ていた時にはどちらかというとアイデアの部分に先に気をとられたり、圧倒されていたこともあって、あまり気がつかなかった、あるいは後回しに考えていたところもあったのだが、シベリア少女鉄道にとってそれが演劇であるかどうかはそれほど重要ではないにしても、それが生で展開されるライブであり、しかもそれが生身のパフォーマーによって上演されているということは決定的に重要なのだということだ。
 そこでは馬鹿馬鹿しいアイデアの面白さよりも、そのアイデアを実現するために出演者、スタッフが一丸となって汗水たらして頑張っていて、そのことはある意味、涙がでるほど感動してもいいところだが、実はその努力がとんでもなくしょーもないことのために費やされているという不条理。この無償の蕩尽のありさまが面白いのである。
 その意味ではマンガでそれをやるというのはどういうことになるのか。もちろん、西島がそれを目指す必要などないのだが、そこには「マンガならではのなにかのアイデア」が本当は必要なのではないか*3と思った。
 つまり、この「アトモスフィア」という作品はものすごくよく出来ているとは思うが、マンガというジャンルがすでにメタ「マンガ」的実験を赤塚不二夫 の例を出すまでもなく、やりつくしているジャンルだということを考えれば、残念ながら、この「アトモスフィア」がやっていることはマンガ内の「メタ」でしかなくて、そこではやはり、「大島弓子が……」とか、「手塚治虫が……」とかいう既視感がともなうというのが否定できない気がした。
 ないものねだりにすぎないようなことを言ってることは百も承知の上でのことだが、シベリア少女鉄道に挑戦するなどという無茶なことを試みたことがすでに快挙であるからこそ、それ以上の期待をしたくなったのである。
 いっそここまで来たら、土屋と西島の本格的コラボレーション*4を読んでみたいという気にさせられたのだが、なんとか実現しないだろうか。

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 京都精華大学の編集による漫画専門誌。なかなか読み応えがあります。「のだめカンタービレ」の二ノ宮知子のインタビューがとぼけた人柄がうかがえて面白かった。

*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060305

*2:「狂った星座」とか「みみず天使」とか

*3:勝手なことを書いたが、演劇と比べたとき、マンガのメディアとしての強固さを感じる。演劇のようには簡単にはその形式は崩壊しないのである。大きいのは紙に書かれていることだろうか。紙に書かれて絵と言葉があればという形式が守られていればなんでもマンガになりうるのか。マンガの成立する条件というのを考えてしまった

*4:つまり、原案ないし原作・土屋亮一、作画・西島大介