下北沢通信

中西理の下北沢通信

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佐々木彩夏ソロコンサート AYAKA-NATION2017in両国国技館

佐々木彩夏ソロコンサート 「AYAKA-NATION2017in両国国技館

今回は時期的にソロコンに合わせるようにソロCD「My CHERRY PIE(小粋なチェリーパイ」を発売。曲調、MVともに1950年代の青春を描き出したミュージカル「グリース」、ミュージカル*1と「ウエストサイド・ストーリー」*2を下敷きにしていた。そのため、ソロコンも見る前に予想していたのは少なくともいくつかのシーンはこれらを参考にしながらミュージカル風に構成するのではないかということだった。

 以前書いたももクロ論「演劇とももいろクローバーZ*3で「5th dimention」から「GOUUN」のツアーを踏まえてももクロライブのミュージカル路線を予想したのだが、その後、ももクロと演劇との実際のかかわりは私の予想とは違って、平田オリザ本広克行との出会いから映画、舞台の「幕が上がる」へとつながっていき、ミュージカル的な要素は「ももいろクリスマス2014 さいたまスーパーアリーナ大会 ~Shining Snow Story~」で試みられた以降は次の挑戦の機会になるのではないかと私が予測したドームツアーでも試みられることはなく、中断状態になっていた。
 その間のももクロの特に大箱といわれる大規模会場でのライブはショーアップされた要素の強い総合エンターメント色の高いものからももいろフォーク村などを通じて熟成されたダウンタウンももクロバンドとの信頼関係や向上してきたメンバーの歌唱能力を背景に音楽性を重視したライブ性の高いものに変化してきた。ももクロがその方向に進むかどうかは不明だが、有安杏果のアーティスト色の強いソロライブはこの方向のひとつの極北にあるかもしれない。
 その意味で今回の「AYAKA-NATION2017in両国国技館」は杏果のライブとは対極的。総合エンターテインメントであるももクロライブの方向性をさらに推し進め、かつて予想したミュージカル路線への途上にあったかもしれない。このライブのために前山田健一にあーりん自身が委嘱した2曲の新曲を中核に先に描いたようなミュージカル「グリース」のような1950年代の青春を表現、あーりんはそこでチェリーパイ(女性)とハンバーガーボーイ(男性)という男女2人を1人2役で演じるという堂々とした座長芝居ぶりで、それぞれ3B junior(スリービージュニア)のメンバーをそれぞれ男性役、女性役を演じダンサーとして踊らせることでダンスミュージカルのようなシーンを作った。
 はっきりとした物語性はないから純然たるミュージカルとは言い難いのだが、ミュージックビデオさながらに4人の男装のダンサーを率いて踊った「 My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ)」から始まり、次が英語曲しかも「Hard Headed Woman」 「Jailhouse Rock」とあーりんのソロコンでプレスリー?という驚きの選曲からチェッカーズの「ジュリアに傷心」、キャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」と男性ボーカルの楽曲を歌いあげる男役はなかなか堂に入ったものだった。ここでは自らギターを持ってのプレイを行う楽曲もあったが、難しいフレーズは佐藤大剛にまかせて気持ち良くギターをかき鳴らす姿はあーりんならではのもので、こういうところの技術を越えたショーマンシップがあーりんならではの魅力だったと思う。旅先では現地のHARDROCKカフェにはかならず行くというあーりん。母親の影響によるファッション先行の部分もあるが、ロッキー3の主題歌でも知られるSurvivor「Eye of the Tiger」を行き成り選曲してきたのには思わず仰天。こうした歌い上げるタイプの英語曲は発声の面からも発音の面からは「まだ無理だろう」という印象は否めないのだが、おそらく自らこうした楽曲を
自ら選曲してきた挑戦心も評価すべきじゃないかと思う*4。こういう曲はたとえ今十全な形で歌いこなせてなくても「秋桜」のように将来への布石となるのではないか。
「We go together 」「 想い出のサマー・ナイツ」はいずれもミュージカル「グリース」からの選曲。ここでは3B juniorのメンバーが大活躍。原典そのものをほぼ再現したダンスシーンを見事に演じてみせた。振付家が誰なのかは公表されていないので確証はないが*5、2階席から見下ろしていたということもあり、コンサート冒頭の場面であーりんと一緒に4人の男装のダンサーが出てきた時にはMVにも出ていたプロのダンサーに再びお願いしたのかと思っていたのだが、このシーンでは3Bjuniorのメンバーだということもはっきりと分かり、そして普段の楽曲ではあまりないと思われるジャズダンス系の動きなのに皆予想以上に上手くこなしているのにびっくりさせられた。

We go together

想い出のサマー・ナイツ
 群舞だけではなくて、途中で愛来と男性ダンサーによるデュオもあったほか、あーりんが登場した後は男性パートを受け持ったダンサーはあーりんとデュエットで掛け合いのように歌も歌いこれがそのままミュージカルにキャストとして出たとしても遜色なく思われるような完成度の高さだった*6
 あーりんの面白さはまずやりたいことのイメージが先にあってそれに取り組みたいと考えた時の大胆さだ。



セットリスト
「AYAKA NATION 2017 in 両国国技館
【DAY1】
1. My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ) / 佐々木彩夏
2. Hard Headed Woman Elvis Presley
3. Jailhouse Rock Elvis Presley
4. ジュリアに傷心 (チェッカーズ
5. ファンキー・モンキー・ベイビー(キャロル) 
6. スリル (布袋寅泰)ギター
7. 誘惑 (GLAY) 
8. Eye of the Tiger Survivor (ロッキー3の主題歌)
9. We go together(ミュージカル「グリース」から)
10. 想い出のサマー・ナイツ (ミュージカル「グリース」から)
11. My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)
12. ハートをRock (松田聖子
13. ラズベリー・ドリーム (レベッカ
14. Link Link / ももいろクローバーZ
15. キューティーハニー / 佐々木彩夏
16. SUMMER SONG (YUI
17. Laugh away (YUI
18. 今すぐ Kiss Me (リンドバーグ
19. バイバイでさよなら / ももいろクローバーZ
ENCORE
DJ KOO DJ TIME
EN1. あーりんは反抗期! with DJ KOO / 佐々木彩夏
EN2. あーりんはあーりん? / 佐々木彩夏
EN3. スイート・エイティーン・ブギ / 佐々木彩夏
EN4. だってあーりんなんだもん / 佐々木彩夏<<


参考情報)【DAY2】
1. We go together
2. 想い出のサマー・ナイツ
3. My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)
4. ハートをRock
5. ラズベリー・ドリーム
6. 桃色空
7. あなたに逢いたくて ~Missing You~
8. ever since
9. My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ) / 佐々木彩夏
10. Hard Headed Woman
11. Jailhouse Rock
12. ジュリアに傷心
13. ファンキー・モンキー・ベイビー
14. Link Link / ももいろクローバーZ
15. キューティーハニー / 佐々木彩夏
16. SUMMER SONG
17. Laugh away
18. 今すぐ Kiss Me
19. HAPPY Re:BIRTHDAY / ももいろクローバーZ
ENCORE
DJ KOO DJ TIME
EN1. あーりんは反抗期! with DJ KOO / 佐々木彩夏
EN2. あーりんはあーりん? / 佐々木彩夏
EN3. スイート・エイティーン・ブギ / 佐々木彩夏
EN4. だってあーりんなんだもん / 佐々木彩夏

*1:1971年初演 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_%E6%98%A0%E7%94%BB

*2:1957年初演 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E7%89%A9%E8%AA%9E

*3:第2部 演劇とももいろクローバーZ - 中西理の下北沢通信

*4:ただ、こうした楽曲についてはファンの間からも無理な曲は歌うべきではないとの意見も出ていた

*5:あーりんソロのMVの振付を手掛けたAnnaではないかと推測される

*6:男装だったので誰なのか最初はよく分からなかったのだが、ガチンコ3に最近参加した栗本柚希だったようだ