下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

悪い芝居vol.21『メロメロたち』 @東京芸術劇場

悪い芝居vol.21『メロメロたち』 @東京芸術劇場

日程2018年11月21日 (水) ~2018年11月25日 (日) 会場シアターウエス
作・演出:山崎彬 
音楽:岡田太郎
出演植田順平 めがね(めがねっとわーく) 中西柚貴 永嶋柊吾 東直輝 山崎彬 アツムワンダフル(ワンダフルボーイズ) 岡田太郎 小田龍哉(晩餐ヒロックス) 北岸淳生 畑中華香 川人早貴 潮みか 佐藤かりんほか

simokitazawa.hatenablog.com
 劇中でバンド生演奏をやりながらの音楽劇というのは悪い芝居が「すーぱーふぃくしょん」「メロメロたち」とひとつのスタイルとして定着させてきた。最近はやや遠ざかっていたけれど、このスタイルはオリジナルの音楽を作曲、生演奏できる岡田太郎という武器を持っているだけに悪い芝居といえばバンド芝居という形で押していったらいいのではないか。
 悪い芝居は外部から新たなるヒロインを発掘してくるのを得意技としているが、この「メロメロたち」は初演のヒロインをNMB48所属のアイドル、石塚朱莉が務め、いわば彼女にアテガキした感がある人物だった。
 今回この役を演じたのはユーチューバーでめがねという名前でも知られる渡邉みな。彼女は高校生ユーチューバーとしてその世界ではかなり知名度のある人だったようだが、高校卒業後女優を目指して活動を開始しているようで、おそらく本格的な舞台としてはこれが初めてと思われる。この役柄はどうしても初演の石塚朱莉のイメージが強いので最初はやはり違和感があるのだが、ハスキーな声質は個性的で存在感もあり、今後も継続的に舞台経験を重ねれば面白い女優となるかもしれない。

悪い芝居vol.21『メロメロたち』 ~目を閉じればどこにだっていける~
 「メロメロたち」では劇中でバンドの「⚪×⚪×」(メロメロと呼ばれている)が生演奏するのだが、これは全員俳優がメンバーとなっていて、単に劇伴音楽を演奏するというだけではなく、日本が東西に分かれて内戦状態になった未来に実際に存在するバンドについて描いた音楽劇になっている。バンドメンバー役を演じる俳優が生演奏するという意味ではいわばバンド版の「上海バンスキング」と言ってもいいかもしれない。
 バンドの生演奏が舞台上で行われるということであれば劇団⭐新感線などの前例もあるが、全員出演者をメンバーにしたバンドが劇中に登場してそのバンドの曲として生演奏を行うという例は聞いたことがないのではないか。実はこのバンドには毎回悪い芝居に劇中曲を提供しつつ出演もしている岡田太郎がバンドメンバーとしても参加していて、演奏されるのはすべて岡田の作ったオリジナル楽曲である。さらにいえば最近はあまりないが、以前は悪い芝居は京都のライブハウスを会場にライブ+芝居という公演を何度かしていて、この「メロメロたち」も本格的な舞台ではあるけれどもその延長線上にあるともいえる。さらに言えばバンドのメインボーカルは山崎彬自身であり、そのカリスマ性に拠っているところも興行の形態としては興味深いと思った。
 ただ、今回の舞台では若干の物足りなさも残った。ヒロインがアイドルであり、彼女もバンドと一緒に歌ったこともあってか、客席のノリが初演でよくてライブ感覚の一体感があり盛り上がったと記憶しているのだが、東京芸術劇場では少なくともこの日は観客は常に通常の演劇公演のように受身で静かに舞台を見ており、客席との間にライブ的な盛り上がりが引き起こさせるということはなかった。最後の方の演奏が観客が無人の中での演奏であるという劇中設定も影響したのかもしれないが、例えばカーテンコールでもう1曲コール&レスポンス付きで演奏するなどということがあればもう少し盛り上がり感が作れたのになと少しだけ残念に思われた。