下北沢通信

中西理の下北沢通信

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YOKOHAMA DANCE COLLECTION コンペティションI(2日目)@横浜赤レンガ倉庫

YOKOHAMA DANCE COLLECTION コンペティションI@横浜赤レンガ倉庫

2.10 [sun] 16:00 ~

岡本優『マニュアル』
出演:工藤響子、柴田菜々子、四戸由香、岡本優
ヤナ・ヤツカ『FAUX PAS』
チェン・イーエン『Self-hate』
カン・スビン『Cut』

下村唯『亡命入門:夢ノ国』
出演:下村唯、Alain Sinandja、伊達研人
音楽:仁井大志

【ダンコレ】コンペⅠ
審査員賞 下村唯
奨励賞 乗松薫 鉃田えみ チェミョンヒョン、チェンイーエン
在日フランス大使館賞 岡本優
キャンピング賞(フランス大使館からもう1つ特別賞)下村唯

MASDANZA賞 カンスビン
シビウ国際演劇祭賞 岡本優
タッチポイントアートファンデーション賞 大森瑶子(コンペⅡより)
【ダンコレ】コンペⅡ 最優秀新人賞 大森瑶子
奨励賞 神田初音ファレル、横山八枝子
ベストダンサー賞 青柳万智子

  この日の公演を見てまずいいな、と思ったのが、岡本優の「マニュアル」である。映像を多用して、ゲーム的なリアルから構築されている情報社会と生身の存在である身体との齟齬を描き出している。冒頭からロボットとか機械を思わせるような何かのルールに操られたような身体所作を3人のダンサーが繰り返す。動きは舞台の進行に伴い複雑化し、速度も加速していくが、ある時点を境に身体の動きがオーバードライブしはじめ、制御不能を思わせるものに変化していくのが面白い。こういうテクノロジーとダンス(パフォーマンス)の組み合わせというのはダムタイプ以降、日本のダンス作品のお家芸と言ってもよいもので、その後もレニ・バッソ北村明子)、最近ではMIKIKO×ライゾマのパフォーマンスがこの系譜に入るといっていいだろう。
 こうしたものには特に欧米では日本人アーティストに対して一定以上のマーケットニーズはあるといっていいし、全体的なセンスもなかなかいいと思う。ただ、ひとつ気になったのはダンス自体の振り付けのクオリティーはともかく、特に映像と音楽とテクノロジーの部分においてライゾマティクスリサーチ(真鍋大渡)のプレゼンスは抜群なものがあり、この作品はそういう部分ではMIKIKOらの作品に及ばないのではないかと思われたことだ。
 

Dance New Air 屋外パフォーマンス TABATHA
 そういうこともあって、岡本優の作品が最有力と思いながらも、最後に登場した下村唯の作品を見て、その面白さに大逆転で一気に賞をかっさらうとしたらこちらかもと思った。日本人、台湾生まれでそこに拠点を持って活動してきたダンサー(国籍は日本)、アフリカ系の黒人ダンサー(トーゴ人)とダンスについても生活についても「ルーツ」が異なる3人のアーティスト(ダンサー)による共同制作作品の強いダンス作品で、作品としての切り口が新しく斬新。前衛的な要素を含有しながら笑える部分があったり、娯楽性も感じさせるなどバランスのよさにも感心させられた。
 他の3作品には見るべきところもあるものの、作品として不満が残る要素も散見され、積極的には評価しにくい作品だった。
 ラトビアのヤナ・ヤツカ振付によるデュオ『FAUX PAS』は大きなリンクを使ったシルク(サーカス)の要素が強い作品だ。アクロバットには見るべきところもあったが、突出しているとはいえず、ダンスとしては凡庸と見なさざるをえなかったかもしれない。
  台湾のチェン・イーエンの「Self-hate」は表題通り自己嫌悪を描いた作品といえそうだが、なぜそういうことを主題として作品を作るのかが分からない。一人の女が黒いビニール袋を引きずって出てきて、そこからもう一人の女性が出てくる冒頭部分からしてどこか既視感がある。モチーフのためか踊りはひたすら内向的にも見え、ダンスの魅力は感じにくかった。
  韓国のカン・スビンによる作品『Cut』は特に女性ダンサーのカンが卓越したパフォーマーであることは認められるが、女性はセクシーに男性はマッチョにとも見える固定化されたジェンダーイメージを極めてステレオタイプに追従する表現は現代芸術の一分野であるコンテンポラリーダンスの表現としては不適に思われた。韓国ではこういうのは全然気にならないのだろうか。少なくとも欧州では批判される類のものと思われるのだが。
 
dance-review.amebaownd.com