下北沢通信

中西理の下北沢通信

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第2劇場「かなこるむ。」@ウイングフィールド

作・四夜原茂
演出・阿部茂

世界を変えるのはやる気のある人々のやる気なのです。最近では、子供を持つ母親の抱く恐怖と怒り。結果、男ばかりが残された町があり、しかたなく彼らが営む店があったのです。オールガスを旗印にして苦労して店を切り盛りする男達。その店で事件は起こったのです。厨房であれほど活躍していた圧力釜が・・・なぜか爆発しそうになっている!ふたが開かずガスも止められない!そのあとも次々と起こる想定外の出来事!破局に向けてひた走る定食屋!彼らに未来はあるのか!2劇が送る久々のスペクタクル。恐怖の結末は・・・劇場で。
■キャスト
竹腰かなこ 横山秀信
青山誠司 川上立 伊藤法子 平野洋平 池田光曜 石龍恵
岸本愉香 園田晃己 長尾大樹 紅谷祐子 片岡裕貴
阿部茂
■スタッフ
演出補・水町紫
舞台監督・林直樹
照明・東直樹
音響・堀之内克彦、東山直樹
舞台美術・竹腰かなこ
衣装・岸本愉香
小道具・紅谷祐子
宣伝美術・いまにしけん+はらだけい
制作・(有)DNG、北本貴子、桂久美子、原田慧

 東日本大震災ならびに福島第1原子力発電所の事故が起こってもうすぐ1年がたつ。震災についても原発事故についてもいろんな作家が舞台化を試みたようだが、正直言って多くの場合ステレオタイプである。阪神大震災の際には桃園会の深津篤史が生み出した珠玉の作品群があったが、その水準に追いつくほどのものを生み出していないと実感せざるをえない。
 そのひとつの理由は本来別々の問題であるはずなのに私たちが震災を考える際、どうしても原発事故を連想してしまうということがある。そして、原発問題に関していえば私がこれまで見た舞台はとってつけたような反原発であったり、政府や東電に対する糾弾であったりして「なんだかな」と思うようなものが多く、むしろそのことに直接触れていない作品や震災以前に制作された作品の方に優れた「震災劇」はあった。
 原発事故に関して言えば、事故が起こった当初から「彼ならどう思うのだろうか」という話を聞いてみたい人物が関西演劇界にひとりだけいた。第2劇場の四夜原茂(阿部茂)である。なぜなら、彼は大阪大学原子核工学を学び、一度は原発関連企業に就職した経験を持つ演劇界では数少ない本当の専門家だったからだ。
 残念ながら今回は終演後にあいさつもそこそこすぐ出社しなくてはならず、四夜原の話を詳しく聞くことはできなかったのだが、今回の新作「かなこるむ。」はまさに今回の原発事故をめぐる問題に取り組んだもので単純な反原発プロパガンダ劇にはなっていないことがこの問題に対する四夜原の複雑な気持ちをうかがわせるようで興味深かった。
 なんとも四夜原らしいのは原発そのものを描くのではなくて、舞台を近未来のとある町の小さな飲食店に持ってきたことだ。「エコマンマ」というのが店の名前で、実はこの店はエコの運動をしていた店主の妻の方針で電気・水道・ガスをすべて断ち、電気は自転車のペダルを回しての自家発電、水は雨水をためたペットボトル、ガスはカセットコンロで営業を続けている。
 まあ、どう考えても無理やりの設定なのだが、「オールガス」という言葉が舞台上に何度か出てくるから、これは「オール電化」を標榜して、なんでも電気でさせようとし、その電源を原発に頼っていた東京電力あるいはそれだけではなく、関西電力をはじめ日本の電力会社に対する四夜原一流の皮肉なのであろう。それは物語の後半になってこの店に超強力な圧力釜が送られてきて、一層明白になる。この圧力釜は中身は封印されていて分からないのだが、そのまま火に掛けるよう指示されている。しかも「マニュアル通りにすれば間違いはない。絶対安全だ」の保証付きである。ところがこの圧力釜が壊れて大変なことになる。厨房であれほど活躍していた圧力釜が・・・なぜか爆発しそうになっている!ふたが開かずガスも止められない!。自らの熱で蓋のツマミが取れてしまい、冷やすために水をかけようにも断水状態。釜の中の圧力はどんどん上昇し、このままでは爆発してしまう……。
 例え話と指摘するのがバカバカしいほど「圧力釜とは要するに原発のこと」であるのは間違いない。それゆえ、この芝居が原発に関することで電力会社を揶揄する内容を含んでいるのは確かなのだが、よくある芝居のように単純に「反原発」の主張をして政府や電力会社を糾弾しているともいえない。
 というのはこの裏返しの原発の物語には「エコ」すなわち「反原発派」的な活動も返す刀で揶揄されているからだ。エコ好きの妻はそれが嵩じた挙句、家を出ていってしまう。どうやら、国会議事堂を取り囲むデモに参加してしているらしく、しかもその最中に抗議の一環として持ち込んだ火縄銃が暴発してしまう……。
 四夜原の場合、隠喩が重層化しているうえに韜晦しているところがあって、なにがどういうことを意味しているのかということを一意に言い切ることは難しく、またプロパガンダ的な主張がそのまま題材となるような単純な構造になっていないところに特徴がある。だが、少なくともこの物語において骨幹となる2つの爆発(圧力釜と火縄銃)がどこかで呼応していることは確かのように思われる。
 もうひとつ謎がある。「かなこるむ。」というこの舞台の表題はどうやら、竹腰かなこ演じるこの店の主人夫婦の娘「かなこ」から取られている。妻が店主(横山秀信)を置いて出て行ってしまった後で、娘は時折「幽霊」と名乗って暮らしている。どうやら、店主と妻には血のつながりがないらしい。そして、圧力釜をめぐる大騒ぎが一段落した後、娘は出ていくことを決意するところでこの物語は終わる。
 この「幽霊」というのが何を意味しているのか、これがはっきりしない。一応考えてみた結論はなくはない。だが、どうもしっくりとはこない。もう少し考えてみたいが、とりあえずの仮説をここで明らかにしておく。それは夫(東電原発推進派)、妻(反原発派)、かなこ=四夜原自身(つまり、自分は意見を聞かれたら韜晦する幽霊のような存在だったが、単純な原発推進でも反原発でもなく、あえて困難な第3の道を模索することへの決意の宣言)ということだ。理屈としてはもっともらしいところもなくもないのだが、この仮説の最大の難点は誰も作者(四夜原)(=かなこ)という重ね合わせが気色悪くてできないことで……。だめだ、もう一度考え直そう(笑) 。