サファリ・P「怪人二十面相」@こまばアゴラ劇場
京都芸術センター主催事業モノオペラ『ひとでなしの恋』(原作:江戸川乱歩 2014年12月上演)を契機に、演出家・山口茜と作曲家・増田真結が再びタッグを組み、児童文学の金字塔『怪人二十面相』に挑む。
子供の頃に感じたあの「胸おどるワクワク感」はそのままに、肉薄すればするほど揺らぐ二十面相の「存在」をつまびらかにあぶり出す。「光」と「音」、そして「身体」を駆使して織り成す、全く新しい『怪人二十面相』。サファリ・P
2015年7月、利賀演劇人コンクール2015にて「財産没収」(作:テネシー・ウィリアムズ
)を上演したメンバーにより結成。優秀演出家賞一席を受賞。
既成戯曲・小説から演劇作品を立ち上げるスタイルで創作を行う。物語に底流する作者の
生い立ち、時代背景などを重視してテキストを紐解き、そこから見えてきたものを独自の
身体性と発話をもって濃密に抽出する。
出演高杉征司 日置あつし 芦谷康介 達矢 佐々木ヤス子
スタッフ
ドラマトゥルギー:朴建雄
作曲:増田真結
舞台監督:下野優希
舞台美術:五木見名子
照明:池辺茜
音響:森永恭代
衣装:鷲尾華子(HANA DESIGN ROOM)
制作:合同会社stamp
宣伝デザイン:清水俊洋
写真撮影:松本成弘
精緻に制御された身体所作、複数のパフォーマーがそれを行うことで生ずるダイナミズム。実は日本は上海太郎舞踏公司、水と油(小野寺修二)、いいむろなおきマイムカンパニーなど広義の意味でダンスパントマイムと呼ばれる分野において世界屈指の水準の作品を生み出してきたが、今回の作品を見る限りサファリ・Pはそうした先達の遺産を受け継いでいる存在だと言っていいかもしれない。
舞台はスタイリッシュであり、身体表現とセリフ芝居を組み合わせた舞台における高度の身体制御の技術は洗練されていて極めてレベルが高い。初めて水と油の作品をアヴィニョンのオフで見た時の驚きを彷彿させるところさえあった。
キャストの日置あつし、達矢らはアンサンブルをリードしてダンサーとしての鍛錬を生かしての高い技術を見せてくれた。
ただ、このジャンルに関しては先に挙げた3集団をはじめ数多くの舞台をこれまで観劇してきているためにどうしても点数は辛めになってしまう。先に「身体制御の技術はレベルが高い」と書いたことは間違いではないけれど、
サファリ・Pのグループアンサンブルは確かに幾何学的といえるぐらいの正確性を持ち揃い方の精度も感心するほどだが、キネティックボキャブラリーの種類が少なく、その分だけ単調であることも否定できない。
さらに言えばこうした集団演技ではテキストの意味性と集団での動きはシーンごとに変化しながらシンクロしていくのが望ましい。上記の3集団でも上海太郎舞踏公司やいいむろなおきマイムカンパニーはメンバーが充実している時の座組みでは見事にそれが体現されていたが、今回の舞台でのサファリ・Pはどうしても同じような動きの処理が繰り返されるために単調に見えてきてしまうのだ。さらにいえば今回の舞台は動き自体は見事だが、動きとセリフならびに場面の質感の連関性は弱いと感じてしまった。
身体表現とセリフなど意味のあるテキストを重ね合わせていくような舞台を継続していくのであれば動きの質のヴァラエティーを増やし、こうした集団の動きがただ技術の高さを見せるというのにとどまらず、シーンごとの空気感の違いを生み出していくことが必要ではないのかと思った。
さらに言えば活劇ミステリの要素の強い「怪人二十面相」のテキストがこの集団の表現形態と合致していたかどうかについても疑問を持った。そもそもこれはミステリ劇のつもりなのか。多重人格症であるらしい二十面相と思われる人物の内的独白のようなものが何度か出てくるが、この上演だと筋立て自体がよく分からないので謎があって、それが解明されるようなミステリの構造にはなっていないと思われる。すでに演劇作品になっているので避けたのかもしれないが江戸川乱歩なら「黒蜥蜴」の方がよかったのではないだろうか。
- 作者: 江戸川乱歩,藤田新策
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2005/02/01
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