下北沢通信

中西理の下北沢通信

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小田尚稔の演劇「凡人の言い訳」“Apology”@新宿眼科画廊スペースO

小田尚稔の演劇「凡人の言い訳」“Apology”@新宿眼科画廊スペースO

〔概要〕

「凡人の言い訳」は、プラトン(Plato:BC427-347)の『ソクラテスの弁明(Apology of Socrates)』を題材にして、「よく生きる」ということについて考えたくて書いた戯曲です。2015年の晩秋の時期から、翌年の春にかけて書きました。出演者は、女性一名。約100分の上演作品です。
ソクラテスの弁明』は、ソクラテスの一人語り(モノローグ)の形式で著された作品です。ですので、「凡人の言い訳」もそれに則してモノローグで構成しています。

プラトンは「よく生きる」ということについて次のように書いています。

「一番大切なことは単に生きることそのことではなくて、善く生きることである〔略〕また善く生きることと美しく生きることと正しく生きることとは同じだということ」『ソクラテスの弁明 クリトン』(岩波文庫、久保勉訳、1927年、74頁)。
今回の上演では、唯一の登場人物である女性の役を宇都有里紗さん、山下智代さんがそれぞれ演じてくれます。
2018年度の上演にあたって、公演日程も長く設け、上演回数も増やしました。

過去に演じてくれた俳優さんのものと同様に、今回もいい上演になるような気がしています。
毎度の言い回しで恐縮ですが、敬愛するアキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki:1957-)監督に倣って作品を「観終わった人が少し幸せになれるように」という心持ちで上演が出来たらいいな、と思っています。
そんな私(凡人)の言い訳。
〔脚本・演出〕

小田尚稔
〔出演〕

宇都有里紗 / 山下智代

〔音楽〕

原田裕
〔音響〕

畠山峻
〔映像撮影・編集〕

佐藤駿
〔宣伝美術〕

渡邊まな実
〔協力〕

犬など / People太 / シバイエンジン
〔企画・制作〕

小田尚稔
PROFILE
1986年生まれ。広島市出身。
東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。
上記在学中の2011年からインディーズ演劇にて俳優としての活動を経て、2015年より劇作活動を始める。
Naotoshi ODA
Born 1986 in Hiroshima City
2012 Master of Education, Tokyo Gakugei University Graduate School

  小田尚稔の演劇「凡人の言い訳」“Apology”はひとり芝居で宇都有里紗さんと山下智代さんという2人の女優によるダブルキャストによる上演で、この日は宇都さんによるバージョンを見た。
 小田尚稔の演劇の特徴は多人数のキャストが登場する場合でも基本的には俳優同士による会話の部分はほぼなく、全編がモノローグの連鎖によって上演されることだ。とはいえ、この「凡人の良い訳」はひとり芝居なのでひとりの俳優が次々といろんな役を演じていくというような形式でもなければ、ひとり芝居の多くはモノローグ的な叙述を主体とするのが普通ではあり、その意味では演技スタイルは 小田尚稔の演劇の典型といっていいスタイルだと言えそうだが、他のひとり芝居との差異がそれほど露わではないという意味ではこの人の作品を知る作品として適しているわけではなかったかもしれない。
 小田尚稔の作品を見るのはこれが3本目だが、興味深いのがこれまで見たすべての作品が池袋を基点として私鉄沿線を舞台としていることだ。作品中には登場人物が住んだり、暮らしている街の情景場所もたっぷりとあって、そういう生活実感が感じられるのが魅力のひとつである。
 そして、主人公はオーバードクターの女子学生に設定しているが、この「凡人の言い訳」は小田自身の体験がかなり取り入れられた自伝的な性格の強い作品のように思われた。舞台は西武池袋線東久留米駅近くのある大学とその学生寮を中心に展開するが、PROFILEによれば小田尚稔は東京学芸大学大学院にいたことがあり、この芝居に出てくる大学は東京学芸大に間違いないのではないかと思う。主人公は祖父の死で広島県の故郷に帰省するが、小田の出身も同じ広島であり、主人公による広島の土地の説明に妙にリアリティーを感じるのはそういう実体験に根ざしたものだからと感じた。小説を原作にした「高架線」はともかく、東京での震災体験を描いた「是でいいのだ」もやはり作者の実体験を投影したドキュメンタリー風の演劇だった。
 とはいえ、小田は事実を事実としてそのまま舞台にのせることはしていない。映した現実をそのまま観客に見せることができる映画や写真などと違い、演劇は舞台上で見せたものを一度観客の想像力に委ねる過程が不可欠で、よく事実あったことをそのまま舞台に乗せて、それは実際に起こったことだからリアリティーを持つと勘違いする作者がいるけれど、こと演劇に関する限りそういう風にはならない。
 
   

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