下北沢通信

中西理の下北沢通信

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シベリア少女鉄道 vol.30『いつかそのアレをキメるタイム』@赤坂REDTHEATER

シベリア少女鉄道 vol.30『いつかそのアレをキメるタイム』@赤坂REDTHEATER

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 作・演出
 土屋亮一


 出演
浅見紘至(デス電所)・加藤雅人(ラブリーヨーヨー)・吉田友則・藤原幹雄、小関えりか・風間さなえ・濱野ゆき子・石松太一(青年団)・川井檸檬・美鈴あおい ほか

人には前に進む力がある。
叫ぶ声と動く体がある。
ならそれだけで充分だ。
細かいことは気にするな。
小さなことにくよくよ悩むな。
今はただ高ぶれ。闇雲に声を張り上げろ。
そのうち僕らにも訪れる、
いつかそのアレをキメるタイム。

表題通りの作品だが、驚くほどネタバレなしに何も語れることがない。ただひとつ言えるのは今回も女優が可愛かったということぐらいだ。後は公演が終わってからと過去公演では書いていることが多いが、結局何も書かず、そうするとどの作品がどういう内容だったか、後からまったく思い出せない(笑)。
全体としては池井戸原作ドラマ「下町ロケット」が下敷きで、「下町ロケット」のパロディと言っている人もいるようだが、そういう側面がないこともないながらもちろんシベリア少女鉄道の面白さはそういうところにあるわけではない。
 まず、最初のパートでは下町の町工場が皆の頑張りと工夫で画期的な新製品を作るドラマが展開されるのだが、そのドラマは本来は肝となるべき技術の核や具体的な商品が「アレ」とぼかした表現でしか表現されていなくても、それぞれが役割を振られた役割による大げさなリアクションとドラマを盛り上げる音楽など一定の形式があれば成立してしまうんだというのが提示される。

simokitazawa.hatenablog.com
 「悲劇喜劇」 早川書房(2007年08月号)に書いたシベリア少女鉄道×ヨーロッパ企画についての論考「ゲーム感覚で世界を構築--シベリア少女鉄道ヨーロッパ企画」で「欧米のリアリズム演劇に起源を持つ現代演劇においてはアウトサイダーと見える彼らの発想だが、日本においてこうした発想は実は珍しくないのではないか。鶴屋南北らケレンを得意とした歌舞伎の座付き作者は似たような発想で劇作したんじゃないだろうか。舞台のための仕掛けづくりも彼らが拘りもっとも得意としたところでもあった。その意味ではこの二人は異端に見えて意外と日本演劇の伝統には忠実なのかもしれない」などと書いた。
 実は今回の作品もそれが明確に反映された作品となっている。というのはシベリア少女鉄道が再構築する「下町ロケット」の世界はある種の歌舞伎同様に内容よりもマニエリスム的様式の方が重要であり、そこでは「アレ」が何であるかはさほど重要ではない、ということになる。