下北沢通信

中西理の下北沢通信

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五反田団『偉大なる生活の冒険』​@アトリエヘリコプター

五反田団『偉大なる生活の冒険』​@アトリエヘリコプター

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作・演出 前田司郎

出演   新井 郁 内田 慈 神崎れな

     玉田真也(玉田企画) 前田司郎

公演日程 2019年7月27日-8月5日 全16回


 
 初演時(2008年3月)のレビュー*1に「『内部』に閉じる世界を躊躇なく肯定する」と書いたけれど10年近くが経過した今でもその感覚はあまり変わらない。「偉大なる生活の冒険」は芥川賞候補にもなった自作小説「グレート生活アドベンチャー」の舞台版である。物語の主人公である男を前田司郎が演じているが、演じる本人の実年齢に合わせて、初演では30歳前後だったのが、40歳前後と約10歳年齢が上がっている。
 男は元カノの家にころがりこんで、何も仕事をしないでRPGばかりをやりつづけるというダメ人間ぶりを発揮しているのだが、今回の再演版の一番の特徴は男の年齢が10歳ぐらい上がっているということだ。ということは部屋の主である女性の年齢も10歳上がっている。
 初演を見ていた時は何で彼女は別れた後の元カレをそれこそ飼い猫のように家においているのだろうと疑問にも思ったのだが、逆にいえばあくまで彼女は主人公が置いてもらっている部屋の借主という副次的な存在としか見ていなかったと思う。ところが、セリフも演出もほとんど変わりがないのに今回の舞台は主人公の物語であると同等程度に彼女の物語として観客である自分に迫ってきた。
 彼女は職場の同僚で彼女が結婚を望んでいた相手のところにしばらく行っていて、詳細は分からないが結局破局を迎えて、この部屋に戻ってくる。こういうことを書くと、女性に対する差別意識だと最近は思われかねないのだが、最後大号泣する女性の姿を眺めながら、初演のアラサーの女性と今回のアラフォーの女性ではその絶望感の大きさが大きく違うのではないかという風に感じた。とにかく、モラトリアム感覚がまだあった初演時と比べると「どうにもならない」という絶望感は一層色濃いものとなっている。
 さらにいえば観客である自分はさらに高齢化、定年を迎え、収入も激減。家人の風当たりも日に日に強くなっているために身につまされるところは以前とは比べものにならないほど多く、主人公への感情移入の度合いも10年前とは比べものにならないほど深くなってきてしまっている。そして、その立場から言わせてもらえば前田司郎は今回が年齢的に最後の再演と言い出しているようだが、そういう元カノ的な人をリアリティーをもって演じられる女優さえいれば10年後も20年後も大丈夫だから。20年後は80歳の私が見ることはできないかもしれないが。
 今回舞台を見ながら思ったのは主人公の男はまるで猫みたいだなということだ。公演チラシになぜかカニと一緒に猫が描かれているので、余計そう思ったのかもしれない。自分でも初演を見て以降、ここ十年の間に猫を飼うようになったので、そう思うのだが、猫や主人公は女性に対して何もできないのだが、それでもいるだけでなんらかの慰めになっているのかもしれない。そんなことも感じた。
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