下北沢通信

中西理の下北沢通信

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うさぎストライプ「空想科学Ⅱ」@こまばアゴラ劇場

うさぎストライプ「空想科学Ⅱ」@こまばアゴラ劇場

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作・演出:大池容子


夢みたものは、ひとつの幸せ。
わたしはそのひとのことを、よく知らない。
よく知らないけど好きになって、
よく知らないけどホテルに行った。

ひとつだけ分かっているのは、
いま、隣にいるこのひとはもう、死んでしまっているということ。

ひとりぼっちで生きていた名もないわたしが夢みたものは、たったひとつの幸せだった。

2014年にアトリエ春風舎で上演した『空想科学』を下敷きに描く、 虚構と現実、生と死がごちゃ混ぜになっていく、うさぎストライプの不条理劇。

うさぎストライプ

2010年結成。劇作家・演出家の大池容子の演劇を上演する劇団。「どうせ死ぬのに」をテーマに、動かない壁を押す、進まない自転車を漕ぐ、など理不尽な負荷を俳優に課すことで、いつかは死んでしまうのに、生まれてきてしまった人間の理不尽さを、そっと舞台の上に乗せている。

出演

斉藤マッチュ(20歳の国)
江花明里(劇団天丼/革命アイドル暴走ちゃん)
高橋義和(FUKAIPRODUCE羽衣)
芝 博文
松田文香
松村珠子
木村俊太朗
野村美優
亀山浩史(うさぎストライプ)
小瀧万梨子(うさぎストライプ/青年団
金澤昭(うさぎストライプ)

スタッフ

舞台監督:杉山小夜
舞台美術:新海雄大
照明:黒太剛亮(黒猿)
制作:金澤 昭(うさぎストライプ)
宣伝美術:西 泰宏(うさぎストライプ)
芸術総監督:平田オリザ
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)

大池容子(うさぎストライプ)といえばこれまで私には青年団若手屈指の優等生というイメージが強かった。平田オリザ原作の映画「幕が上げる」に主人公らの演劇部の先輩が出演している劇団として登場するのが大池が率いる「うさぎストライプ」である。映画撮影の収録場所がアゴラ劇場で、ちょうど彼女らの「デジタル」が公演していたからというのが、映画の中で上演される舞台に選ばれたひとまずの理由であろうが、単に公演を収録したというだけではなく、先輩役の女優をキャストに加えたバージョンを特別に上演してそれを撮影したことからも窺われるようにおそらくこれは監督の本広克行が原作者でもある平田オリザに相談した結果、うさぎストライプが選ばれたと思われ、それは平田の大池容子に対する評価が高いことの表れではないかと思うからだ。
 さらに言えば大池はアトリエ春風舎の芸術監督という役目も任せられている。彼女に聞くとこれも「自分でどうしてもやりたくて手を上げたからだ」ということだが、これももちろん前提として平田のそれなりの信頼があるからであろう。
2年前アトリエ春風舎で上演されたうさぎストライプ「みんなしねばいいのに」のレビューとして作者である大池容子について以上のような内容の紹介を書いた。
 ところが実は当該の「みんなしねばいいのに」という作品は見事にそうした第一印象を裏切っている。そして、実はこの「空想科学Ⅱ」も「みんな~」の延長線上にあるように思われた。そうなのだ。すごく変なのだ。ひょっとしたら、見かけの理知的女子の印象にごまかされていたけれども大池容子という人はとても変わった人なのではないか。「空想科学Ⅱ」を見ながら私はそんなことを考えていた。
作品はラブホテルの一室から始まる。女(江花明里)が目を覚ましてみると隣に頭を斧でかちわられた男(斉藤マッチュ)が死んでいたと不条理劇のように始まるが、そこから先はまるで夢の断片のように脈絡のない奇妙なイメージが連鎖していく。
ベケット別役実を思い浮かべてもらえば了解できるはずだが、不条理劇と言われているものでもそこにいっさいの論理的な脈絡がないというわけではなくて、なんらかの理屈に基づいて構築されるのが普通だ。ところがこの「空想科学II」にはそういう論理がほとんどなく、よく理屈の分からないイメージの連鎖によって形成されており、作者に直接聞いてみるとどうやら実際に見た夢が元になっているらしい。
 夢であるとすればその背後にはフロイトユングが分析したような性的な欲望などが関連していると考えることもできなくはないのだろうが、ここはそういうことを解釈してもあまり意味はないように思われ、どこかおかしなイメージそのものを楽しむべきなのかもと思えてきた。