下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

オフィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演 第2弾 第29回下北沢演劇祭参加作品「夜が摑む」@下北沢・シアター711

フィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演 第2弾

第29回下北沢演劇祭参加作品「夜が摑む」@下北沢・シアター711
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作:大竹野正典
演出:詩森ろば
プロデューサー:綿貫 凜

2019年2月2日(土)~12日(火)下北沢・シアター711

前売りチケット発売中
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誰もが人恋しい“夕間暮れ" “夜"に備えての防衛本能 “夜"に摑まれる。
フィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演 第2弾 第29回下北沢演劇祭参加作品「夜が摑む」
フィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演 第2弾 第29回下北沢演劇祭参加作品「夜が摑む」
CAST

山田百次・有薗芳記町田マリー・柿丸美智恵・杉木隆幸・異儀田夏葉・西澤香夏・塩野谷正幸

事件概要
ピアノ騒音殺人事件*1

1974年8月28日、神奈川県平塚市の県営団地で、子供2人を含む一家3人が刺殺されるという事件が起きた。3日後、逮捕されたのは一家の上の階に住む無職・大浜松三(当時46歳)だった。階下から聞こえてくる子供のピアノの音に悩まされての犯行だった。

1974年、団地でピアノを弾く音がうるさいと、男が階下の母子を刺殺する事件が起きた。 この事件をヒントに描かれたのが「夜が摑む」。第4回テアトロ・イン・キャビン戯曲賞佳作を受賞、大竹野初期の代表作品である。
主演のコスギ役に俳優・劇作家・演出家としてマルチに才能を発揮、劇作家としては本年度の岸田戯曲賞候補にもノミネートされている山田百次(劇団ホエイ、青年団演出部)を起用。脇を有薗芳記塩野谷正幸町田マリー、柿丸美智恵ら手だれの役者たちで固めたキャスティングが秀逸であった。
  引きこもりのコスギの妄想の家族としてそれぞれ妻を町田マリー、息子を塩野谷正幸を演じたのだが、この二人が実によかった。とはいえ、妻として色気をしっかりと見せながら、キュートでもある町田はいかにも妄想内の人物に相応しいたたずまいで、山田演じるコスギが膝枕するところなどは思わず「あっ」と息をのむ色気を感じた。
 一方、妄想の息子役を演じた塩野谷正幸、ヤマモトさんのご主人、近所の主婦の二役を演じた有薗芳記は思わず笑ってしまうほどおかしい。ともに怪優というのにふさわしいはじけぶりだ。
 大竹野正典作品は同じく過去に起こった事件に材を取っているというものの、初期作品と後期作品(特にくじら企画以降)ではかなり作風が異なる。オフィスコットーネでも上演された「夜、ナク、鳥」「海のホタル」などは虚構を交えながらであってもかなりリアルに事件の様相を写し取り、事件ならびに事件を起こした犯人に迫っていこうとの意思が感じられるが、この「夜が摑む」や深川の通り魔事件を基にした「密会」では事件に仮託した不条理劇の色合いが強い。さらにいえば犬の事ム所の舞台は秋月雁、戎屋海老、九谷保元ら関西を代表する奇優・怪優を揃え、彼らが舞台狭しと自由奔放に遊び回るというものであり、そうして初めて成立した戯曲をなんとか成立させるためには有薗、塩野谷らアングラ臭を感じさせる役者が暴れまわることが必要だった。
 ただ、詩森ろばの演出が面白いのは全員がそうしたアングラ演劇的な暴れまわる演技をするのではなくて、暴れまわる動の舞台の中心にはピアノとテレビを乗せた机があってここには山田百次が演じるコスギとピアノを演奏する西澤香夏がいて、このふたりだけは暴れまわるような周囲の演技の中心にある虚無のように静かな狂気を演じていることだ。静謐のなかに西澤が奏でるピアノの演奏と屋上の貯水槽に潜む黒いスライムを思わせるメメクラゲのイメージはこの二人が持つ静かな狂気を体現させているように感じさせた。

*1:

狂気―ピアノ殺人事件 (文春文庫 (248‐3))

狂気―ピアノ殺人事件 (文春文庫 (248‐3))