下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

SPAC「グリム童話 〜少女と悪魔と風車小屋〜」@静岡芸術劇場

グリム童話〜少女と悪魔と風車小屋〜』
演出◇宮城聰
作◇オリヴィエ・ピィ
訳◇西尾祥子、横山義志 音楽監督:棚川寛子
出演◇
「少女と悪魔と風車小屋」
池田真紀子、武石守正、大内米治、貴島豪、大道無門優也、永井健二、布施安寿香、森山冬子、若宮羊市

 オリヴィエ・ピィの「グリム童話」3部作を宮城聰が演出した舞台の再演である。今回は新作「グリム童話 本当のフィアンセ」との2本立てとなり昨年上演された*1時にはヒロインの少女役を演じた美加理がそちらの方に出演することになったこともあってか、池田真紀子が少女役を演じた。
 この「グリム童話」のシリーズで宮城はSPACでク・ナウカ時代に築き上げたものとはまったく異なる「詩の復権」という新たな演技・演出の方法論に挑戦した。「詩の復権」とはなにかということを明確に説明するのは現段階では難しい。というのは「詩の復権」について宮城が語るときには「まるで隕石に衝突したような衝撃」「自分の内からではなく、外から降ってくる感じ」「その言葉を言うと自分が激しく内側からかきまぜられてしまって、到底今のままではいられない」というようにいつも例えの形をとる。
 だが、昨年の上演を見る限りは「役者がなにか変なことをしていて、普通に演技はしていない」ことは分かっても、それが効果として宮城が考えたようなことを実現しているのかどうかが、はっきりとは分からず、ただただ当惑させられたというのが正直なところであった。
『宮城聰インタビュー1』音声ガイダンス 其の壱【ク・ナウカの方法論と詩の復権】
 今回の舞台でも宮城の言っていたようなことが実現しているという風にはまだ思えないのだが、「変だ」という違和感はやや減ってきたのではないかというのが第一印象。前回の舞台では俳優たちも暗中模索の感があったが、再演では実際の舞台で「詩の復権」が実現といるという風にはやはり思えないのだが、それでも五里霧中というのではなくて、それぞれがそれぞれの方法を試行錯誤することで、少しでも「詩の復権」という的に向けて矢を放ち始めている、という風に感じた。
 特に池田は少女役を好演。美加理は本当に優れた女優で特に「天守物語」の富姫や「メディア」のメディアといった当たり役を演じた時の存在感はほかにちょっと比較するものがないぐらいだが、この少女に関しては本当に美加理が演じるべき役なのかということにおいて初演時に疑問を感じていた。初演に関して言えば少女役がというよりは宮城が新しい方法論に取り組むということもあり、ク・ナウカ時代からの盟友であり宮城がもっとも信頼している美加理を起用したということがあるのではないかと考えるのだが、少女役に関していえばむしろ今回演じた池田の方が適役ではないのかと思わされるところがあった。「詩の復権」が今後どうなるのかの予想についてはこの舞台だけでは難しい部分もあるので、もう1本の「本当のフィアンセ」を見たうえでもう一度考えてみたいと思う。