下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2009年ダンスベストアクト

 演劇ベストアクトに続き2009年ダンスベストアクト*1*2*3を掲載することにしたい。原稿はまだですが、とりあえずリストだけ先に掲載します。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2009年ダンスベストアクト
1,yummydance+トウヤマタケオ楽団「手のひらからマウンテン」*4アイホール吉祥寺シアター
2,山下残+山賀ざくろ「横浜滞在 踊りに行くぜ・バージョン」@福岡・イムズホール*5
3,珍しいキノコ舞踊団「The Rainy Table」山口情報芸術センター*6
4,Monochrome circus+じゅんじゅんSCIENCE(高橋淳)「D E S K」こまばアゴラ劇場
5,維新派「木製機械」@精華小劇場(「ろじ式」より)
6,鈴木ユキオ(金魚)+藤本隆行ダムタイプ)+内橋和久(維新派)「etude」世田谷美術館
7,BATIK「花は流れて時は固まる」@にしすがも創造舎
8,勅使川原三郎+KARAS「鏡と音楽」新国立劇場
9,KIKIKIKIKIKI「OMEDETOU」@アートシアターdB神戸*7
10,e-dance 「春の祭典@アトリエ劇研

今年のダンスベクトアクトでまず最初に挙げなければいけないのがyummydance「手のひらからマウンテン」である。yummydanceの場合、これまでは集団を代表するような代表作に欠けるきらいがあったが、この舞台を見た瞬間、ついに「この1本」という作品が誕生したなと思い、これまで成長を見守ってきた観客として嬉しい気持ちになった。松山に本拠を置くが、水準は地方のダンスカンパニーというレベルを超えている。だからこそ、トヨタコレオグラフィーアワード、横浜ソロ×デュオなどの振付賞で何度もファイナリストになった実績もあるのだが、逆にいえばこれまではいろんな面でよい作品ではあっても抜群に突出している印象を与えるという風にはいいかねるところもあったのだ。
 ダンサーたちを見ながら思わず思い浮かべたのは「小鬼の乱舞」というイメージ。彼女らの演じるキャラは子供のようでもあり、年相応な三十代の女性のようにも見えるのだが、そのふたつが重なり合うところにyummydance独特の表現はあるように思った。
yummydance x トウヤマタケオ楽団 「手のひらからマウンテン」

「手のひらからマウンテン」はトウヤマタケオ楽団(トウヤマタケオ・藪本浩一郎・清水恒輔・ワタンベ)とのコラボレーション作品で、JCDNが企画したDANCE×MUSIC!〜振付家と音楽家の新たな試みvol.3〜で2007年に初演されたものの再演である。なんといってもトウヤマタケオ楽団がこの作品のためにオリジナルで制作・演奏している音楽がいい。単に曲というだけでなく、ポップでありながら、どこかとぼけた曲想とyummydanceの持ち味、雰囲気とよく合致している。ミュージシャンと振付家・ダンサーとの共同制作というのは最近では珍しくないが、それほど簡単なことではない。うまくいっていく例は限られている。
 今回のマッチングに関してはまずyummydance側がトウヤマタケオ楽団の松山でのライブに以前から行っていたなど、ファンだったということがまずある。一緒に作品を制作する際にもまずyummydanceの過去の作品の映像資料を見てもらったりして集団へのイメージをしっかり持ってもらったうえで、作品制作に入ったのがよかったようだ。オリジナルの音楽なのだが、yummydanceのイメージとぴったりな曲想で、聞くところによるとこの楽団は普段の演奏ではこういう聞きやすいポップな曲だけでなく、もう少し現代音楽風な曲も演奏しているということなので、今回の音楽はまさにyummydanceのために作ったもので、この「手のひらからマウンテン」のなかのダンサーがそれぞれの動きがそれぞれ違っていながら、普段の作品よりもまとまりが感じられるのはそれぞれのダンサーの動きは違っていても音楽がそれを束ねる役割をして、それぞれの動きがそれぞれ共通の音楽に同調することで、全体としての動きにも差異がありながらも同調性が感じられるようになっているのであり、そのバランスがこの作品では絶妙であった。
 山下残「横浜滞在」はいかにも山下残らしいコンセプチャルな作品だが、山下のとぼけた味がやはりどこかペーソスを感じさせる山賀ざくろの個性とうまく組み合わされて、ダンスとして実験的でありながら、決して難解でも退屈でもなく、娯楽性も持ち合わせたエンターテインメントとなった。タイトルの通りに山下が2002年に横浜に長期滞在して現地制作し横浜STスポットで初演した作品の7年ぶりの再演だ。
 ステージの後方で山下がテキストを朗読して、山賀が舞台の前面でそれに合わせて関係したような動きをする、というもので、山下はこれまでの作品で言葉と動きの関係、最近では振付と即興の関係などダンスとは何かについての思索を独自に作品化してきたが、なかでもこの『2002 横浜滞在』はこの後、その方論論が『透明人間』へと引き継がれ、『そこに書いてある』『せき』という言葉と動きの関係性をモチーフとした3部作へとつながっていくことになる記念碑的作品であったが、再演は今回が初めてとなった。
山下残インタビュー

 山下の読み上げるテキストには「今日××した」というような横浜滞在日記からの抜粋のような部分、「右手を上げる」「左足で丸を描く」といったような、直接的に動きを指示するもの、さらにこれは『そこに書いてある』などにもよく出てくるのだが、例えば「キャベツを刻む」というような行為を描写したもの。これらは舞台後方で横浜ベイスターズの野球帽をかぶって片手にマイクを持った山下によって語られる。その前の舞台前面では山賀がテキストに呼応するような動きをしているのだけれど、山賀の動きを山下がコメントを入れているのか、あるいは山下の言葉に山賀が従って動いているのか、どちらなんだろうと思って見ていると、2人の言語(動き)のテキストは互いに相前後して、つかず離れず微妙な距離感を保ちながら作品が進行していっているのが分かり、共通(類似)の内容を持ちながら、それぞれが独立に進行していっているのだということが分かってくる。
 バレエのような特定のメソッドにより訓練されたダンサーではないから山賀の動きはお世辞にもダンスとしてきれいとは言い難いのだが、年齢の割には身体はよく動くし、自己流のノウハウを積み重ねて自分の踊りを確立してきた人だけにほかの人にはないようなユニークで面白い身体語彙も多く、それが山下のコメントと合わさるとちょうどふきだし付きのギャグ漫画が動き出しているようなイメージになって、そこが面白い。
 目立たないように舞台後方にいるといっても、単なるナレーションではなく一緒に舞台に登場しているだけで、長身でぬぼーっとした山下は目立つ。個性も強いので、前にいるダンサーは技術よりも、山下に負けないような存在感が要求され、その意味では山賀は適任であった。さらに山下のコミカルな部分もある振付が山賀のパフォーマーとしての魅力を引き出しており、実りの多い組み合わせだったと思う。横浜の「We Dance」という企画で踊られた後、それをやや短縮したバージョンが「踊りに行くぜ!!」で上演されたが、3月には「踊りに行くぜ!!SPECIAL IN TOKYO」で再演される予定。まだ見てない人は必見である。