下北沢通信

中西理の下北沢通信

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これから観る舞台11月後半by中西理

サンプル『永い遠足』(作演出・松井周)
11/17(日)〜25(月) にしすがも創造舎 4,000円
 人類の起源と現代を生きる命をめぐる新作である。親殺しや近親相姦といった禁忌(タブー)を通じて、個人と社会の関係を描き出したギリシャ悲劇「オイディプス王」を下敷きに先進医療と生命倫理の問題をも視野に入れた自分の出自をめぐる新たな「物語」を紡いでいく。多田淳之介、前田司郎、柴幸男ら多士済々の平田オリザ門下のなかでも私がもっとも底が見えない、まだまだなにかありそうだと感じているのが松井周率いるサンプルの演劇だ。一見平田の現代口語演劇の様式とは100万光年も離れたように見える今回のサンプルだが、松井はいったい現代演劇において自らをどんなポジションに置こうとしているのだろうか。それをもう一度考えなおしてみたい。
 
音楽座『ラブ・レター』(原作者:浅田次郎、脚本・演出:ワームホールプロジェクト)
11/15(金)〜20(水)  新宿文化センター 5,250〜9,450円、12/21(土)〜た23(月・祝) 町田市民ホール 8,400円 
 オリジナルミュージカルを作り続けてきた音楽座が5年ぶりに手掛ける新作は「メトロに乗って」でかつてタッグを組んだ浅田次郎の短編小説を原作とした「ラブ・レター」だ。前作「七つの人形の恋物語」以来ここまで新作上演がなかったのは未曽有の天災となった東日本大震災の圧倒的な現実の前に音楽座ミュージカルに何ができるかを根源から問い直したからだという。そういう中から生まれてきたこの新作は「死者が生者を励ます物語」。浅田の原作も思わずほろりとくる感動の掌編だが、それを音楽座はどのように料理してくれるのか。期待は大である。

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談』(作:鶴屋南北、監修・補綴:木ノ下裕一、演出:杉原邦生)
11/21(木)〜24(日) 池袋あうるすぽっと 4,000円
 劇場に響き渡るテクノが祝祭性を強調する『三番叟』、3人の若手演出家を起用した『義経千本桜』通し上演など、主宰・木ノ下裕一の古典芸能への深い造詣をベースに、現代における歌舞伎上演の可能性を探るのが木ノ下歌舞伎。京都、横浜を拠点に活動する新鋭劇団が、この秋、鶴屋南北の大作『東海道四谷怪談』の通し上演を引っさげてフェスティバル/トーキョーに初登場する。演出は杉原邦生。美術には島次郎を迎え、元・天井棧敷の女優・蘭妖子ら総勢20人の俳優とお岩の悲劇を生み出した時代の抱える社会の闇に迫っていく。こちらもチケットは完売のようだが、当日券はでるのか? 

Port B『ガイドブックとラジオを手に訪れるアジアからの留学生たちの痕跡「もう1つの東京」に出会う』(構成・演出/高山明)
11/9(土)〜12/8(日)  都内各所 *ツアーキット受取所: 東京芸術劇場内1Fアトリウム特設F/Tインフォメーション 3,500円
 3.11後の現実に向き合った近作『Referendumー国民投票プロジェクト』(F/T11)、『光のないII』(F/T12)が、ウィーン芸術週間でも上演されたPort B。フェスティバル/トーキョーに参加しての最新作は、アジアからの留学生たちの痕跡を歩く「旅」の演劇。ガイドブックと携帯ラジオを手に観客はそれぞれがレストランや公園などさまざまな場所を訪問する。そこでラジオから聞こえるのは、かつてその場所に生きた人や縁のある都市、国の物語。観客は未知のアジア、そして「現実の中の異郷=ヘテロトピア」としての東京に出会う。キーワードは「旅」と「翻訳」。物語(テキスト)は実際の東京への留学生と管啓次郎、林立騎ら翻訳者との対話を元に生み出された。その過程で考えられたことも「ラジオ番組」などを通じ、広く発信される。 
 

中西理