下北沢通信

中西理の下北沢通信

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きたまり/KIKIKIKIKIKI「悲劇的」@京都アトリエ劇研

[ダンス]きたまり/KIKIKIKIKIKI「悲劇的」@京都アトリエ劇研

使用楽曲 マーラー交響曲第六番イ短調 悲劇的
振付演出 きたまり

出演  花本ゆか 藤原美加 益田さち 斉藤綾子 きたまり
日程 2017年8月4日(金)~8日(火) 
会場 アトリエ劇研

マーラー交響曲の舞踊化といえばベジャールのものが有名なほか、最近ではノイマイヤーも積極的に手掛けているようだが、いずれもきたまりがこれまで手掛けてきた「巨人」「夜の歌」、そして今回手掛けた「悲劇的」は手掛けていないのではないかと思う。もっともきたまりはマーラー交響曲の全作舞踊作品化を宣言し、今後両巨匠がすでに手掛けた楽曲にも挑戦することになるとは思われるが、今回はやはりこれまではあまりダンスでは取り上げられていないであろう第六番「悲劇的」の上演となった。
 きたまりが執筆しているパンフの文章によればこの曲の最後には運命の打撃の象徴とされるハンマーの音が収録されていることから、これまでカンパニーが作品発表の場としてきたアトリエ劇研が今年8月いっぱいで閉鎖となることを知り、その最後にふさわしい作品としてこの楽曲を採用した作品を選んだということのようだ。ただ、原曲はともかくとしてダンス作品としてのKIKIKIKIKIKI「悲劇的」(きたまり振付演出)はむしろ激しい動きで踊り回るダンサーたちの爆発的なエネルギーに溢れていて「悲劇的」という感じはなかった。
 ダンスの振付的には前半はグラウンドポジションが多い。そのためか、劇場の壁側にコの字状に桟敷のような客席が設けられていて、観客はいわば2階の高さにあるその桟敷席からダンスフロアを見下ろすようになっていた。これはフロアで動き回るダンサーがフラットな観客席から見たのでは重なってしまいよく見えなくなってしまうのを防ごうという狙いがあったとも思われるが、逆にそういう客席設定に触発されたように床面に腹ばいになったままである時は爬虫(はちゅう)類や両生類を思わせるように、あるときはアメーバのように動き続けるのがこれまであまり見たことがないような動きで面白い。
 今回参加したダンサーはきたまり以外はすべてバレエ経験者だったのだが*1、ムーブメントはいずれも身体の柔軟さと強靱さがいずれも必要とされるもので、確認はしていないので確かなことは分からないけれども、カンパニーメンバーで公演常連の野渕杏子が今回は出ていないのはそのためかもしれない。前回の「夜の歌」もそうだったが、前半は比較的抑えた表現で動きもゆっくりしたものであり、正直言って何度か寝落ちしかけた瞬間もあったのだが、後半は雰囲気が一変し、躍動感溢れる群舞の生み出す一種の生の輝きに圧倒された。振付自体が似ているということではないがその群舞を見ていて私が連想させられたのはピナ・バウシュ版の「春の祭典」だった。作品への構えがどうしてもコンセプトに寄りがちになる現在のコンテンポラリーダンスのなかで、マーラーというクラシック音楽の巨匠の音楽に正面から対峙していくような作品作りへの構えはいささか古くさいものと見なす向きも出てきそうなところだが、木ノ下歌舞伎の「娘道成寺」でのソロダンスから判断しても、きたまりのマーラー連作はここから現代の新しい古典が生まれてかもしれないとの予感を充分に感じさせるものだった。本人にも伝えたがぜひともこの作品に限らずこれまでの3作品のどれでもかまわないので東京での再演も実現してほしい。あるいはきたまり作品を東京に招聘してくれるプロデューサーはいないだろうか?

*1:そのうち2人は関西の主要バレエ団所属していた経験あり。