下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

木皮成×寺山修司プロジェクト「踊りたいけど踊れない」@横浜STスポット

木皮成×寺山修司プロジェクト「踊りたいけど踊れない」@横浜STスポット

ヴィレヴァン的、音楽劇。
アイドルグループや音楽ユニットの振付を手掛けたり、映像をふんだんに取り入れた創作をしたりと、常にポップなカルチャーに寄って活動してきた木皮成の最新作。『踊りたいけど踊れない』の主人公・ミズエの「思いに反して体が動きだす」症状に注目し、木皮自身によるソロパフォーマンスと、約10人の役者・ダンサーによるパフォーマンスの2作品を制作する。劇中では、いわゆるポップカルチャーサブカルチャーに分類されるタイプの音楽を使用。映像、言葉、そして身体によって、多様な趣味嗜好の集まった情報量の多い空間を仕立て上げる。

What's 踊りたいけど踊れない”?
没後30周年を迎える寺山修司の詩と、宇野亜喜良によるイラストで構成された「大人の絵本」。15歳の少女・ミズエは、恋をしたことをきっかけに、手足が思いに反して動き出すようになってしまう。手足があたまで考えていることに逆らっているのか、手足は正直なのにあたまがじぶんに逆らっているのか、ミズエは次第に混乱していく――。

木皮成(きがわ・せい)
振付家・演出家・パフォーマー・イベンター。多摩美術大学映像演劇学科にて俳優として活動開始後、ダンサーに転身 。FUKAIPRODUCE羽衣、劇団エリザベス、声を出すと気持ちいいの会、38mmなぐりーずなど、小劇場の演劇団体には振付家としても多数参加している。2012年には「すみだ川アートプロジェクト」をオーガナイズ。ダンスユニット・深夜練(木皮成+喜多真奈美)としては、こまばアゴラ劇場のサマーフェスティバル〈汎-PAN-〉2012に参加。今公演が、卒業後初の単独公演となる。
CAST
木皮成 齊藤コン 澤田武史 高橋慧 稗苗弘基 向原徹
渡邊愛祐美(欲張りDDD) 渡邉蓮(gekidanU)※50音順

 木皮成×寺山修司プロジェクト「踊りたいけど踊れない」@横浜STスポットを観劇。ストリート系ダンス出身。多摩美術大学映像演劇学科を卒業したばかりの22歳の若き才能である。昨年の「We dance横浜」企画のダンスコンペで短いソロのダンスを見たが本格的な公演を見るのはこれが初めてだ。公演は前半が木皮によるソロ作品。後半は木皮がこの公演のために集めたメンバーによるグループ作品の2本立てである。
 ソロパフォーマンスでは木皮のパフォーマーとしての存在感が光った。最初に見た時に一瞬日本人なのかどうかの判断を躊躇した。実際にどこかの外国の血が入っているのかどうかは分からないのだが、ひと目見てそれらしいジャニーズ系の風貌でコンテンポラリーダンス界にひさびさに現れたスター候補ともいえそう。今後が楽しみな素材であることは間違いないが、現時点のソロパフォーマンスについて言えばなかなかよくできたダンスパントマイムあるいはマイム風ダンス(技術的にはストリートダンスのポッピングから来たものだろうか)だが、まだ「こういうことができます」と個人芸を並べた品評会のようになってしまっている。よくも悪くもザッツ木皮成にしかなっていない。本人が魅力的だからそれでもある程度は見られるのだが、これを作品として強固に成立させるためには強烈なイメージの提示(水と油など)や微細な状況の提示(いいむろなおき)、独自の世界観(上海太郎舞踏公司、維新派など)などの何かが必要であろう。
 一転して後半のグループ作品は役者系のパフォーマーも登場して、やや演劇寄りの作品となる。寺山修司が原作というがあまりそういう感じはしない。全体としてのゆるさは同じく多摩美出身の快快がまだ別名の小指値を名乗っていた無名時代のパフォーマンスを彷彿とさせるところもあり、このつっこみどころ満載ともいえるゆるさが、ダンス以外の場面で木皮が見せるへたれキャラとともに持ち味ではあるのだろう。ただ、このゆるさはもろ刃の剣でもあり、今回はあまりうまくいってない場面も多かった。
 特に後半の寺山修司がらみの場面は若い人にはどう映っているのかはよく分からないが、私のような年寄りから見るとどうも表層的にすぎる。例えば「コンテンポラリーダンスって何」という場面でウィキペディアを引用する場面などでも単にそれだけの終わってしまっていて、コンテンポラリーダンスと呼ばれる既存のジャンルに対する違和感などを批評性の意味で表現したのであればもう少し身体表現としてのひねりを加えないと対象であるコンテンポラリーダンスと一定の距離感を保つことができないため、やや軽く見えた。作品全体を通しての印象もひさびさの単独公演で張り切りすぎたせいか、よく言えば盛りだくさんだが、少し盛り込みすぎたのではないか。全体を通しての色があいまいで結果として幕の内弁当みたいになってしまった。
 そんな中でこの人の今後の方向性として大きな可能性を見せてくれたのが、ラストの群舞であろう。振付自体は今回集められたメンバーは役者が多かったということもあってか7ユニゾンで皆が元気に踊るというだけという感じでまだ工夫の余地があるが音楽、映像の選び方に若いセンスの煌めきを感じた。ボカロ的な楽曲にアニメーション映像が組み合わせてあるのだが、これがなんともゼロ年代以降のサブカルチャーの影響を強く受けたもので、ニコニコ動画的。オリジナルで本人も含む複数のアーティストによる合作のようなのだが、聞いたところその作り方もニコ動風な共同制作となっていて、ここが面白い。
 ここ10年ほど美術、音楽、映画、小説など他ジャンルの世界で展開されているいわゆる広い意味での「オタク」カルチャーの影響は演劇ではすでに解散してしまったがバナナ学園純情乙女組なども生み出したが、コンテンポラリーダンスはより前衛ないしハイカルチャー的な要素の呪縛が強いせいか、単発的なアイデアを除けばあまり出てはこなかった。私がこの木皮成というダンサー・振付家に注目したのは短いソロのダンスを生で見た後、ももいろクローバーZの「みてみて☆こっちっち」(ポケモンのED曲)のremix音源に合わせて踊っている映像を見て、それがすごく今までのコンテンポラリーダンスの感覚にない、「踊ってみた」的な面白さを感じたからでだ。今回の作品のラストもテーストはまったく違うが、同じような新しい感覚を感じさせるもので、それはいつか出てくるだろうと予想されていたものがついに出てきたという感覚でもある。まだ粗削りながらダンスの世界に新風を吹き込む期待の新星だと思う。

ももいろクローバーZの「みてみて☆こっちっち」(ポケモンのED曲)のremix音源に合わせて踊る木皮成

初音ミクIevan Polkkaで踊る木皮成