下北沢通信

青年団「革命日記」@こまばアゴラ劇場

『革命日記』
作・演出:平田オリザ

2008年、執筆後10年の時を経て、初めて平田オリザ自身の手で演出された幻の戯曲『革命日記』。共同体の臨界点を鋭く描写し、前回、若手中心の座組ながら脅威の動員を記録した伝説の1本が、変革の予感渦巻く2010年、青年団本公演として再演決定!

出演 能島瑞穂 福士史麻 河村竜也 小林亮子 長野海 佐藤誠 宇田川千珠子 海津忠 木引優子 近藤 強 齋藤晴香 佐山和泉 鄭亜美 中村真生 畑中友仁
スタッフ 舞台美術:杉山 至 照明:岩城保 衣裳:有賀千鶴 演出助手:鹿島将介 玉田真也 宣伝美術:工藤規雄+村上和子 太田裕子 宣伝写真:佐藤孝仁 宣伝美術スタイリスト:山口友里 制作:木元太郎
会場 こまばアゴラ劇場
東京都目黒区駒場1-11-13 TEL.03-3467-2743
京王井の頭線駒場東大前」駅東口より徒歩3分

青年団「革命日記」は[P4]合同公演の「Fairly tale」として平田オリザが書き下ろし、1997年に安田雅弘の演出により利賀村の新緑フェスティバル、彩の国さいたま芸術劇場で上演されたものだ。初演から10年目にあたる2008年に平田自身の改訂・演出により、青年団若手公演として上演され、今回はその再演として初めて本公演としてこまばアゴラ劇場で上演された。
 初演の時には外部への書き下ろし作品ということから気がつかなかったのだが別役実を原作とした1997年の「マッチ売りの少女たち」(伊丹/青山円形劇場)、太田省吾を原作とした1998年「新版・小町風伝」(水戸/伊丹/湘南台)の上演はあったものの、この間、平田のオリジナルの完全新作はなく、「Fairly tale」の次の新作が「海よりも長い夜」(1999年)。市民運動の集団の崩壊を描いた「海よりも長い夜」と同様にこの「革命日記」はテロ行為を計画、実行に移そうとしている革命組織という一般の人たちにとっては非日常的な集団を描きながらも「個と集団の対立を通じての集団の崩壊」というほぼ同じ問題群を扱おうとしている相似的な作品といえるかもしれない。  
 感情をあまり出さずにぼそぼそとしゃべるなどの演技の特徴から「静かな演劇」などとも呼ばれた平田の演劇だが、この「革命日記」あるいは「海よりも長い夜」では登場人物は明確かつ破滅的に対立しあい、時に大声で怒鳴りあう。以前から私は平田オリザの演劇を「関係性の演劇」と評してきたが、人間同士の関係性の精密な描写が平田の持ち味だとした時に平田の芝居で登場人物が静かで、怒鳴りあったりしないのは閉鎖的な人間関係の中で決定的な対立を回避するための生活の知恵とでもいうべきで、平田が例えば研究室などを舞台に登場人物を描く時に彼らは明日もまた顔を突き合わせて生活していかなければならずそういうなかでは決定的なカタストロフ(破局)は回避する、そういう現実を舞台は映しているからだ。
 であるならば、集団のメンバーが集団の崩壊もいとわないような決定的な対立に至るそういう集団の終末的な状況においては平田の舞台でも怒号が飛び交ったり、大声で言いあったりするということは普通に描かれていく。
 ここで描かれるのは(おそらく新左翼系の流れをくむ)左翼革命組織のアジトのある1日(のうちのリアルタイムの1時間半)である。ここはメンバーのうちひと組の夫婦が住んでいる家で、この日は空港襲撃のテロ計画の最終確認の日なのだ。ここには非合法活動組織のメンバーのほかにも、表向きの隠れ蓑であるボランティア活動の支援メンバーや近所の人たちも訪ねてくる。打ち合わせをしようと三々五々集まったメンバーだが、最初からテロのやり方をめぐり、メンバー間に対立がある様子。しかも外部からもたびたび邪魔が入りなかなか論議は進まない。
 「革命日記」「海よりも長い夜」ともに興味は集団とその崩壊ということにフォーカスしているが、こうしたことに平田が興味を抱いた大きな動機はやはり当時まだ生々しかった「オウム真理教」事件であろう。また、このすぐ後の2002年には「9・11」の米同時多発テロも起こり、そういうことも彷彿とさせるところもある。ただ、この「革命日記」をいま見るとそれ以上に哀しい日本人の戯画に見えることも確かだ。こちらは情けない大人たちだが、こうした崩壊しつつある組織の退廃はなにも革命組織だけに限らず、企業にも政治にもそこここに見え日本を覆いつくしているように思える。