下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

青年団リンク キュイ「きれいごと、なきごと、ねごと、」@アトリエ春風舎

青年団リンク キュイ「きれいごと、なきごと、ねごと、」@アトリエ春風舎

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作 綾門 優季
演出 櫻井 美穂

出演
尾﨑 宇内(青年団
折舘 早紀(青年団
小寺 悠介(青年団
寺田 凜(青年団
中藤 奨(青年団
大橋 悠太

スタッフ
美術:渡辺瑞帆(青年団)/音響:櫻内憧海(無隣館/お布団)/ 照明:山岡茉友子(青年団)/舞台監督:島田曜蔵(青年団)/ 宣伝美術:原田くるみ/制作:谷 陽歩

 綾門優季が事実上演劇界から注目されるきっかけとなったのは「止まらない子供たちが轢かれてゆく」(2012年9月初演)が第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞したためなのだが、受賞はもちろん上演後だから、私が綾門の作品を初めて見て、そのアンファンテリブルぶりに強い衝撃を受けたのは再演(2014年9月)の時だった。
 今回上演された「きれいごと、なきごと、ねごと、」はこれまでに2度上演されている。その意味で代表作のひとつともいえるが、初演が2012年3月。「止まらない子供たちが轢かれてゆく」より前で、再演でさえ2014年5月31 日~6月4日と「止まらない~」より前だから、ただでさえ若い(現在も20代)の綾門のさらに若書きともいうべき 初期作品だということがいえよう。
 とはいえ、この作品にも現在も綾門作品の独自性としてあげられるような特徴はすでに見て取ることができる。当日公演会場で配布された「青年団リンク キュイ『きれいごと、なきごと、ねごと』に寄せて」という文章で批評再生塾生の伏見瞬が「綾門優季は『独白』の作家だ。劇中の全ての対話は見せかけにすぎず、『劇自体』の『独白』として戯曲は成り立っている」と指摘しているが、この作品は典型的にそういう特徴が該当する戯曲構造を持つ。
主要な登場人物は三人の姉妹(愛雨、白雨、翠雨)と長女と二卵性双生児であるその兄、続。翠雨の彼氏・豪、翠雨のクラスメイト・溝口の5人だ。このほかに飼い犬・ペロ出てくる。
 出演するのは大橋、尾崎、小寺、中藤の男優4人と寺田凜、折舘早紀の女優2人。女優2人が姉妹のうちのだれか2人を演じて、残りは男優のひとりが回るのかなと予想するのが普通。そう考えて芝居を見始めるのだが、予想は大きくはぐらかさせる。
 櫻井美穂の演出ではまず男役と女役の性別が入れ替わる。女優2人がそれぞれ兄(寺田)と彼氏(折舘)を演じる。
これに対し、残りの男優4人が入れ替わり立ち代り3姉妹を演じる。さらに特徴的なのは3姉妹の関係はこの舞台の柱となる重要な事項であるにもかかわらず、姉妹とそれを演じる俳優には1対1の対応関係がなく、姉妹のどのひとりも残りの4人の男優(大橋、尾崎、小寺、中藤)が次々とリレー方式で演じ継いでいくことだ。
 誰がどの役を演じるかについて3人の姉妹は愛雨が黒のロングウィッグと赤い布、白雨は白い布に茶色のウィッグ、翠雨はショートカットのウィッグとピンクの布、それぞれを身につける。それを持った俳優がその役であるというルールになっている。
翠雨のクラスメイト・溝口の声はボーカロイドをさらに機械的にしたような機械的な音声がその役を担う。
 そしてその結果、舞台にどういう印象が生まれるかというと綾門のテキストではもともとそれぞれの登場人物は現実に実在するものというよりは漫画・アニメのキャラクターに近いのだが、桜井演出は役を演じる俳優のジェンダーを入れ替え、さらには一人の役柄を大勢で演じることで記号性の度合いを強め、さらに特に3姉妹についてはそれぞれを同じ俳優が演じ継いで演じることで、誰が誰なのだったかを何度も見失ってしまうぐらい「交換可能なもの」という印象を受けることになる。