下北沢通信

中西理の下北沢通信

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しあわせ学級崩壊「ハムレット」(2回目)@nagomix渋谷

しあわせ学級崩壊「ハムレット」(2回目)@nagomix渋谷


しあわせ学級崩壊『ハムレット』PV映像

原作 W・シェイクスピア
福田恆存
上演脚本・演出・演奏 僻みひなた


■ご予約
カルテット・オンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/hype-14



■あらすじ
デンマーク王子ハムレットは、父の死後、王位を継いだ叔父・クローディアスと、母・ガードルートの早すぎる再婚に絶望している。ある日、父王の亡霊が現れ、その死因が叔父の計略によるものだったと告げられる。ハムレットは固い復讐を誓い、日夜狂人を装い、クローディアス暗殺の機会を待つ。ハムレットの狂気と不信は、次第に周囲と自身を悲劇へと巻き込んでゆく。

■キャスト
田中健介…ハムレット
福井夏…クローディアス/ホレイショー
大田彩寧…オフィーリア/ガートルード
林揚羽…ポローニアス/レイアーティー
(以上 しあわせ学級崩壊)




しあわせ学級崩壊「ハムレット」2回目の観劇。今回初めてライブハウスというかクラブ的な空間で見ることができた。これがとても素晴らしい。音場空間の中につつまれるような感覚があり、「ハムレット」の場合なら、舞台装置や小道具などはいっさいなくてもこの音場空間そのものが「ハムレット」の劇空間だと感じられる。これまで録音スタジオでの公演をみてきたが、ライブハウスのそれはまったく音の広がりの感覚が異なり、これが本来の上演形態なのだろう。「ハムレット」はこれまで数限りなくいろんな演出によるものを見てきており、それだけにともすれば辛口の感想になりがちなのだが、この「ハムレット」はここ何年かで見た中でも最上の部類と感じた。
 大音量のEDMの音楽に乗せ、セリフをまるでラップを思わせるような抑揚で朗々とフレージングしていくのがしあわせ学級崩壊のスタイル(様式)である。もともと強弱五歩格(trochaic pentameter)という韻文の一種で書かれたシェイクスピアのセリフはこの形式によく乗る。台本もそうした韻律を日本語にうまく移植した福田恆存のものうぃ使用しており、「ハムレット」の上演にこれまでに見たことがないほどの疾走感を感じさせる。「リア王」はともかくこのスタイルでには「マクベス」「オセロ」などはうまくはまりそうで、シェイクスピアの別の作品も見てみたいと思った。
 4人の俳優が複数の役柄を兼ねながら演じるために、筋立てや配役が分からないと少し分かりにくいところはある。しかもテキストは原戯曲通りにまともに上演すれば3時間以上になるところを上演時間1時間に収めているため、カットされている場面も多い。とはいえ、前半部分はほぼ原戯曲の通りの流れで上演していることもあり、大音量の音場空間、かならずしもセリフが聞き取りやすいとはいえない環境だが、筋立てをある程度知っている人であれば、セリフの流れを掴み取るのはそれほど困難なことではなかったのではないか。

キャスト
田中健介…ハムレット
福井夏…クローディアス/ホレイショー
大田彩寧…オフィーリア/ガートルード
林揚羽…ポローニアス/レイアーティーズ 

 キャスト表が上記のように記述されているようにこの上演ではハムレット役の田中健介以外の3人の女優はそれぞれ2役以上を演じる。例えば福井夏は父ハムレット王の亡霊が登場する冒頭部分でホレイショーを演じた後、すぐに間髪をおかずにハムレットの叔父で王位簒奪者であるクローディアスを演じ分けなければならない。それはヒロイン、オフィーリアと母ガールルードを演じる大田彩寧もそうだし、最初に見た時には気がつかなかったのだが、林揚羽は舞台の最後、暗闇の中での決闘シーンでガートルード、ハムレット、クローディアス、レイアーティーズなど複数の声色を瞬時に使い分けている。いずれも高度なセリフ術が必要とされるところだが、そうしたことを実現できる俳優の技量には感心させられた。
 上演としてはこれで十分なクオリティーだとは思うが、この劇団の最大の課題は上演が持続可能となる公演形態をいかにして確立できるかということにかかっているかもしれない。現在は資金的な問題もあって主としてバンドが練習に使用するような貸しスタジオを何カ所かわたり歩いた上で、最終的に今回見たようなクラブとして使用可能なライブハウスで公演しているようだが、これだとおそらく小劇場空間を借りよりはお金がかかってしまって、長期間の公演は難しいのではないか。とは言ってもこれだけの大音響を使用すると普通の劇場は使用が難しいのではないか。本拠地をこれまで王子小劇場としてきたのもあそこはつい最近革命アイドル暴走ちゃんが使用したように地下にあり大音響が出せる数少ない劇場だからということもあるのだろう。
 演劇ではあまりないのだけど貸し倉庫のような大空間にイントレなどを組んだ公演はNestや東野祥子のBABY-Qなどダンスやパフォーマンス系の集団では見たことがあり、次のステップとして考えるとそちらの方向かなとも思うが、ここはひょっとしたらそうした場所でクラブや音楽イベントを運営しているようなスタッフと組んでやるのはひとつの手かもしれないと思った。今回の印象から言えばせっかくハンドマイクを使っているわけだし、ここの舞台はで倉庫のような大空間にクラブのような巨大な音場空間を作ったところでやる方が生きてくる気もする*1

*1:東京ではよく分からないが、もし関西なら名村造船跡地でやるのが適しているようなパフォーマンスだと思う。どこかがお金出して元維新派のメンバーだった人とかの協力を得て、公演が実現しないかなと夢想する