下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

オフィスコットーネプロデュース「夜、ナク、鳥」@吉祥寺シアター

フィスコットーネプロデュース「夜、ナク、鳥」@吉祥寺シアター

作:大竹野正典
構成・演出:瀬戸山美咲
プロデューサー:綿貫凜
出演:松永玲子高橋由美子松本紀保安藤玉恵 、政岡泰志(動物電気) 、成清正紀(KAKUTA) 、井上幸太郎 、藤井びん

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関西の劇作家であり、水難事故で2009年7月に物故した大竹野正典*1作品の連続上演に取り組んできたオフィスコットーネプロデュースがついに大竹野の代表作である「夜、ナク、鳥」を上演した。オフィスコットーネはまるで座付き作家かのようにこのところ大竹野作品を継続的に上演してきたが、瀬戸山美咲による大竹野正典の評伝劇「埒もなく汚れなく」を挟んでの今回の瀬戸山演出の「夜、ナク、鳥」の上演はプロデューサー、綿貫凜による大竹野正典「復活プロジェクト」の集大成的な意味合いを持つものとなったのではないか。

「夜、ナク、鳥」は1998年~1999年に実際に起こった福岡県久留米市の現役看護師らよる連続保険金殺人事件を題材にしている。もともと円形の野外劇場を会場とする「ラフレシア円形劇場祭」のために書き下ろし上演した作品だった。
 周囲を客席に囲まれた円形の舞台は、中央に四角い舞台が設置されていた。今回は円形舞台ではないがやはり舞台中央は方形に区切られ、そこにはソファが置かれていて、抽象舞台ではあるが、そこが主要登場人物それぞれのリビングルームに見立てられていく趣向はそのまま引き継がれている。

 大竹野が主宰したくじら企画のホームページに掲載されたあらすじは次のようだ。

看護婦イシイは、最近日に30回も鳴る無言電話に悩まされている。同僚のヨシダに相談したところ、夫の浮気相手に違いない、知り合いのセンセイに頼んで何とかしてやろうという。

ヨシダはイシイに、足りない資金は自分が貸すから駅前の新築マンションに皆で入ろうと持ちかける。最初、しり込みしているイシイも、やはり同僚で友達のツツミ、イケガミも既に購入を決めたと聞き、熱心に誘われた挙句その気になる。

イケガミのマンション。お茶漬けを食べている彼女に夫エイジがつきまとうように話し掛けている。無視しているイケガミだが、我慢できず、新築マンションに引っ越すからもう二度とつきまとうな、と叫ぶ。エイジは、ヨシダに騙されるな、と繰り返す。

病院の庭。ツツミがガン患者であるミチロウを車椅子で散歩させている。ミチロウはツツミに勧められた新薬を試してみる事にした、と告げる。ツツミは再度、効く可能性は五分五分だというが、ミチロウは決意する。夜中に目が覚めたとき、庭で真っ黒な小鳥が白木蓮の花を食べているのを見たという。ツツミは後日、辞典で調べて、それは小夜鳴鳥(ナイチンゲール)であるとミチロウに教える。

病院の休憩室。イケガミがヨシダに、二年前に死んだエイジの幽霊に悩まされている事を告げる。実は、ギャンブルでヨシダに多額の借金を作ったエイジを、ヨシダがそそのかして、イケガミ自身がツツミに助けられ殺害。その保険金をヨシダに返した事が明らかになる。更にツツミはイシイに、イシイの夫がヨシダに多額の借金をしている事を告げる。ヨシダは数年前夫に死別し、その時の保険金の大半を貸してしまった、という。

ヨシダのマンション。男とヨシダが密談をしている。男はヨシダに頼まれ、借用証書を偽造していた。どうやらかつてエイジの借用証書も偽造したらしい。イシイの家に無言電話をかけているのもこの男、ヒデキである。すべてはヨシダの指図である。友達を騙して保険金をせしめたヨシダをヒデキがからかうと、つまらない男に引っかかったイケガミの事を思って騙した、騙しつづける友情もある、世間知らずのお嬢ちゃんを苛め抜き、幸福は自分で掴むものだと分からせてやる、とうそぶく。

ツツミとイケガミによるエイジの殺害シーン。深酒をして寝込んでいるエイジの血管にカリウムを注射するイケガミ。ツツミは血圧計でエイジの血圧を測る。カリウムがうまく効かず、ヨシダに携帯で指示を聞くツツミ。ヨシダは血管に空気を入れろという。自分でやった事は自分で責任を取れといいながらエイジに繰り返し空気を注射するイケガミ。大きく下がるエイジの血圧を見届け、去るツツミ。放心しながらも救急車を呼ぶイケガミ。

イシイの家。女と暮らし、家を出ている夫を呼び出したイシイは、ヨシダへの2000万近い借金について問いただす。夫ゴウは、多少は借りたが、そんな大金では無いと否定する。ゴウは、子供に会いたい、女と別れるから家に戻りたいというが、イシイは借金を一緒に返そうと詰め寄る。ゴウは身に覚えのない事だ、とイシイを突き放し、家を出ていく。泣き崩れるイシイ。

ヨシダは投資していた株が駄目になり、どうしても今すぐ借金を返して欲しい、でなければ自分は破産する、とイシイに詰め寄る。ツツミとイケガミも一緒に、ゴウの殺害を説得する。頑なに拒んでいるイシイだが、やがてゴウの殺害を承知してしまう。

殺害方法の相談をしている四人に、ミチロウの危篤の知らせが入る。動揺するツツミを三人が支え、緊急手術に臨む。甲斐なく臨終を迎えるミチロウ。泣くツツミ。慰めるヨシダ。

決行の夜。制服姿の四人は、ナースキャップを捧げ持ち、ナイチンゲール誓詞を唱える。ヨシダは三人に、今夜一晩、ウチらは看護婦の精神を捨てる、と言い渡し、イシイを促してナースキャップに火をつけさせる。暗闇に燃え上がるナースキャップ。

とはいえなんといっても今回の舞台で特筆すべきなのはキャスティングの妙であろう。物語の中心となる4人の看護師役に松永玲子(ヨシダ)、高橋由美子(イシイ)、松本紀保(ツツミ)、安藤玉恵(イケガミ)といずれおとらぬ個性派実力女優が顔を揃えた。なかでも主犯格として他の3人を一連の事件に巻き込んで行く過程で関西のおばちゃんのふてぶてしさを見事なまでに演じたのが松永玲子。こういう言い方をすると若干語弊があることを承知でいえば所属のナイロン100℃などでどちらかというとコミカルな役柄が多い松永であるが、女の持つ暗黒面にも踏み込んだ今回の役は確実に女優として新たな境地を開いたといえそうだ。
 治験コーディネーターとして抗がん剤の新薬を奨めた自分の担当患者の死には号泣しながら、その直後には殺人の遂行をイシイに催促するという人間の複雑な二面性を演じた松本紀保もなかなかの好演。
 ツツミと一緒に夫のエイジを殺害するもののその後、ずっと亡霊のように自分に付きまとうエイジに悩まされながらも日常のように受け入れている安藤玉恵(イケガミ)、借金の返済を迫られて保険金殺人への加担を無理やり同意させられるものの最後まで気が進まぬイシイ(高橋由美子)とそれぞれ性格の違う4人を描き分けた脚本とそれを体現した4人には納得させられた。