下北沢通信

中西理の下北沢通信

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読売テレビ開局60周年SPドラマ 約束のステージ ~時を駆けるふたりの歌~

読売テレビ開局60周年SPドラマ 約束のステージ ~時を駆けるふたりの歌~

■放送情報
『約束のステージ~時を駆けるふたりの歌~』
読売テレビ日本テレビ系で2019年春放送(2時間ドラマ)
出演:土屋太鳳、百田夏菜子
監督:佐々部清
脚本:徳永友一
チーフプロデューサー:前西和成
プロデューサー:中間利彦、錦信次(IVSテレビ)
制作協力:IVSテレビ制作株式会社
制作著作:読売テレビ放送株式会社
(c)読売テレビ


2月22日(金)よる9:00~放送! 「約束のステージ~時を駆けるふたりの歌~」PRスポット

土屋太鳳・百田夏菜子が名曲「17才」を披露!「約束のステージ」フルver

土屋太鳳・百田夏菜子が名曲「ひとりじゃないの」を披露! 「約束のステージ」


君の名は。」じゃないけれどある種のタイムスリップものというのはSF的な趣向を含む最近のドラマ・映画では定番というところがあって「約束のステージ ~時を駆けるふたりの歌~」もその系譜に入る。そうしたドラマでは映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」ではそうであるようにタイム・パラドックスの解消というのがプロット上の重要な主題となっているのだが、このドラマはそういうことより、現在で自己実現ができなかった主人公のつばさ(土屋太鳳)が過去で自分と同名の翼(百田夏菜子)と出会い、苦難に晒されながら歌手になりたいという夢に挑戦するというのがメインストーリーとなっている。
 実はなかなかよく出来たドラマであるにもかかわらずこのドラマには物足りなさがある。主演の土屋太鳳は現代から過去にタイムスリップしてスターを目指す女性を演じてよかった。そして、その相手役の百田夏菜子。女優として役柄をうまく演じていて、アイドルとは思えないほどだった。そして、それは全面的にプラス評価であるように思えるが、実はそこにはボタンの掛け違いがあるのではないかと思ったのである。
 夏菜子は歌手を目指し頑張る女性の役をかなりリアルに演じていて、それは例えばヒロインの土屋太鳳と比べても遜色のない女優としての演技であったが、ここで演じられたのはスターへの栄光を掴みそこねた女性なのであり、トップアイドルとしての華や持って生まれたスター性が発揮されたわけではなかった。夏菜子はインタビューに答えてアイドル活動と女優では入るスイッチが違うと語っている。
 そのことはNHKの朝ドラ「べっぴんさん」でのヒロインの友人役を演じた時にも感じた。与えられた役柄にもの凄くうまくとけこんでしまっていて、子供の母親役を演じるとその役柄の人そのもののようなので、演技はもの凄くうまいんじゃないかと思わせるのだが、それはヒロインなどと比べてももの凄く地味な人物であって、そこにはアイドル性はほとんどないのだ。
 その意味で百田夏菜子はかなり上手く役柄にとけこんだ演技ができる女優であり、毎年のようにスタジアム級の会場で巨大ライブを行い続けているももいろクローバーZという女性アイドル界のトップに座り続けているグループのリーダーにして絶対的センターでもあるのだが、それは別々の存在であって、例えば薬師丸ひろ子原田知世がそうであったように、そしてある意味今でもそうであるような「アイドル女優」ではないのである。
そして、そのことがもっとも顕著に発揮されているのは劇中の見せ場でもあるWつばさwithKの歌唱場面である。ここでの百田は確かにかわいいし、歌もまあまあうまく見える。ももクロをよく知らない人はこれでもって「意外とうまいわね」などと好意的な解釈をしてくれている人もいるかもしれない。
 だが、これは本来の夏菜子とはまったく違う。ももクロのライブのようにアイドルとしてのオーラを全開にしているということはなく、そういうのをあえて出さずに翼に必死についていっているけれど、少し実力が不安定でそこまでいかないというつばさの役柄を監督の、そして台本の指定どおりに演じているのだ。

【ももクロLIVE】吼えろ / ももいろクローバーZ(fromももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-)
 普段の天真爛漫なキャラと比べるとこのドラマのつばさは明らかに陰があるし、それゆえのせつなさを夏菜子はうまく演じており、それだけで及第点ともいえるのだが、それだけでは本来の魅力の半分も発揮されていないのではないかとのもどかしさがある。考えてみると夏菜子の女優としての本格的なデビューは「幕が上がる」の苦悩する演劇部長、高橋さおり役であり、実際の夏菜子のキャラとはかなりかけ離れた人物造形だったこともあり役作りに苦悩していたが、この経験が「べっぴんさん」「プラスチックスマイル」「約束のステージ」と苦悩するような人物像が続くのは明らかにつながっているのではないか。
 スターシステムであるアイドルの世界では通常、トップアイドルが映画ないし舞台に挑戦する場合にはまるでその人にアテガキしたような役柄でデビューし、徐々にその守備範囲を広げて新境地に広げていくのが普通だ。
ところが夏菜子の場合は順序が違っており、それゆえファンや専門家筋には高く評価されながらもヒロイン役などが回ってきにくい理由となっているのではないか。よくできたドラマで夏菜子の演技も悪くはなかっただけにそんなことを考えてしまったのだ。