下北沢通信

中西理の下北沢通信

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有安杏果ソロコンサート「ココロノセンリツ~feel a heartbeatvol.1.5~」@日本武道館

有安杏果ソロコンサート「ココロノセンリツ~feel a heartbeatvol.1.5~」@日本武道館

有安杏果が2016年7月の横浜アリーナから始まったソロコンサート「ココロノセンリツ」の総決算と位置づけていたのがよく分かるライブコンサートだった。ただ、それだけに終わってから何日か経過した今も最後に杏果が言った「『ココロノセンリツ』はこれで終わります」という言葉が今もどうしても気になって脳裏で反芻し続けている*1

有安杏果「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.1.5」TRAILER MOVIE

 そもそも最初の横浜アリーナのソロコンを「ココロノセンリツ~feel a heartbeatvol.0~」としたのは「今後、vol.1、vol.2、vol.3と一生やり続けていくためだ」とあの時言っていたのではないのか。このライブは照明効果にまで最新の注意をはらい計算され尽くしたライブとなっていただけに「終わります」は次のソロコンをやるにしてもいまのところスケジュールは予定されていないので、しばらく先になります、というような軽い意味には取りにくいような周到に準備された言葉に思われた。個人的には「その程度の意味であってくれ、深い意味はないと考えたい」という気持ちはあるのだが、杏果のソロコンは彼女あるいはグループ全体の活動にとって負担が大きすぎるので、運営サイド(というかこの場合はほぼ間違いなく川上さん)からストップがかかったのではないかという気がしてならないのだ。
 これは現在のところただの推測にすぎないし、杏果のことであるから発言の真意について何らかの説明を自分でするかもしれないが
、杏果が今回のライブを「~feel a heartbeatvol.1.5~」としたのは日本武道館のライブが決定した時点ではこれで終わりにする気はなかったと思う。
 根拠があるというよりは単に論理的な推論にすぎないが、もしその時点で日本武道館を「ココロノセンリツ」最終公演にすることが決まっていたのであればvol.1.3、vol.1.5などと細かく刻むことはなく、切りがいいようにvol.1.5、vol.2.0としていたんじゃないかと思う。そうであるとするとソロコンの表題を決めて以降、この日までに何かの状況の変化があったのではないかと思われるのだ。ただ、私は当日パンフをライブの日には購入できずまだ読めていないので、そこには何らかの裏事情が記されているのかもしれない。このことについてはそれを読んだうえで再び考えてみたい。
 いずれにせよソロコンはしばらくはないようなので杏果に個人的な希望がある。それはこれまでももクロの活動とソロ活動を区別するためにフォーク村を含むももクロの活動では少数の例外を除けばソロ曲を披露してこなかった。だが、ソロアルバムも発売となり、ソロコンがしばらくないのなら曲を披露する場がなくなるので、これを機にももクロ現場でもせめてれにちゃん、あーりんのソロ曲程度にはももクロ現場で歌うことを解禁してほしい。そうでないといい曲がいっぱいあるのに楽曲が可哀想なので。
 さてここからは実際のライブの中身について振り返ってみたい。今回のライブは冒頭で「小さな勇気」が歌われた。これはおそらく被災地である仙台で行われたvol.1.3とvol.1.5は若干の相違はあるもののほぼ同じような構成のライブとしてデザインされており、全体を通してのテーマソング的な位置に震災復興応援チャリティーソングでもある「小さな勇気」を置いたからだろう。そして、その後の曲順は発売されたばかりのアルバム「ココロノオト」の収録順に展開していく。そして、実はアルバムは制作順に順録りして楽曲を収録していることから杏果自身が話すようにこれまでの杏果ソロ活動の集大成を思わせるようなものとなっている。 「小さな勇気」「心の旋律」は全体に暗い中でセンターステージの杏果にスポットが当てられた。アカペラの部分も含めアルバムの原アレンジよりはたっぷりと歌うように編曲し直されている。今回も曲ごとに細かくアレンジを変えたり、楽器演奏のために大幅に変えたりと東名阪で試みたことをより徹底的にやっていて、特に今回はバンドにストリングスのアンサンブルを入れたことで、曲のつなぎにインストゥルメントの演奏を入れたりとかなり凝りに凝った構成にもなっており、ただ歌うというだけでなくて、こういう風にアレンジや構成をバンドと一緒に考えていくことが楽しくて仕方ないのではないかと感じさせたが、冒頭の2曲などそのせいで少し似たような曲調になってしまったり、あるいは先ほど凝った構成と書いたがいじりすぎていてもう少しシンプルにそのままやった方が効果的なのではと思うところも散見された。

 それぞれの楽曲については以前このサイトでアルバムレビューのようなことをやったこともあるのでそれを参照してほしいが、この日本武道館公演にとってスペシャルだったのは杏果がEXGP時代にキッズダンサーとしてEXILEのバックを務めたことのある「Choo Choo TRAIN」を歌い踊り、しかも途中からはかつての杏果がそうだったように現在EXGPに在籍しているキッズダンサーをバックに引き連れて踊ったことだ。横浜アリーナで歌ったEXILE「KISS YOU」もそうだったが、杏果にとってEXILEあるいはLDHの楽曲は特別な意味合いや思い入れがあるようで、それはかつて24時間ユーストで他のメンバーが巫山戯てEXILEやEーGIRLの楽曲を歌い出したときに「LDHさんに怒られちゃうから」と慌てて止めに入ったことなどからもうかがえたが、今回は思い出の歌を武道館でしかもかつての自分を彷彿とさせる子供たちと一緒に披露することができたことで相当の感慨があったのではないか。さらに言えばこれまではおそらく杏果側で畏れ多いとNGを出していたのではないかと思われるEXILEメンバーとの歌での競演が近くあるのではないかとの期待を感じさせた*2

 アコースティックギターを演奏しての弾き語りでは宇多田ヒカルの「ファースト・ラブ」と自作曲の「ペダル」を披露した。宇多田ヒカルは彼女のハスキーな声が合うのではないかと思い以前から杏果に歌ってもらいたいと思っていたのでそれが聴けたのは凄く嬉しかったのだが、宇多田はやはりいろんな意味で歌がうますぎるので杏果の歌はそん色ないというところまではいかないと少し残念だったのだが、実はそれは生演奏で相当の負荷がかかっていたせいというのもあったようだ。というのも逆再生リレーでギター演奏なしで歌った「ファースト・ラブ」を聴いてみるとまるでグルーブ感が違っていたからだ。逆再生は一部だけだったので、フォーク村とかで今度は演奏なしでフルコーラスの歌唱を聴いてみたいと思った。
 実は今回のバンド編成のもうひとつの売り物はベースにウッドベースを入れていたことだ。それゆえか中盤の「裸」「愛されたくて」「遠吠え」「TRAVEL FANTASISTA」といった楽曲群はジャズっぽいもともとピアノ演奏などジャズ風味の強い曲想でもあるが、それが1~2割り増しの感もあり、以前何かの番組でいつか将来は「ブルー・ノート」で歌ってみたいと語っていたのを思い出した。その時にはそういうところで歌うにはまだ全然色気が足りないだろうなどと思っていたが、「遠吠え」などでは相当に大人の魅力も発揮している。杏果に一度ジャズのスタンダードを歌わせたいと思った。意外とはまるのではないかと思う。
 最初の「小さな勇気」「心の旋律」では巨大な半透過幕のスクリーンにモニター風に杏果の撮った写真を映写していたのだが、感心させられたのは日大芸術学部の卒業制作が「心の旋律」を主題とした組写真であったように全部で6曲ほどが杏果が自ら撮影、製作した一連の組写真と楽曲を組み合わせて、それでひとつの作品となるようになっていたことだ。つまり、この日に披露された20曲程度の楽曲のうち、6曲は写真・楽曲を組み合わせた作品、そのほかにも杏果がコンセプトを伝えて映像作家によって製作させたアニメーションと組み合わせた楽曲も2曲あるので半分近くがビジュアルと楽曲を組み合わせた作品となっている。そのほかにアコースティックギター、「ありがとうのプレゼント」でのピアノ演奏、「feel a heartbeat」でのエレキギターの演奏、アンコールでは「教育」のドラム演奏と本当にコンサートそのものが杏果の作品と言っていい。
 少し意外だったのは「 Another story」を初出でアンコールの一番最後に持ってきたこと。いろいろ考えられるけれどこの曲がテンポもあって盛り上がれる曲だからだろうか。深読みすれば「最後のあいさつ」とリンクして「本当は叫びたい」以下の歌詞が今の杏果の心情を反映しているというのはやはりうがちすぎだろうか。
 いずれにせよどういう形にせよできるだけ早くソロコンを復活させてほしいと思う。

有安杏果「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.1.5」2017年10月20日 日本武道館 セットリスト

01. 小さな勇気
02. 心の旋律
03. Catch up
04. ハムスター
05. feel a heartbeat
06. ありがとうのプレゼント
07. First Love
08. ペダル
09. Choo Choo TRAIN
10. Drive Drive
11. 裸
12. 愛されたくて
13. 遠吠え
14. TRAVEL FANTASISTA
15. 色えんぴつ
16. ヒカリの声
<アンコール>
17. 教育
18. メドレー
19. Another story
<ダブルアンコール>
20. feel a heartbeat

*1:これは結局、今考えればこの時点でもうももクロ卒業を決めていたからなのだが、その可能性は脳裏にも浮かばなかった。ただ、「なにかおかしなことが起こっているのではないか」という感覚はあった

*2:次のFNS歌謡祭に期待である