下北沢通信

中西理の下北沢通信

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演劇集団 円『アインシュタインの休日』@シアターX(カイ)

演劇集団 円アインシュタインの休日』@シアターX(カイ)

2019年6月14日(金)~23日(日)

これは、アインシュタインの登場しないアインシュタインの物語。

1922年11月17日から12月29日の43日間、アインシュタインは日本に滞在した。 大正デモクラシーの日本では相対性理論が流行し、博士はお祭り好きな日本人達に熱狂的に迎えられた。 そのニュースは日々新聞を賑わせ、知識人や学生のみならず、庶民たちの心をも魅了し活気づけたのである。 かくしてその歴史的な来訪は、東京の片隅に暮すある一家の営みに、小さな波紋を投げかけたのだった。 これは、アインシュタインの登場しないアインシュタインの物語。 時は大正11年。下町浅草を舞台に、名も無き市井の人々のユーモア溢れる明るい生き様を通して、科学と命の光と影を温かく描きます。 青☆組主宰の吉田小夏が、初めて円に書き下ろします。 オーディションで選ばれたキャストと共に創り出す意欲作。

キャスト

華岡陽子 上杉陽一
石井英明 小川剛生
岩崎正寛 吉澤宙彦
手塚祐介 玉置祐也
原田大輔 薬丸夏子
吉田久美 相馬一貴
久井正樹 野上絵理
平田舞

スタッフ
作・演出 : 吉田小夏(青☆組 主宰)
舞台美術 : 濱崎賢二(青年団
照明 : 伊藤泰行(真昼)
音響 : 泉田雄太
衣裳 : 中村里香子
舞台監督 : 今泉馨(P.P.P)
演出助手 : 大西玲子(青☆組)
制作 : 桐戸英二 狩野早紀

 1922年アインシュタインが来日した際の東京・浅草の騒ぎを背景にとあるパン店の家族とその周りの人々を描き出した群像劇。アインシュタインは芝居の中には登場せず、アインシュタインの学説についても詳しく触れられることはないのだけれど、来日したアインシュタインが各地で行った講演会が大人気だったということや、そのことに対する市井の人々の反応が興味深い。
  実はこの芝居を見る直前にNHK大河ドラマの「いだてん」の関東大震災の被災により東京が壊滅した場面を見たばかりだったので、いろんなことがシンクロし、つながってきた。
 物語の冒頭近くでパン店に下宿する学生たちが浅草十二階に昇って、東京の街や富士山を眺める場面があるのだが、この建物は関東大震災で倒壊、炎上してその周辺では多くの人がなくなる。そのことはテレビドラマ「いだてん」に出てきた登場人物にも大きな影を落としていくが、この舞台で描かれるのは関東大震災の前年のことで、その後、パン店の主人が震災で亡くなったことが、本人の口からモノローグで語られる。震災時の顛末が実際に明かされるのはその人物だけだが、ほかにも被災して亡くなった人や大きな被害を受けたであろう人たちがいたであろうことが、特に「いだてん」での被災描写とも相俟って感じられ、どこらかというと能天気な人々が数多く登場するこの舞台に陰影を落としているように感じた。