下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

2018年演劇ベストアクト

2018年演劇ベストアクト

 年末恒例の2018年演劇ベストアクト*1*2*3 *4 *5 *6 *7 *8 *9 *10 *11 *12 *13 *14 *15 を掲載することにしたい。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2018年演劇ベストアクト

1,ホエイ(山田百次作演出)「郷愁の丘 ロマントピア」駒場東大前・こまばアゴラ劇場
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2,範宙遊泳「#禁じられたた遊び」吉祥寺シアター
3,青年団日本文学盛衰史吉祥寺シアター
4,青年団リンク キュイ「きれいごと、なきごと、ねごと、」小竹向原・アトリエ春風舎)
5,ヌトミック「SUPER HUMAN」(北千住・BUoY 北千住アートセンター)
6,<SCOOL パフォーマンス・シリーズ2017 Vol.6>「高架線」(=小田尚稔の演劇)三鷹SCOOL )
7,マレビトの会「福島を上演する」東京芸術劇場
8,笑の内閣「そこまで言わんでモリエール駒場東大前・こまばアゴラ劇場
9,サンプル「グッド・デス・バイブレーション考」Sample “Good Death Vibration”(KAAT神奈川芸術劇場
*16

10,青年団リンク やしゃご「上空に光る」小竹向原・アトリエ春風舎)
次点,ジエン社「物の所有を学ぶ庭」(北千住・BUoY北千住アートセンター )
次点,妖精大図鑑 「Ëncöünt!」(横浜STSPOT )
次点,無隣館若手自主企画 vol.26 中村企画「せかいのはじめ」(Aチーム)小竹向原アトリエ春風舎)

 今年もっとも活躍が目立ったのは山田百次(青年団演出部、ホエイ、劇団野の上)だと思う。ダムに沈んだ炭坑まちの住民たちをノスタルジックな筆致で描いた「郷愁の丘 ロマンピア」(山田百次作・演出・出演)は出演俳優の演技も出色の出来映え。まさしく今年のベストアクトに相応しい舞台だったと思う。新作を重視したための「郷愁の丘~」を選んだが、群像劇によりカルトがいかに生まれるかを描き出した「スマートコミュニティアンドメンタルヘルスケア」も好舞台。俳優として出演したオフィスコットーネ「山の声」、小松台東「消す」でも忘れがたい印象を残した。年明けにも「山の声」に続きオフィスコットーネプロデュース大竹野正典没後10年記念公演「夜が掴む」(2月2~12日)で主演を予定しており、その後はホエイの新作「喫茶ティファニー」(4月)も予定されている。注目をますます集めそうだ。
 山田も所属する青年団演出部がいまの現代演劇を牽引する存在であるのは間違いない。このところ、毎年次に来そうな気鋭の劇作家として選んできた綾門優季は今年も健在。「きれいごと、なきごと、ねごと、」
*17は旧作の再演だが、ライトノベル系演劇の佳作と言っていい。演出家を固定しないで複数の若手演出家と組んで公演するというのも木ノ下歌舞伎などの前例はあるとはいえ、作品ごとに複数の若手演出家と組んでの上演を企画する綾門のスタイルは結果として、若手演劇人が刺激をしあって創作活動をしていくための「場」を作る役割を果たしており、それも含めて今後の動きから目が離せない。青年団系には演出部以外にも松井周(サンプル)のように俳優として同劇団に所属しながら自らの集団サンプルを主宰してきたようにいろんな形態での活動が許容されているが、青年団リンク やしゃごの伊藤毅も松井同様に青年団俳優部に所属し、本公演も含む複数の公演に出演するとともに自ら作演出を務める集団の公演を1年1回程度の間隔でコンスタントに行ってきた。これまでも障碍者と家族など社会的な問題に積極的にコミットする作品を手がけてきた伊藤が今回「上空に光る」で挑戦したのは7年目の被災地における被災体験の格差の問題。当事者以外がどのように震災劇に取り組むのかということのひとつの回答例を示したような作品だった。
青年団系以外でも気鋭の若手作家の登場が目覚しかったのも今年の特徴だが、その中でも代表的な存在となりそうなのが、新人戯曲賞(AAF戯曲賞)と演出家賞(アゴラ演出家コンクール)をダブル受賞して一気に次代を担う新星にのし上がった感のあるヌトミックの額田大志。ここでは小説を原作としたプロデュース的な公演<SCOOL パフォーマンス・シリーズ2017 Vol.6>「高架線」を取り上げたが連結ひとり芝居という新たなスタイルの演劇を構築した小田尚稔(小田尚稔の演劇)の年間を通じての精力的な活動にも特筆すべきものがあった。
 年明けにはキュイの綾門、ヌトミックの額田らこれまでの演劇とは一線を画した斬新なスタイルを持つ演劇作家が集まる演劇フェスティバル「これは演劇ではない」
*18こまばアゴラ劇場)が開催されるが、綾門、額田さらには新聞家の村社祐太朗ら注目の演劇作家がそれぞれどのような作品を出してくるのか大いに注目したいところだ。
 昨年(2017年)はベスト1に選んだ範宙遊泳の山本卓卓も今年も健在。ここ数年アジアを中心に海外のアーティストとの交流も重ねてきたが、そうした成果も取り入れて多言語が交錯する作品「#禁じられたた遊び」が年間ベスト級の作品であった。
 笑の内閣の高間響はこれまで社会風刺的なコメディーにより様々なテーマを取り上げてきたが「そこまでいわんでモリエール」はフランス古典演劇を代表する風刺喜劇作家モリエールを取り上げた本格的な評伝劇で風刺喜劇作家のそうならではの矜持や劇団が抱える今も昔も変わらない様々な問題を笑いに消化させながら考えさせた。新境地を開いたといえよう。
 フェスティバル/トーキョーで上演された松田正隆のマレビトの会「福島を上演する」は3年計画の最終年度。複数の作家、演出家が福島に出掛け、そこで感じたことをもとに作品を創作するという企画だが、ここでも被災者ではないという意味で非当事者である作り手が定点観測のように現地に関わることで震災を巡る様々な問題から距離を置きながら、いろんな形で震災から7年という時間の経過が生み出す出来事が、いろんな形で入り込んでいた。平田オリザの現代口語演劇とは明確に異なる方法論は若手作家にも影響を与えつつあり、しばらく活動は休むようだが、今後の松田の動きにも目が離せない。