下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

中野劇団「10分間2019~タイムリープが止まらない~ 」@こまばアゴラ劇場

中野劇団「10分間2019~タイムリープが止まらない~ 」@こまばアゴラ劇場

作・演出:中野守

大学の映画研究部OBの飲み会、主人公の聖子は同じ十分間を何度も繰り返すループ現象から抜け出せなくなる。 繰り返しのなか様々な方法で仲間に説明を試みるが、バカにされ全く信じてもらえない。劇団代表作のシチュエーションコメディ。4度目のブラッシュアップで10年ぶりの大阪・東京2都市公演に挑みます。平成29年度希望の大地の戯曲「北海道戯曲賞」優秀賞受賞。CoRich舞台芸術アワード!2016 6位。


2003年、脚本担当の中野守を中心に京都で旗揚しました。

緻密に張り巡らされた笑いの伏線を、波状的な笑いに昇華させ回収していくシチュエーションコメディを得意とするアラフォー劇団です。

第6回クォータースターコンテスト(QSC6)で「優秀作品賞」受賞。火曜日のゲキジョウ第4回30GP準優勝。


出演

三条上ル・川原悠・延命聡子(以上、劇団員)
河口仁(シアターシンクタンク万化)・丹下真寿美(T-works)・桐山篤・濱辺緩奈・長橋秀仁・金田一央紀(Hauptbahnhof)

スタッフ

舞台監督:黒澤多生
舞台美術:岩崎靖史
照明:真田貴吉
音響:下田要(劇団熊タオル)
宣伝写真:Studio.en
宣伝美術:廣瀬愛子(中野劇団)
公演制作:小林大陸
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 中野劇団は今回初めて観劇したが、コメディーとしての完成度の高さに感心させられた。タイムリープ(時間跳躍)というワンアイデアで上演時間2時間という長丁場を引っ張って、破綻なく納めている。例を見ないことだと思う。 
 タイムリープによって一定時間で時間がリセットされてしまい元に戻ってしまいそのループ現象から抜け出せなくなるという設定は以前からある。その中にアニメにもなった「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトなどよく知られる事例もあるが、中野劇団「10分間2019~タイムリープが止まらない」が独創的なのはループが起こる時間をわずか10分間に設定して、ほぼリアルタイムで起こっていることを見せ続けるというアイデアを思い付いたことである。
 いろいろ試みて七転八倒したことがすべて徒労に終わるという構造自体がシチュエーションコメディによくある構造であることからして、物語が笑える構造を持っていることは間違いない。
だが、この作品が面白いのはハチャメチャになってただ笑わせるだけでなく、とてつもなく高い演劇的精度で繰り返しであることを見せていることだ。毎回必ず同じいい間違いをするのを正確に再現したり、飲みかけた飲み物がループの後元通り飲む前の状態に戻っていたり、煙草の箱をループ1回ごとに同じように潰して見せたり……。こうしたことは実現するのに非常に苦労する割にはよく考えると物語のためには必要はなかったりするようにも思われるのだが、こうした細部までの馬鹿馬鹿しいまでの徹底的なこだわりが作品の魅力の源泉であるのも確かだ。
 また広げた風呂敷をきちんと畳もうというSF的な趣向もちゃんと合わせ持っているところも魅力。笑いながらも途中からはこれをどう決着させるのだろうということに見る側の焦点は移っていくのだが、見事な着地に脱帽した。このレベルの作品が他にもあるのならそれは驚嘆すべきことで別の作品も見たいと思った。