一、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)
悪太郎 右 近
伯父安木松之丞 笑三郎
太郎冠者 弘太郎
修行者智蓮坊 猿 弥
二、若き日の信長(わかきひののぶなが)
織田上総之介信長 海老蔵
木下藤吉郎 翫 雀
弥生 壱太郎
五郎右衛門 男女蔵
監物 亀三郎
甚左衛門 亀 鶴
林美作守 市 蔵
僧覚円 團 蔵
平手中務政秀 左團次
三、天衣紛上野初花
河内山(こうちやま)
松江邸広間より 玄関先まで
今月の大阪松竹座は話題はひさしぶり復帰の海老蔵だったのだが、全体としての座組みでは団十郎劇団+猿之助一門という組み合わせ。昼の部は海老蔵出演の2本が注目ではあった。だが、意外と一番面白かったのは市川右近らによる舞踊劇「悪太郎」であった。この舞踊劇「悪太郎」の原作は狂言である。狂言のあらすじは解説書に「無頼者の悪太郎が伯父に酒をふるまわせ、泥酔するが、その間に伯父に頭の毛をそられ、非行を悔いて仏道に入る」などと書かれていたけれど、この歌舞伎ではよりコミカルにそして悪太郎のキャラはよりフザケタ人物像に描かれていて、酒を飲んで泥酔して大暴れまでは一緒でも「非道を悔いて仏門に入る」などということはいっさいなくて、最初に酔ってからんだ僧とふたたび再会した後はより僧の念仏を真似して唱和して茶化してしまうように悪ふざけが増している感じ。
まことに歌舞伎らしくて、面白いのだがよく考えると酒問題で自粛していた海老蔵の復帰公演に酔った悪太郎が大暴れする演目が入っているのはこれでいいのだろうか(笑い)。「このおおらかさが歌舞伎だ」ということになるのかもしれないが、どうなんだろうこれは?と思わず考えてしまった。まあ、これはだめだと団十郎も海老蔵もまかり間違っても言えるような立場じゃないのは確かなのだが(笑い)。
深読みで考えるとこの昼公演の演目はなんとも思わせぶりなものばかりが並ぶ。次が海老蔵主演の「若き日の信長」で若殿様の信長は父の法事にも出席しないなど「うつけもの」と思われていたが、今川義元の襲来に「いざこの時」となると君子豹変する。思わず海老蔵も信長と同じで世間からは「うつけもの」と思われているかもしれないがそんなことはないんだよということ?って思わず思ってしまうのだけれど、もちろんそれは考え過ぎだよね。
そういう意味では昼の部最後の「河内山」で海老蔵が演じた松江出雲守もあえていえば「バカ殿」の類であり、もちろんこれは市川家の家の芸であり、だからこそ団十郎が河内山を演じるのだということなんだけれど海老蔵が出ているだけで、どうしても余計なことをついつい考えてしまうのは困ったことだ。