下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ケラ作品連続上演企画の第1弾 KERA CROSS 「フローズン・ビーチ」 @シアタークリエ

KERA CROSS 「フローズン・ビーチ」 @シアタークリエ

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:鈴木裕美
出演:鈴木杏ブルゾンちえみ朝倉あきシルビア・グラブ

 以前、ナイロン100℃フローズン・ビーチ」(1998年8月/第43回岸田國士戯曲賞受賞作)、「薔薇と大砲 ~フリドニア日記 #2~」などの作風を称して「異世界を捏造する演劇」と評し、大きなウソ(虚構)をある種のリアルをもって体現するために小さな虚構を積み重ねると書いた。
 最初は多少なりとも変わった登場人物による普通の会話劇としてスタートするが、物語は舞台内の時間軸が進むにつれて、荒唐無稽なフィクションに変貌していく。
 リゾート地として開発が進んでいる島にある別荘が舞台。作品はここに滞在している5人の女性による群像会話劇として展開される。全体で3幕の構成で同じ部屋を舞台に2幕目は1幕目の8年後、3幕目はさらにその8年後の出来事が語られる。1幕目はウエルメイドな会話劇風に進行するなかで、登場人物のひとりが亡くなり、そのことで残された4人のうち彼女を殺してしまったと勘違いした2人がその場から逃走。2幕目では残された2人が暮らしているこの家に8年ぶりに逃走した2人が現れる。ここでも逃げたうちの1人は初演直前に話題となっていたオウム真理教の信者となっていて、この家に残っていた2人に薬物を盛ろうとするところを結局返り討ちにあって刺されてしまう。
 3幕ではその時からまた8年をへて、4人が出会うのだが、この島を襲った地盤沈下のせいで、この建物自体がいまにも水没しようとしている。そして沈もうとしているこの部屋ではカニバビロンという謎の生物(存在)が跋扈している。
 この作品はナイロン100℃による初演も見てはいるのだが、物語設定上のエスカレーションは同じだが、登場人物それぞれのキャラはナイロン版の方が物語の冒頭からエキセントリックで異常だったような記憶がある。そして、それを武器に出演俳優たちは観客を笑わせるような個人技を繰り出していて、笑える舞台だったとの印象が強く残っている。

ナイロン100℃上演版
キャスト(初演・再演 共通)

犬山犬子 … 市子
峯村リエ … 千津
松永玲子 … 愛、萠(2役)
今江冬子 … 咲恵

キャスト(2019年上演版)
鈴木杏… 千津
ブルゾンちえみ … 市子
花乃まりあ … 愛、萠(2役)
シルビア・グラブ … 咲恵

 それに比較すると鈴木裕美の演出ならびに今回のキャストはただひたすら異常でおかしいというよりは異常な状況に巻き込まれて異常化していく人々という風に見える。そのため、ドラマ的には微細な部分も描こうとしているが、笑いの密度はどうしても薄まって感じられた。
 というか、この戯曲。岸田戯曲賞を受賞してはいるけれどそもそもよく考えると筋立ても登場人物もかなりデタラメな部分が多いので、今回の演出だとそれが逆に浮かび上がって見えてしまう。

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