下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

ももいろクローバーZ「ももいろクリスマス2018 DIAMOND PHILHARMONY -The Real Deal-」(1日目)@埼玉県・さいたまスーパーアリーナ

ももいろクローバーZ「ももいろクリスマス2018 DIAMOND PHILHARMONY -The Real Deal-」(1日目)@埼玉県・さいたまスーパーアリーナ

DAY1 2018年12月24日(月・休)
open 15:45 / start 17:00 / (20:00終演予定)

OPENING映像
PRIDEのテーマ(生演奏)
猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」
MOON PRIDE
ピンキー・ジョーンズ
ミライボウル
JUMP!!!!!
MC(自己紹介)
あんた飛ばしすぎ
DECORATION
天国のでたらめ
吼えろ
Z伝説 ~ファンファーレは止まらない~
DIAMOND PHILHARMONY演奏
サンタさん
Sweet Wanderers
MC(ももいろ歌合戦告知)
スターダストセレナーデ
クローバーとダイヤモンド
イマジネーション
MC(あーりんブランド&ポシュレ告知)
灰とダイヤモンド
きみゆき
空のカーテン
行くぜっ!! 怪盗少女 ZZver
MC
アンコール
Overture
SECRET LOVE STORY
笑ー笑
フィルハーモニー紹介
今宵、ライブの下で
白い風
ED映像

ももクロのクリスマスライブがももいろクリスマス(ももクリと略)。ももクロの大規模ライブは季節ごとに毎年ほぼ同時期に開催され春が「春の一大事(春一と略)」、夏がスタジアムでの巨大野外ライブ*1、そして冬がこのももクリである。実はそれぞれ方向性も異なり、ももクリは今回のさいたまスーパーアリーナのように比較的音響環境のよい閉鎖空間での作りこんだライブとなることが多い。
 昨年は埼玉、大阪と1週間間隔でそれぞれ1日ずつという異例のスケジュールもあり、元カシオペアのドラマー、神保彰によるドラムとシンセドラムによりすべての楽器の音色をひとりで演奏するという「ワンマンオーケストラ」と宗本康兵率いるアコースティックカルテットが参加するという異例の構成だったが今年は「DIAMOND PHILHARMONY -The Real Deal-」の表題でも予想できたように大人数のストリングス隊を含む、総勢33人のオーケストラ編成による生演奏がももクロの音楽を支えることになった。
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 OPENING映像が終わって、PRIDEのテーマが流れるのまではいつものももいろクリスマスなのだが、気がついて仰天し、大興奮したのは今年はオケが生演奏でテーマを演奏しているのが、分かったこと。暗闇の中からその全貌が姿を現すとそれだけで思わず「ついにここまで来たのか」と全身が沸騰し総毛立つ思いがした。ここからオーケストラバージョンのアレンジでももクロ初期の楽曲が次々と披露されるのだが、4人バージョンでの公開ということもあるけれども、歌割りやダンスのフォーメーションをただ単に変えたというだけではない。アレンジの変更に伴い歌い方なども細かいけれど最初の収録時とは若干異なる今現在の彼女たちの歌い方のニュアンスが付け加えられている。
 今回のライブが「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」からスタートするのは「DIAMOND PHILHARMONY -The Real Deal-」との副題と呼応したイメージを強く感じるからであるが、もうひとつは最初のさいたまスーパーアリーナでのライブ「ももいろクリスマス2011」の白眉が大貫浩史指揮による100人編成の合唱団「東響コーラス」、さらにスペシャルゲストのマーティ・フリードマン(G)を交えた壮大な「猛烈宇宙交響曲」のパフォーマンスであり、いまだにSSアリーナのももクリといえばそのイメージは強い。それだけに今回は総勢33人のオーケストラ編成による生演奏とその時とは比べ物にならないほど進歩した4人の歌唱でそれを凌駕することに挑戦したのではないだろうかと思わせるところがあった。交響楽にふさわしい壮大な曲想をパワーボーカルで支えた有安杏果のプレゼンスはこの曲の場合も大きかったが
こういう部分は例えばこの曲では高城れにが肩代わりして遜色のないレベルに仕立て上げてきた。
過去の名演とも比肩できる出来栄えだったのではないか。
 ここからは「MOON PRIDE」「ピンキー・ジョーンズ」「ミライボウル」と再構築した過去曲が並んだが、いずれもただ一生懸命に声を張り上げているだけではなく、ちゃんと言葉が観客席まで届く歌い方に変化したのがはっきり分かる。ももクロの場合は例えば2010年前後と現在とでは使いこなせる歌唱のテクニックがまるきり違っていても、実際のライブでの歌唱では初めてレコーディングした時の歌割りや演出に基づいてかなり厳密歌い方が決められている。そのため、最近の歌では現在の歌唱力が反映された曲想、歌い方になっているが、例えばクリスマスライブについていけば「サンタさん」がそうだが、当時にヒャダインがつけた演出をそのまま今も遂行している。特に夏菜子の歌い方などは意図的に子供っぽく歌わせるような演出がほどこされており、地上派のテレビでは冬の「サンタさん」、夏の「ココナツ」とヒャダインによるコミカル風味の強い楽曲が披露されることが多いこともあり、そのことが「ももクロは歌が下手」の一部の人の持つ世間的イメージを助長することになっているのは間違いないだろう。生演奏によるアレンジの変更で少しそうしたイメージを払拭したいとの意図が今回はあったのではないかとも思う。そももっとも典型的な形がオーケストラ演奏で歌った「行くぜっ!! 怪盗少女 ZZver」の冒頭部分で、少しテンポをゆったり目にして大人の風味を取り混ぜながら披露したそれは「ももクロの未来像」を感じさせるところもあった。
 ただ、なんといっても今回のライブの最大の魅力は「灰とダイヤモンド」「空のカーテン」「白い風」といった珠玉のバラード曲のリニューアルであろう。バラード曲は以前からももいろクリスマスの最大の売りのひとつではあったが、「灰とダイヤモンド」「白い風」などは有安杏果の圧倒的な歌唱力がその魅力を支えてきた感がかなりあった。春一で初披露された4人版「灰とダイヤモンド」では旧有安パートのハイトーン領域を佐々木彩夏が埋めるということになり、その頑張りには目を見張る思いがあったのだが、それでも「頑張り」というのは所詮「頑張り」でしかなく、杏果の元歌唱との間には正直言って埋めることのできない大きな差を感じたのも確かなのであった。とはいえ、「ローマは1日にしてならず」。杏果にしたところで実は冷静に思い起こしてみせばこうしたハイトーン部分の歌唱は容易に達成できていたわけではない。下手をするとその一発でかかる音圧ののどへの負担で、声帯を痛めてしまいかねないところを試行錯誤の挙句なんとか一定以上の到達点を見せたのが昨年ももクリでの有安杏果だった。
 今回の「灰とダイヤモンド」でのあーりんはその意味でいえば杏果とまったく異なる経路であーりん独自のハイトーン発声を見せて、過去の最高傑作とも言われた昨年のももクリでの5人版「灰とダイヤモンド」に並びかけてみせた。歌唱の細かい技術的な側面ではまだ至らないところもあるけれど、常々ももクロのボイストレーナーである美音が何度も指摘していたことではあるが、あーりんには潜在的に出すことが可能な音域の広さとその声量の大きさにおいて大きなポテンシャルがある。これまではそれがうまくコントロールできなかったり、中途半端なところで抜けてしまったりしたことが多かったが、今回はそうしたタスクを相当以上にうまくこなしてみせることができた。そして、これがうまく制御できるようになればロック系の楽曲のハイトーンボイスなどにも応用は広がるはずで、今後が楽しみで仕方がない。
 さらにいえば、この歌は元々、ももクロのテーマ曲的な色彩が強かったが、歌詞の意味合いをもう一度反芻してみたところ残された現在の4人(チーム・ダイヤモンド・フォー=TDF)のことを歌ったテーマ曲としか思えないほど、現在の状況と響きあうものを感じさせた。
 

*1:「夏のバカ騒ぎ」「桃神祭」など毎年コンセプトにより名前が変わる