下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

BATIK「ペンダントイヴ」@びわ湖ホール

BATIK「ペンダントイヴ」びわ湖ホール)を観劇。

 構成・演出・振付:黒田育世
 舞台監督:寅川英司 照明:森島都絵[インプレッション] 音響:山田恭子
 衣装:田中洋介 宣伝美術:小石原剛 制作:ハイウッド
 主催:BATIK 提携:世田谷パブリックシアター
 助成:セゾン文化財団、独立行政法人 日本芸術文化振興会
 協賛:トヨタ創造空間プロジェクト、キリンビール株式会社
 出演:
 BATIK 植木美奈子、大江麻美子、梶本はるか、清家悠圭、田中美沙子、
 土井唯起子、西田弥生、松室美香[GAGA]、矢嶋久美子、黒田育世
 アシスタント:中津留絢香
 音楽;松本じろ、スカンク

 「ペンダントイヴ」は黒田育世(BATIK)のひさびさの新作である。三月に東京で初演されたが、今回の再演で初めて見ることができた。ソロダンスの「モニカモニカ」あたりから黒田が追求しているのがハードに負荷のかかる振り付けで、その振り付けに技術的にキャッチアップできず制御できなくなった身体がその時にどんな風に見えるのかということがはっきりしてきた。「モニカモニカ」ではそれを自分の身体を使ってやってみせたが、今度はそれをグループ作品としても試みた。
 黒田は振付家としては複数のダンサーの配置や動きによって、舞台上で空間構成をしていくことに優れたタイプと判断してきた。つまり、「SIDE-B」のような大勢のユニゾンに近いような群舞にこそ真骨頂はあると思ってきたが、その一方ではダンサーを群れとして扱うむきが強いことからこれまでの作品では出演するすべてのダンサーは黒田の分身のようなイメージがあって、個々のダンサーの顔はあまり見えない印象が強かった。
 ダンサーらはこの作品で皆、泣き叫びながら体を痙攣させたり、広い舞台を子供みたいに全力で走りまわり、壁に体を打ち付けるような自虐的な行為を試みたりする。あるいはなにかに憑かれたかのように身体をぐるぐると回転させたりもする。こういうイメージはこれまでの作品にも登場する黒田育世ワールドであり、その意味でこの「ペンダントイヴ」でもダンサーは皆黒田の分身ではあるのだけれど、全員が匿名性として登場し、顔を隠して群舞を踊る「SIDE-B」などとは異なり、ここではダンサーそれぞれの個性の違いがはっきりでている。顔と名前がはっきりと一致しないのが残念だが、冒頭の場面で天井から降りてきた輪のようなものにぶらさがって登場した幼児のような白い衣装を着たダンサー(清家悠圭)。中段の全員での群舞の場面で元気さが目立っていた比較的小柄なソバージュ髪のダンサー。そしてもちろん黒田育世自身とこの作品ではそれぞれのダンサーの個性に合わせて役割があてがわれたように見える。また衣装もひとりひとり色や形が細かく変わっていたことなどもあって「それぞれの顔が見える」感じを強く感じる作品だったのだ。
 それを象徴するようなものが「イクちゃん」「ミサちゃん」「ユカちゃん」などと舞台上でそれぞれの名前を呼び合って叫ぶ場面である。最初なにか分からなくて一瞬戸惑ったのだが、すぐにそれぞれのダンサーが舞台上で実名を呼び合っているのだということが分かった。ここには確かに「固有名」が登場することで、記号としての身体から固有名を持った個人としての存在に作品のなかでのダンサーの位置づけが変わったのではと思わせるところがあった。
 もっともやや残念なのはまだこの作品ではアプローチの変化が意識化されているとは言いがたい面もあって、最初に挙げたこのところの黒田の主題であったはずの制御されえないアンコントロールな身体の追求という部分と固有名を持った日常的な存在としてのダンサーとの関係がどのようにこの作品において提示されているのかが今ひとつはっきりしていないように思われたことだ。さらにいえばこの作品の最後の緑色の雪のような紙ふぶきが無数に天井から舞台上に降り注ぐ場面は非常に美しく印象的な場面ではあったがそれだけにこの作品においてはややほかの部分との関係性において違和感を感じざるをえなかった。