下北沢通信

中西理の下北沢通信

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平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『銀河鉄道の夜』Bチーム(1回目)@こまばアゴラ劇場

平田オリザ・演劇展vol.6 青年団銀河鉄道の夜』Bチーム(1回目)@こまばアゴラ劇場

銀河鉄道の夜』※A・Bの2通りのチームで上演します。

【B】菊池佳南 折舘早紀 小林亮子 髙橋智子 中村真生
【A】井上みなみ 藤松祥子 山本裕子 鄭 亜美 中村真生



舞台監督:河村竜也
舞台監督補佐:陳 彦君 鐘築 隼 
舞台美術:杉山 至 
照明:西本 彩 
音響・映像:櫻内憧海 
衣裳:正金 彩  
フライヤーデザイン:京 (kyo.designworks) 
制作:太田久美子 赤刎千久子 有上麻衣

ももいろクローバーZの主演した映画、舞台の「幕が上がる」で同級生役、演劇部員役としてそれぞれ出演していたAチームの井上みなみ(ジョバンニ役)、藤松祥子(カンパネルラ役)に対して、Bチームの折舘早紀(カンパネルラ役)は映画には中西さん(有安杏果)がいたライバル名門校の部員(青森中央高校が演じていた)として出演していた。その後は舞台版にこそ間に合わず出演はしなかったもののやはり本広克行監督が演出した舞台「転校生」に出演、井上、藤松と共演。無隣館、青年団とAチームのその2人を追いかけるように経歴を積んできたこともあり、彼女がいわば青年団においては先輩格のAチームに挑戦するような座組みとなった「銀河鉄道の夜」に「幕が上がる」番外戦のようなドラマをついつい感じてしまう。
 折舘早紀は先輩へのライバル心を本当に考えているのではないかと思わせるような部分があるのだが、Bチームの面白さはそういうこととはまったく離れた場所にいて飄々としているように見える若手実力派、菊池佳南をジョバンニ役に持ってきて折舘と組ませたところにある。キャスティングがどのように決定されたのかはよく知らないのだが、平田オリザが決めたのだとすればその策士ぶりに改めて感心させられるしかない。もっともこういう才能溢れる若手女優が彼女ら以外にも揃っているのが今の青年団の強みなのだ。
 そして、さらに面白く思われるのはAチームの感想にも書いたが、彼女らの演技や役作りが一人ひとり皆違っていることだ。Bチームを見て最初に感じたのはAチームよりも分かりやすい演技ぶりであった。そう感じられたのは菊池佳南の演技の印象によるところが多い。日本の小劇場演劇には女優が少年役を演じる場合の型のようなものがある。菊池はそれを巧みに活用しながらジョバンニという役を演じていく。実は菊池は山田百次作演出のひとり芝居「ずんだクエスト」という作品で、他県の悪の手から宮城を守るというずんだ姫子という役柄(キャラ)を演じているのだが、こうしたデフォルメされたキャラを造形することに長けた俳優なのだ。もちろん、ジョバンニはずんだ姫のような仮想のキャラとは異なるが、日本人のしかも女優が演じるにはかなり距離がある役柄なのは間違いがなく、それに対する菊池のアプローチはキャラ的な色合いの濃いものとなっている。
 それに対し、Bチームが面白いのはそういう癖のある役作りをしてくる菊池に対して、折舘早紀ができるだけ無駄に目立つような演技を削ぎ落とし、菊池を受け止めるような演技に徹しているように感じさせたことだ。高校演劇の強豪高校の中心メンバーだったことを考えても、演じようと思えばいろんな技術も持ってはいるはずだが、この舞台では折舘はほとんど余計な演技をしていない。
 Aチームの藤松祥子がカンパネルラの内面をできるだけ再現しようとして、細かくまなざしの演技をしていたのと比べても、この舞台での折舘はあまりなにもしない。途中でもう少し目立つように演じてもいいのにと感じた瞬間もあったが、それをあえてしないというのが今回の彼女の演技プランなのだろうと思われてきた。それがなぜなぜかというと「死」をうちに孕んでいるカンパネルラという役柄だからこそということなのかもしれない。