下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

青年団若手自主企画vol.59 大池企画『MOTHER II』@アトリエ春風舎

作・演出:大池容子 原作:平田オリザ『隣にいても一人』

朝、目が覚めると、お母さんがわたしと同い年になっていて、その日はわたしの誕生日で、ずっと付き合ってた幼なじみの男の子と、結婚式をするはずだった日で。27歳に戻ってしまったお母さんは、全然お母さんじゃなくて、すごく普通の女の人なんだけど、それでもお母さんはわたしを産んでわたしのお母さんになって、わたしもきっとそのうちお母さんになって、子どもと手をつないで、デパートの屋上の遊園地とかに行ったりして、そういう時、たぶん子どもの頃につないでたお母さんの手があったかかったってこととかを、思い出したりするんだろうなあっていうおはなしです。「隣にいても一人」ですよね、これって。
プロフィール 大池容子
1986年生まれ。大阪府出身。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース卒業後、2010年より青年団演出部に所属。同年、うさぎストライプを結成。2013年9月に芸劇eyes番外編・第2弾『God save the Queen』に参加。うさぎストライプの大池容子が、『隣にいても一人』をモチーフにして、約一年振りに「静かな演劇」に挑みます。
出演者 長野海 菊池佳南 山内健司 亀山浩史(うさぎストライプ)

スタッフ
舞台監督・照明:黒太剛亮(黒猿)
舞台美術:濱崎賢二
イラスト:にしぼりみほこ
宣伝美術:西泰宏
制作:金澤昭

 原作が平田オリザ「隣にいても一人」とクレジットされているが、平田の「隣にいても〜」が「ある朝、目を覚ますと昇平とすみえは夫婦になっていた」ではじまるのに対し、こちらは「ある朝、目を覚ますと母親が娘と同じ年の27歳となっていた」のいう設定のシチュエーション劇。おそらく作者が作劇において「隣にいても〜」を参考にしたためこういうクレジットになったのだと思うが、それを言うならそもそも平田の原作自体が「ある朝、目を覚ますと虫になっていた」というカフカ「変身」を下敷きにしたもので、これはもう大池容子のオリジナル新作と考える方が実情にあっている。
 平田の「夫婦になる」というのが、当事者以外には「見えない」事象だったのに対し、母親が27歳になるという設定は他人のはっきりと「見える」設定であり、その意味でもこれは「隣にいても〜」よりも「変身」に近いともいえるが、通常こうした物語は変身してしまった当事者の苦悩に焦点を当てるのに対し、「MOTHER II」はどちらかというと本人は能天気で周囲の反応に重点があって、もちろんそのままというわけではないのだろうが、27歳という年齢設定が作者である大池容子の実年齢と一致することを考えれば架空の設定に託して娘と母親の関係を描きたいというのがこの作品の主眼といっていいかもしれない。