下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ぶんげい マスターピース工房vol.3「シェイクスピア・コンペ」(後半)@京都府立文化芸術会館

てんこもり堂 [京都府京都市]「Jeanne!」
作品概要
― 「お願いします。どうか、ジャンヌに声を、声をかけてください。」
 シェイクスピアのもつ群集劇の要素を、人(俳優・エキストラ・観客)と空間(舞台・客席)を使って構築し上演します。そのためには「声」が必要です。「声」を使い、人と空間を一体化することで、俳優・エキストラ・観客は群集に、劇場は広場に変わります。舞台と客席、俳優と観客という枠組みを超えることで、劇(パノラマ)は完成します。観客は劇中に現れる進行役のセリフ(声)に反応し「声」を出すことになるかもしれません。シェイクスピア時代、舞台機構もあって観客と俳優のもたらす相乗関係は今日の演劇より深いものだったのではないでしょうか。この劇は、その失われた関係を見つめ直すきっかけとなるための一つの試みなのです。

スタッフテキスト・構成・演出:藤本隆志
照明:西岡奈美 / 音響:椎名晃嗣 .出演者浦島史生(柳川) / 倉本貴史 / 芦谷康介 / 大藤寛子
藤沢霞(古典座) / 渡辺裕史 / 金乃梨子 / 藤本隆志 .
劇団GUMBO [兵庫県川西市]「Smog」スタッフ作:トニー・ムーア+劇団GUMBO / 演出:田村佳代
演出助手:宮坂野々 / 照明:加納川崇晃 / 音楽:イアン・キットニー(Robot Turbo Marie)、ヒロ上原 / 殺陣:映見集紀(B.E.A.T) / 翻訳:ホーキンソン美希 .出演者大城秀史 / 真渕健一 / 西村優子 / 田村佳代 / 西原亮
小畑香奈恵(宴劇会なかツぎ) / 阿矢(劇団大阪新撰組) / 得田晃子(水の会)
グループAKT・T [東京都調布市]「ヴェローナの二紳士 〜大正浪漫に花開く男と女の初恋事件簿〜」スタッフ翻案・演出:青柳敦子
音楽:辻敦尊 / 照明:賀沢礼子 / 音響:山崎哲也
翻訳:坪内逍遥小田島雄志 / 劇中詩:竹久夢二 .出演者藤波大 / 田中龍 / 山谷典子
樋口泰子 / 辻輝猛 / 小長谷勝彦

最初のてんこもり堂 [京都府京都市]「Jeanne!」はジャンヌ・ダルクだと名乗る女の人が登場するのだが、これのどこがシェイクスピアなのか正直戸惑ってしまった。歴史劇「ヘンリー六世 第一部」にちょこっとだけ登場するらしいのだけれど、ジャンヌ・ダルクには全然シェイクスピアのイメージがないので、なぜこれを選んだのだろう。芝居自体もかなり昔の高校演劇を思わせるようなスタイルに見えてしまいちょっとどうだろうという印象。
 それと比較するとよくできてると思ったのが劇団GUMBO [兵庫県川西市]「Smog」だが、これは現代演劇として上演するにもあまりにスタイルが古いのではないか。ほとんど80年代の初期を思わせるようなスタイルで冒頭部分してから(今のではなくて)まだ無名時代の劇団☆新感線を連想したのだが、全体の印象は横内謙介(それも扉座ではなくて善人会議の)みたいという感じなのだが、横内は「ハムレット」のメタシアター作品として「フォーティンブラス」というのを書いたけれど、「Smog」の方は「マクベス」の登場人物であるマクダフに自らを仮託した男を主人公にした作品であった。
 原作の読み替えによる創作作品というのは珍しくなくて「ハムレット」では「ローゼンスタンツとギルデンスターン」が有名。個人的には自転車キンクリートが以前上演された「ありがちな話」というのが傑作だった。こうした作品は創作作品であるとともにその上演が優れた原作に対する批評になっているところにその面白さがあるのだが、上演時間の制約もあったかもしれないが残念ながらこの「Smog」は別段主人公がマクダフでなくても主人公にとって代わる人物でありさえすればだれでもいいようなもので、そこには「マクベス」という戯曲に対する深い洞察のようなものがほとんど感じられないのが作品として大きな弱点であると思われた。
ぶんげいマスターピース工房vol.3「シェイクスピア・コンペ」優秀賞は矢内原美邦とグループAKT・Tの2団体に決定。来年の9月、シェイクスピア・ウィークでの上演権が与えられた。