下北沢通信

中西理の下北沢通信

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超人予備校「迷い犬のサクマさん」@independet 1st

超人予備校「迷い犬のサクマさん」(independet 1st)を観劇。
元・遊気舎の魔人ハンターミツルギによる新劇団の第2回目の公演。旗揚げとなった公演は見逃したので、今回が初めての観劇である。魔人ハンターミツルギは遊気舎に在籍していたときから個人プロデュースユニット「トリオ天満宮*1というのを主宰していて、この芝居が終わった後、「トリオ天満宮はハリウッド、超人予備校ではもっとB級テイストのものを」と言い出したのだが、ちょっと待て(笑い)。私に言わせればトリオ天満宮の芝居こそB級そのものじゃないかと思ったのだが……。
 「迷い犬のサクマさん」は表題通りに犬がたくさんでてくる芝居である。というか、飼い主も出てはくるけれどほとんどの役者が付け耳をつけたような可愛らしい衣装で犬を演じるのだ。しかも、物語も基調は最近のディズニーのアニメを思わせるようなほのぼのとした筋立て。「困ったところに来てしまった」。映画を見ても、舞台を見ても、すれっからしの感想しか思い浮かばない私のような人間にとっては正直それが芝居がはじまっての最初の印象であった。
 もっとも舞台で展開されていることは冷静になって眺めてみると相当に馬鹿馬鹿しい。犬が出てくる芝居といえば市村正親スヌーピーを演じたミュージカルのことを思わず思い出したりしたが、若い女優たちはまあ置いとくとしても、いい年をした男優たちが真剣になって演じる犬というのは考えようによってはとても気持ち悪い(笑い)。
しかも、これは子供向けの芝居でもミュージカルでもなく、れっきとした小劇場演劇なのである(笑い)。
 ところがである、魔人ハンターだけあって、なにかの魔力を持ってでもいたのだろうか。最初はなんだかなあと見て見ぬふりをしてみていたこの芝居だが、しばらく見ているとまるでアニメでも見ているかのようにそうした不自然さが気にならなくなって、役者たちの演じるキャラが犬のように見えてくるのが不思議だ。
 俳優の演技力ひとつで観客の想像力を喚起し、なにもない空間に演劇的空間を構築していく。これぞ演劇の力か、と思わず誤解しそうになったが、なんとなく違う。絶対にこれはそんなものじゃない。と、その時ふと脳裏に浮かんだのが「コスプレ」である。超人予備校は「コスプレ劇団」だったのだ(笑い)。
 そういう風に考えると、超人予備校だけでなく、前回見た超人予備校プレゼンツ トリオ天満宮HERO'S 「ゴリラ林柴犬彦」も芝居を見てから半年近くたってもあの強烈なキャラが忘れがたい「エヒメ姫」をはじめ、コスプレ的登場人物の魅力満載だったではないか。
 
 例えばこれはこの芝居の1シーンで子犬が泣いてるところなんだけれど、この耳のついた帽子と可愛い衣装。演じている本人はそうじゃないだろうけれど、これは少なくとも演出家は明らかに観客の「萌え」を狙っていないだろうか。日本橋にある劇場を選んで、こういう芝居をやっているところも怪しい(笑い)。舞台がはねてからこの衣装のままで芝居を見に来た知り合いと交歓している姿など見ると、場所が場所だけに知らない人が見たら、なにか別の種類のイベントかと間違えられてもおかしくない光景だった。
 そう思い、芝居の後で魔人ハンターミツルギをつかまえて直接聞いてみると「そんなことは頭の片隅にもありません」と完全否定。しかしであるそんなことではこの私は騙されなかったのである(笑い)。楽日の打ち上げの後行ったカラオケでうむをいわせぬ証拠を発見したのだ。「そのカラオケは少しコネがあって安く借りれるから」とミツルギは話していたのだが、その場所に入ってみてびっくり。そこはなんといろんな種類の衣装があって客がそれを借りることのできる「コスプレカラオケ」だったのだ。しかも、コネというのはその店の宣伝ポスターに劇団の役者たちが出演していた。当然、コスプレの仮装姿である。
 しかも、さらに聞くと芝居のときの衣装を貸してもらったり、芝居で使った衣装をその店にも置いてもらったりもしているということも判明した(笑い)。動かぬ証拠見つけたり。もう一度言おう。超人予備校は「コスプレ劇団」だったのだ(笑い)。
 戦略的には日本橋で芝居をやり続けて、むしろその「コスプレ」「萌え」路線を強力に推進していくべきではないかと思っていたのだが、なぜ魔人ハンターが頑なにそれを否定するのか。そう思っていたら本人から「超人予備校旗揚げ公演『鶴に恩返し〜例えば火の鳥の飲む麦茶〜』が第13回OMS戯曲賞の最終選考に残りました」とのお知らせメールが来た。そうか、戯曲賞の候補になって「コスプレ劇団」はやはりまずいのか(笑い)*2
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*1:トリオ天満宮のレビューhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060709

*2:最後に誤解されると困るので補足をしておくとこれは京極夏彦が小説のなかで書いていた「空想を巡らせて愉快なことを云う」類の文章であり、つまり創作。実際の魔人ハンターミツルギはけっしてそんな邪まな人間ではありません。いいやつです(と思っているのだが)どうなんでしょうか(笑い)