下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団自主企画vol.68 ハチス企画「木に花咲く」@アトリエ春風舎

作:別役実
演出:蜂巣もも
出演:串尾一輝、山本雅幸、小寺悠介、南波圭、植浦菜保子、田中孝史、吉田美貴子

 別役実の戯曲を青年団演出部所属の蜂巣ももが演出した。平田オリザ流の現代口語演劇ではないにしても別役のテキストは本来会話劇であって、これまで見た多くの舞台ではそういう演出ないし、演技体で上演されたものが、ほとんどだった。それゆえ、今回の「木に花咲く」は別役作品の上演としては相当に異色な部類に入るのではないかと思う。
 実際にあった朝倉少年祖母殺害事件(孫による祖母殺害事件)を基にした一種の家庭劇だ。室内を模したセットでの会話劇として上演されるのが普通だと思うが、ハチス企画版では下手に大きな桜の木、ほかにも舞台狭しと花の咲いた桜の枝が林立しており、どこか幻想的な架空の空間を思わせる舞台装置。
 俳優の演技もこごもったような作り声で祖母役を演じる串尾一輝をはじめ、リアルさはみじんもない台詞回し。会話劇では話し相手の方を向いて演技することが普通だが、どの俳優もほぼ正面を向いてしかも朗々と語るというのではなく、聞き取りにくいような発声法でもごもごと話すこともあって最初の内は気になって仕方がなかったほどだ。

木に花咲く―別役実戯曲集

木に花咲く―別役実戯曲集

 そういうのは見ているうちに次第に慣れてきて気にならなくなってくるのだが、それでも別役実のテキストをこういう怖い昔話のようにモノローグのような演技で表現するというのはどうも座りがよくない。実は同じ別役実戯曲の上演ながらハチス企画とまったく対照的なスタイルで優れた舞台成果を上げていたのが昨年末に横浜・STスポットで上演された中野成樹+フランケンズ短々とした仕事5「カラカラ天気と五人の紳士」だった。
カラカラ天気と五人の紳士―別役実戯曲集

カラカラ天気と五人の紳士―別役実戯曲集

 別役実の芝居は時として「不条理演劇」などと呼ばれることがある。この2つの芝居は同じ別役戯曲といってもそれぞれが表題作である戯曲集の発売時期を見ると十数年のタイムラグがあることからもともと戯曲の持っていたテイストが大きく異なるのかもしれないという問題はあるが、両者の舞台は観劇後の印象も大きく違っていた。