下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ヌトミック「お気に召すまま」@こまばアゴラ劇場

ヌトミック「お気に召すまま」@こまばアゴラ劇場
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作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子 構成・演出・音楽:額田大志


兄から貴族にふさわしくない扱いを受けていたオーランドーは、公爵の御前で開催されるレスリングの試合に参加する。そして、たまたま試合を見物していたロザリンドと互いに恋に落ちてしまう。やがて、領地問題で宮廷からの追放を申し渡されたロザリンドは、男装してギャニミードと名乗り、公爵の娘シーリアと共にアーデンの森へと向かう。一方オーランドーも、兄から命を狙われていると知らせを受け、アーデンの森に逃げるのだが……。

420年前のイングランドで書かれた言葉を、420年後の東京で発していく壮大な冒険のような上演です。宮廷から森へ、16世紀から21世紀へ、イングランドから日本へ。言葉が辿る冒険の行く末を見届けてください。ぜひ、劇場へ。

額田大志



ヌトミック

2016年に東京で結成された演劇カンパニー。音楽的とも評される緻密な台詞回しと、俳優の個性を最大限に引き出した演出が特徴。これまでにフェスティバル「これは演劇ではない」などで6作品を発表してきた。額田は『それからの街』で第16回AAF戯曲賞大賞を、また古典戯曲の演出で2018年のこまばアゴラ演出家コンクールにおいて最優秀演出家賞を受賞。



出演

原田つむぎ(東京デスロック) 深澤しほ 古屋隆太(青年団) 松田弘子(青年団) 矢野昌幸

スタッフ

作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
構成・演出・音楽:額田大志

舞台監督:黒澤多生
舞台美術:渡邊織音(グループ・野原)
照明:松本永(eimatsumoto Co. Ltd.)、佐々木夕貴(eimatsumoto Co. Ltd.)
音響:額田大志
振付:Aokid
ドラマトゥルギー:朴建雄
宣伝美術:三ッ間菖子
制作:河野遥

協力(順不同):青年団 東京デスロック グループ・野原 écru レトル みんなのひろば

芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 
 ヌトミックの額田大志演出によるシェイクスピア「お気に召すまま」はシェイクスピア上演としてはかなり、異色の上演であった。まず第一に原テキストのかなりの部分をばっさりと切り捨ててしまっているため、私のようにある程度元を知っている人には上演されているのがどの部分かは分かっても、はっきり言ってこの上演から原作の筋立てを組み立てることは困難だ。
 この作品はコメディであり、もともとは男装したロザリンドとそれに気がつかないオーランドの軽妙な会話のやりとりなどを楽しむものだと思われるが、今回の上演を見る限りは額田にはそういうことに対する興味がほとんどないのではないかと思わされた。
 こんな風に書くとシェイクスピアに興味がないのであればわざわざ上演することはないじゃないかと批判する人も出てきそうだが、額田は決してこのテキストに興味がないわけではない。
 軽妙な会話については基礎的な構図だけを提示してディテールをばっさり切ってしまっているのに対して、喜劇においては一般には重視されることがあまりない、モノローグ部分はかなり長々と原文通りに克明に引用されたりもしている。特に有名なくだりではあるものの、「この世界すべてが一つの舞台」にはじまるジェイクイズの独白などはすべてがセリフとして語られている。
 シェイクスピアを上演するのにこういう切り取り方をするのは相当珍しいが、こと額田の場合、こうなっているのはシェイクスピアへの理解が薄いからというからではなく、ある程度のことは分かったうえでの確信犯だと感じた。
 おそらく、このジェイクイズの独白がこの舞台の中核にある主題だと考えてのこの構成だと思われたが、この日の舞台を一度見ただけではまだ完全な確信には至らないでいる。もう一度観劇する機会が土曜日夜にあるので、そのことについてはもう少しじっくりと考えてみたいと思う。

お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

simokitazawa.hatenablog.com

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