下北沢通信

中西理の下北沢通信

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平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『思い出せない夢のいくつか』@こまばアゴラ劇場

平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『思い出せない夢のいくつか』@こまばアゴラ劇場

出演 兵藤公美 大竹 直 藤松祥子

スタッフ

舞台監督:河村竜也
舞台監督補佐:陳 彦君 鐘築 隼 
舞台美術:杉山 至 
照明:西本 彩 
音響・映像:櫻内憧海 
衣裳:正金 彩  
フライヤーデザイン:京 (kyo.designworks) 
制作:太田久美子 赤刎千久子 有上麻衣

  
青年団「思い出せない夢のいくつか」観劇。8演目にわたり、平田オリザ作品を連続上演している「平田オリザ・演劇展vol.6」だが、ついにこの1本というべき作品が登場したといえそう。
 初演は94年で同じ年には「東京ノート」「転校生」とその後、何度も再演され、今年も再演が予定される平田の代表作が相次いで生み出された実りの年だった。前述の2本と異なりこの作品がその後上演されることがなかったのはもともと初演が緑魔子ありきで企画された作品だったということがあるかもしれない。緑魔子といえば第七病棟などでの唐十郎作品での名女優振りが知られるアングラ演劇を代表する伝説的な女優で、現代口語演劇、群像会話劇の平田オリザとは水と油的存在といえたが、もともと平田が彼女の大ファンであったことと、緑が平田の演劇に興味を持っているらしいということを人づてに聞いた平田が彼女にオファーを出し実現することになった。
 初演には緑のほか、当時青年団の中心俳優であった山内健司、平田陽子が出演していたように記憶している。しかし、正直言って緑魔子インパクトが強烈すぎて、それしか記憶に残っていないというのが正直なところだ。そのせいで作品としてはあまりバランスがいいという風には思えず、その後、再演されないことについてもそういう特殊な作品だからということ以上のことはあまり考えていなかった。
 初演以来25年ぶりにこの作品の青年団上演を見たが、初演の印象に対してこういう作品だったのかと新たな発見が多い上演だった。物語は列車の車両の中で進行するが、登場するのはわずか3人。ベテランの女優(歌手だったかも)=兵藤公美、とそのマネジャー(大竹直)、付き人(藤松祥子)である。
 物語は宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を下敷きにしていて、3人の会話の中には鳥取り、古生物学者から星座版の話、星になったサソリの挿話など原作に出てくるモチーフが散りばめられている。
 キャスト3人の配役が絶妙だ。中でも付き人役の藤松祥子のヒロインぶりが鮮烈な記憶残した。大竹直も渋い。初演の時にもそれは記憶に残る場面であったが、女優が席をはずして席に向き合い座ったマネジャーが皮を剥いていないまるごとのリンゴを付き人の女の目の前に差し出し、それを女は歯形がつくようにがぶりと食べてみせる。そしてそれをまた取り戻したマネジャーは同じりんごにかぶりつく。ここにはセリフはいっさいないけれどもこれだけで観客はこの2人がすでに男女の関係にあることがはっきりと分かるような仕掛けになっている。
 藤松の演技にはエロスの匂いがするが、こういう性的な関係性のようなものは平田オリザの作品では意図的に排除されることが多いのだが、ここは数少ないそれを匂わせる場面で、初演では平田陽子がその役を演じたことからも分かる通りにそれを担わせる数少ない女優の一人に藤松が見なされているというのも確かなようだ。