下北沢通信

中西理の下北沢通信

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祝ヨーロッパ企画上田誠が岸田戯曲賞受賞

 岸田國士戯曲賞ヨーロッパ企画上田誠が受賞。「個人的には今回の受賞は当然だと思ってはいるが、選考委員がちゃんとこれを選んだということについてはちょっとびっくりした。選考委員の皆さん、甘く見ていてごめんなさい」と実は以上の文章は今回は選考委員に入っているチェルフィッチュ岡田利規が2005年に第49回岸田國士戯曲賞を受賞した時にこのブログに書いた文章*1だったが、今回もう一度同じ事を言ってみた。
 とはいえ、状況はまったく違う。岡田利規の時は私も含め一部の舞台関係者(ダンス関係が多かった)からは熱烈な支持を受けていたが、一般への知名度はほとんどなかった。合わせて今では皆知る存在になっているが当時としては初めてその戯曲を読んだ人は奇異に思わずにいられないような特異なスタイルをとっていた。
一方、上田誠本広克行監督が映画にした「サマータイムマシン・ブルース」をはじめ、いくつもの作品を劇団で上演してきた経歴の持ち主であり、演劇以外にもテレビアニメとして史上初の「文化庁メディア芸術祭大賞」を受賞した「四畳半神話大系」の脚本を担当した。その時と同じスタッフ陣により制作され近く封切り予定のアニメ『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦原作)の脚本も手がけている。その実力は折り紙つきといっていいが、問題は三谷幸喜などの一部の例外を除けば岸田戯曲賞がこれまでこうした娯楽性の強いタイプの人気作家に賞を与えることがほとんどなかったからだ。
 そのため候補発表の日にも書いた*2がまず上田誠が最終候補のリストに入っていたことにびっくりした。こういう戯曲賞のようなもの(なかんずく岸田戯曲賞)とは一番距離があると思いこんでいたからだ。事実、これまでの上田には人気劇団として観客を動員し、映画、テレビなどの関係者からの評価は高くてもこと演劇のメインストリームからはまったく黙殺されてきたような印象もあり、岸田戯曲賞への最終候補へのノミネートも初めてのことだった。
 もっとも蓋をあけてみるとまだ全体の選評は出てはいないが「ほぼ最初から、上田誠氏の作品に評価が集中した。見事な筆致に唸ると同時に、悔しいがいくつもの場面で笑った。この技術の高さとセンスの鋭さに感服した」(宮沢章夫氏)、「受賞作である上田氏『来てけつかるべき新世界』はまあとにかく技術が高い。他意なく心から〈ウェルメイド〉と呼ぶことのできる、文句なくおもしろい作品で、これへの授賞に『エンタメだから私の趣味じゃない』みたいにケチを付けることを許さないだけの力があった」と選考委員*3の2人が明らかにしている通りに抜群の評価ですんなり受賞が決まったようである。そう考えると候補作に残ったというのが受賞の分岐点となったといえるかもしれない。実は私はこの作品の上演は見逃してしまい、そんな作品に限って岸田戯曲賞に突然残ったということはこれまでほとんどの上演作品を見てきているのに「なんで!」との思いはあった。ただ、昨年から戯曲がWeb上に限定公開されるようになったので候補作「来てけつかるべき新世界」を戯曲では読んでみて、その結果、「こんなに抜群に面白い作品が受賞しないとしたらおかしい」と思った。しかし冒頭にも書いたようにこれまでも当然この作品が取ると思っていた作品が落選するということはあったし、現に実力がありながら受賞できないでいる人は何人もいる*4ので確信は持てないでいた。最後に上田誠さんおめでとう。選んだ審査委員も流石です。いずれにせよ今回の上田誠の受賞は受賞してないが実力はある影の候補者たちにも「まだ我々にもチャンスはある」との勇気を与えたのではないかと思う。

「ゲーム感覚で世界を構築 ―シベリア少女鉄道ヨーロッパ企画―」 http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/00000113

*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20050208

*2:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20170124/p1

*3:KERA氏のtwitterでのつぶやきから:詳細は選評に記すが、岸田賞、昨年同様途中参加になることが判っていた俺は、選考会が始まる前に自分の各候補作への評価を伝えてあった。上田氏が⚪︎で、あとは全部×。 が、会場に到着後、平塚氏と市原氏を△に変更。この時点で他に机上に残っていたのは他に林氏。 ともかく上田氏は圧倒的だった

*4:そのうちの何人かは候補にさえなったことがない