下北沢通信

中西理の下北沢通信

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キティフィルムPresent's「破壊ランナー」@あうるすぽっと

【作・演出】
西田シャトナー

【出演】
磯村洋祐劇団EXILE
大河元気  平野良  保村大和  川隅美慎  細野今日子(競泳水着) 
大村わたる(柿食う客)  内山千絵(少年社中)  長尾奈奈(無名塾) 原田篤  宮崎陽介 ほか未定

【協力】
劇団たいしゅう小説家 
アプリコットバス

【企画・製作】
(株)キティフィルム

 惑星ピスタチオ時代に上演された代表作「破壊ランナー」が10年以上の時をへて西田シャトナー自らの手で再演された。惑星ピスタチオは89年に旗揚げして2000年には解散しているから、活動していたのはわずか10年強にしかすぎないのだが、SFや時代劇など冒険活劇的な要素を存分に盛り込んだ娯楽性の高い物語に加えて、さまざまな実験的な演劇表現を試みたという意味でも画期的な劇団であった。
 実は90年代半ばの日本の現代演劇は平田オリザが台頭して、その現代口語演劇によって急速にその存在感を高めていくなかで、平田をはじめ松田正隆長谷川孝治、長谷基弘ら「関係性の演劇」の作家らが大きな流れを作っていきつつある半面、この惑星ピスタチオをはじめ、ク・ナウカ、上海太郎舞踏公司、ロマンチカ、山の手事情社など身体表現を重視した「身体性の演劇」の流れもあって、それらが拮抗してせめぎ合っていた。そのなかでも、惑星ピスタチオはわずか数年の間に1公演で2万人を超えるような人気劇団へと一気に駆け上ったその勢いのすさまじさは解散して10年以上が経過した今でも当時を知る者たちによって語りつがれもはや「伝説の劇団」と言ってもいいかもしれない。
 腹筋善之介保村大和、今はテレビなどで人気俳優となっている佐々木蔵之介ら個性的な俳優陣と小道具などを一切使わず、パントマイムと膨大な説明セリフを駆使して場面描写や登場人物の心情を表現する「パワーマイム」、そして一人多人数役を次々に切り替えながら多くの役をこなす「スイッチプレイ」、映画のカメラの撮影のような場面処理「カメラワーク」など、独特の演出法が話題となった。
実は演劇としての惑星ピスタチオの本質は娯楽性のある物語の展開や個性的な役者陣以上にこの演劇手法の実験性の高さにあったと現在でも考えている。ところが当時における注目がその娯楽性の高さに集まっていたためか、その実験性や前衛性が批評の対象となることはほとんどなく、不当に低い評価しか受けていなかったことは今でも残念で仕方がない。
 さらに現代演劇の流れが現代口語演劇の方向に急速に傾いていくことで、惑星ピスタチオが試みたような類の実験性はメインストリームの流れからはずれて10年以上が経過した。
 ところが興味深いのは私がポストゼロ年代と名付けている若手劇団のなかに惑星ピスタチオの方法論と直接の因果関係があるわけではないのものの「パワーマイム」「スイッチプレイ」「カメラワーク」に近いような演出法を試みる劇団が増えてきているように思われることだ。具体例を1、2挙げてみると「パワーマイム」「スイッチプレイ」に類似した演技法は柿喰う客などが試みているし、カメラのフレームの方向を変えていくような演出法はマームとジプシーが多用している。
 私は昨今の若手劇団の動向に明らかにポスト「現代口語演劇」の新しい潮流を感じる。これは実際にはチェルフィッチュの影響が大きいのだろうとは考えてはいるが、そういう時期にそうした演劇の先駆的存在ともいえる惑星ピスタチオを率いていた西田シャトナーがこれまで封印してきた惑星ピスタチオ時代のレパートリーを解禁するなど再びその演劇活動を活発化しはじめていることには偶然というだけではかたずけることができないなにか宿命的なものを感じさせたのだ。