下北沢通信

中西理の下北沢通信

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岩渕貞太ソロ・ダンス「missing link」@こまばアゴラ劇場

岩渕貞太ソロ・ダンス「missing link」@こまばアゴラ劇場

振付:岩渕貞太

ダンスと舞踏を学んだ岩渕貞太が、世界を先導する財産であると確信する舞踏を、自身の身体哲学から再解釈し、新たなダンスを創造するソロ公演。

『missing link』は、生物進化の環のなか、発見されていない存在、定かではない不在。
自身の身体の奥深く、『missing link』を探り続ける旅。
それは、他者の侵入を許しながらも抵抗し、名付けえない未知なるものを生み出す、変容と崩壊のダンス。
のみこむ漆黒の闇、あからさまに晒す光、残される蠱惑の肉体。


岩渕貞太

玉川大学で演劇専攻、同時に、日本舞踊や舞踏も学ぶ。ダンサーとして、ニブロール伊藤キム山田うん等の作品に参加。
2007年より2015年まで、故・室伏鴻の舞踏公演に出演、深い影響を受ける。
2005年より、「身体の構造」「空間や音楽と身体の相互作用」に着目した作品を発表する。
2012年、横浜ダンスコレクションEX2012にて、『Hetero』(共同振付:関かおり)が在日フランス大使館賞受賞

岩渕貞太という人の作品を見たことは何度もあるのだけれど、単独の本格的ソロ公演を見たのは初めてだったかもしれない。この人の作品については見ていてすごくスリリングで刺激的な部分と少し分からない部分が共存していて、そこが面白いのだ。
 というのはダンスとしてスリリングで面白い部分が面白く、それ以外はつまらないという風に言えれば話は簡単なのだが、そういう風に間単に言うわけにいかないような空気があって、ひょっとしたらそれがこの人のダンスの一番「面白い」ところなのかもしれない*1
  「missing link」は大きく分けると3つの部分からなっている。衣装を着て踊る最初のパート、一度舞台からはけてから上半身が裸体となって出てくる第2のパート。そして、その状態のまま激しく動き回る第3のパートである。後の2つというのはひとつながりのもので前半と後半の2つの部分に分かれているのではないかと指摘する人も出てくるであろうことを承知でそれでも便宜上3つに分けているのでそこはとりあえずは納得しなくてもそうしておいてほしい。
 「missing link」という作品においてダンスとして端的に一番目を惹きつけられるのは真ん中のパートだろう。ここで岩渕はゆるやかな動きの中で、体中の筋肉や骨を制御しながら、じっくりと身体の変容のあり方を見せていく。この鍛え抜かれた身体のあり方は基本的に「舞踏的」なものであって、岩渕の経歴を見てみても2007年より2015年までの9年間にもわたって室伏鴻の公演に参加しており、室伏の影響を受けて現在も創作活動を行っているダンサーは鈴木ユキオ、目黒大路らほかにもいるが、室伏特有の体のあり方をかなり受け継いでいるようで一番直系と言っていい存在なのかもしれない。
 とはいえ、そこで体現されることは違ってもいて、いささか比喩的な表現になるが、全身銀塗りをした室伏のパフォーマンスにはどこか爬虫類的なところがあったのに対し、激しい咆哮を上げながら動き回る岩渕のパフォーマンスにはもっと野獣的なというか、いまだかつてみたことがない未知の生物に突然遭遇したかのような驚きを感じた。

*1:禅問答のように奇妙なことを言っているように聞こえるかもしれないし、そんなものは批評ではないと言う人も出てこようが、公演中に感じた「感じ」を再現しようとするとそんな風になってしまう