下北沢通信

中西理の下北沢通信

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維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」@彩の国さいたま芸術劇場


作・演出:松本雄吉 音楽:内橋和久 舞台監督:大田和司
 舞台美術:黒田武志(sandscape) 照明デザイン:吉本有輝子(真昼)
 照明:岸田緑、伊藤泰行 音響:田鹿充・move SE:佐藤武紀
 演出助手:中西美穂 衣裳:維新派衣裳部・江口佳子 衣裳協力 木村陽子、高野裕美
 メイク:名村ミサ 宣伝美術:東學(188)、北村美沙子(188)
 宣伝写真:福永幸治(スタジオ・エポック) ウェブ製作:中川裕司(house-A)
 スタッフ:五十嵐大輔、池田剛、内田欽弥、大鹿展明、岡田保、柏木準人、
 金城恒次、白藤垂人、中村公彦、羽柴英明
 協力:高岡茂(スタジオデルタ)、田辺泰志、百々寿治、西尾俊一(FINNEGANS WAKE
  1+1) 制作:山崎佳奈子、清水翼 主催:財団法人埼玉県芸術文化振興財団、維新派
 平成22年度文化庁芸術拠点形成事業
 出演:
 岩村吉純、藤木太郎、坊野康之、森正吏、金子仁司、中澤喬弘、山本伸一、小林紀貴、石本由美、平野舞、稲垣里花、尾立亜実、境野香穂里、大石美子、大形梨恵、土江田賀代、近森絵令、吉本博子、市川まや、今井美帆、小倉智恵、桑原杏奈、ならいく、松本幸恵、森百合香、長田紋奈

 東京公演出演:
 青木賢治、内田祥平、村島洋一、安達彩、安藤葉月、入野雪花、大村さや香、関根敦子、中武円、堀井秀子、宮崎知穂、山本芙沙子、吉田由美

 維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は「瀬戸内国際芸術祭2010」の参加作品として今年の夏に岡山・犬島で野外劇として上演された舞台の劇場版だが、いくつかの場面が新たに付け加えられていて、サイトスペシフィックアートの要素が強かった犬島公演とはまったく別物の作品に仕上がった。
 <彼>と旅する20世紀三部作♯3と位置付けられた本作は、2007年の第1部「nostalgia」(南米篇)、2008年の第2部「呼吸機械」(東欧篇)に続く、第3部(アジア篇)としてシリーズの最後を飾る作品だ。ただ、アジアについてはこれまでも松本雄吉は何度も題材として取り組んできており、ここ最近の作品の中でも新国立劇場で上演された「nocturne」ですでに第2次大戦中の戦時下の満州を登場させたりしており、今回はどんなものを取り上げ3部作を締めくくるのだろうかというのは前作「呼吸機械」の終了時にすでに興味を抱いていたことだったが、初演が犬島でいくつかの島を舞台に展開する「瀬戸内国際芸術祭2010」の参加ということもあってか、戦前の日本人の南方の島への進出の歴史と彼らが太平洋戦争に巻き込まれていくなかで悲劇的な運命に翻弄されていく姿を描いたのが「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」であった。
 表題の「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」はジュール・シュペルヴィエルという人の「中国の灰色の牛が…」という詩からの引用である。
 参考のために全文を引用してみると

中国の灰色の牛が
自分の小屋に寝転んで
背伸びをすると
その同じ瞬間に
ウルグアイの牛が
振り返って見る

だれか動いたかなと
この両者の頭上に
昼となく夜となく
音もたてずに飛ぶ鳥がいる
地球をぐるっと回りながら
決して地球に触れもせず
決して止まりもせずに

(『無実の囚人』より)

 こんな風だ。 ただ、元の詩では「中国の〜」となっていたのが、今回のモチーフである「南島」に合わせて「台湾の〜」改変されている。シュペルヴィエルの詩自体はシュールレアリスムというか、見方によってはかなり幻想的な色合いのものなのだが、この「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は例えば「ナツノトビラ」がそうであったように抒情的な幻想譚にはならずに、いわば叙事詩的に展開していく。