下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

「ダンスが見たい 新人シリーズ12」@d-倉庫

1月20日(月)
クリタマキ「愛撫」22分
ゆみたろー「内側」18分
京極朋彦「幽霊の技法」
ナナグラム「セミ(蝉)」
■新人賞審査員
岡見さえ、志賀信夫、藤原央登
主催「ダンスがみたい!」実行委員会
共催 d-倉庫
舞台監督 佐藤一茂、田中新一
音響 相川貴、許斐祐
照明 久津美太地、ほか
映像 workom
協力 相良ゆみ、山口ゆりあ、アマヤフミヨ、高松章子、吉田結里加、橋本優香、磯部京子、OM-2、
宣伝美術 佐々木敦
記録 田中英世(写真)、船橋貞信(映像)、前澤秀登(写真)
監修 真壁茂夫
制作 林慶一、金原知輝

 d-倉庫の公募ダンス企画。応募してきた作品の中から事務局が選考。ある程度は選んでいるようだが、内容は玉石混淆。この日見た4本のなかでは京都造形芸術大学出身の京極朋彦「幽霊の技法」が面白かった。京極についてはダンサー・パフォーマーとして同じ大学のきたまり、杉原邦生の作品に出演しているのは何度も見ているが、自分自身の創作作品についてはいくつかの小品を見たことがあるものの、それなりに話題になっていたらしい前回のソロ作品「カイロ—」を見損なっていたこともあり、初めて作品を見た、というのに近い印象。この「幽霊の技法」はどうやらベケットの映像作品を下敷きにしているらしいが、見ている限りはそういうことはあまり分からない。
 ただ自分の踊りたいように踊りまわるというような作品とは対極的なアプローチで、その作り方はどちらかというと空間を構成するインストレーションの趣きが強い。舞台上に一本長い木で出来た黒い棒を持ち込み、それを舞台の中央に立てて、照明がその柱に作る影と黒い衣装を来た影(黒子)のような京極の姿とで、「もの派」の美術作品のような空間構成を舞台上で形成していく。動きはあくまで抑制されたもので静謐ななかに非常に周到に練り上げられたフォルムの美しさを感じさせた。
 その一連の動きはどこか儀式めいていて、照明でできる影の形に日時計ストーンヘンジを連想させるところがあるためか、謎めいた宗教儀式のようにも見える。その動きには何かの手順あるいはルールのようなものがあるという風には感じるが、それがなになのかは分からない。京極に聞いてみたところ、この部分の動きというか、ダンサーの立ち位置と移動の仕方がベケット作の映像作品が元になっているということらしいのだが、作品自体からはそういうことはあまり分からない。それなりの完成度を見せた作品ではあるが、ダンスとては動きがミニマルに終始ししかもソロ作品ということもあり、やや単調な印象があるのも確かだ。3月にはこの「幽霊の技法」を伊藤歌織とのデュオ作品に仕立て直して上演する予定もあるということで、その作品がどうなるのかにも注目したい。
 一方、梶井基次郎の「愛撫」を引用しながらダンサーとしての魅力を見せたのが、クリタマキの「愛撫」。こちらは2011年こまばアゴラ劇場で上演したソロ公演「I'm ボカン」の中から「愛撫」を再演したもので、最初はまるで演劇のようなモノローグからはじまり、それをセリフをしゃべりながら動くところは少し以前のチェルフィッチュやきたまりの横浜ソロ&デュオ受賞作「女生徒」を彷彿させるようなところもあるが、それが次第に「愛撫」のなかに登場する猫のエピソードを媒介として、猫の所作を一部取り入れたようななんともコケティッシュで奔放なダンスに変わっていく。これはなかなかよかった。