下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ケラ作品を青年団が企画公演 青年団若手自主企画 vol.78 川面企画「4 A.M.」@小竹向原アトリエ春風舎

青年団若手自主企画 vol.78 川面企画「4 A.M.」@小竹向原アトリエ春風舎

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作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:山田由梨(贅沢貧乏)
企画:川面千晶(青年団) 菊池明明(ナイロン100℃


舞台は、南北に分断された国の小さな街の一軒家。
荒廃的な匂いが漂う街、夜、雨が降っている。
住人ゼリグとサニー夫婦の飼い猫スヌーピーの姿が見当たらない。
訪問者たちと共に、世界が歪みだしていく―――。
24年の時を経て蘇らせる渾身の五人芝居。

青年団若手自主企画 川面企画

俳優の川面千晶(青年団/ハイバイ)と、菊池明明(ナイロン100°C)の自主企画です。今から24年前、1995年に上演されたナイロン100°Cの伝説的シリアス・コメディを、新世代の演出家、山田由梨さん、演劇界を代表する怪優、川上友里さん、個性実力ともに兼ね備えた、大竹直さん、若手実力派、串尾一輝さんと共に上演します。

出演

大竹直(青年団) 川上友里(はえぎわ/ほりぶん ) 川面千晶(青年団/ハイバイ) 菊池明明(ナイロン100℃) 串尾一輝(青年団/グループ・野原)

スタッフ

舞台監督:河村竜也(青年団/ホエイ)
照明:伊藤泰行(真昼)
音響・音楽:金光佑実
制作:穐山奈未(青年団
宣伝美術:山口洋

 岸田國士戯曲賞を受賞している人気劇作家でありながら、完全にアマチェアの学生劇団などを除けばケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の作品が外部の手により上演されることはこれまであまりなかった。それがケラの作品を複数の演出家の手により連続上演する企画KERACROSSにより「フローズン・ビーチ」が上演されたのとほぼ同時期に青年団の川面千晶とナイロン100℃の菊池明明という2人の女優の手で「4A.M.」が上演されたのは極めて興味深いことであった。
 「4A.M.」は1995年、「フローズン・ビーチ」は98年の上演だが、この時期のケラ作品には小さな虚構を積み重ねていくことでSF的な壮大な架空世界を構築していこう作品群があった。8th SESSION『フリドニア ~フリドニア日記 #1~』(1996年7 - 8月)、16th SESSION『薔薇と大砲 ~フリドニア日記 #2~』(1999年3 - 4月)などが典型的なそうした系譜の作品だが、「4A.M.」はその後の作品にも受け継がれたような架空の国を舞台とした作品のうちでも最初期の作品。
 そこは南北に分断されていて、間を川によって隔てられている。南北を比較すると南は大勢の死者がでるような動乱のうちにあって、大量の難民が南から北へと流入してきている。舞台の家に住むセリグ夫妻ももともとは北の出身ながら、一度は南に渡ってものの(正確にいえばセリグは南出身の妻を連れて一緒に北に再び戻ってきていた。そこにはやはり南から最近やってきていたセリグの元恋人、医者と自称する男とその彼女も訪ねてくる。
 南北ということで半島にあるかの国を連想する人もいるかもしれないが、ここはまったく架空の国、架空の世界なのである。

ナイロン100℃ 「4A.M.」
 @新宿・THEATER/TOPS (1995/11/26-12/13 25ステ内4ステ若手公演)
 前売指3800自3500当日4000  作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
 出演:みのすけ犬山犬子三宅弘城、大堀浩一、峯村リエ、今江冬子 

 初演も見てはいるのだが、キャストはみのすけ犬山犬子が出ていたこと以外は思い出せなかった。だが、調べてみると上記のようだったみたいだ。不可解なのはナイロン100℃のオリジナルキャストにみのすけ三宅弘城、大堀浩一と男優が3人登場していることで、役柄としては今回はみのすけが演じていたセリグ役を大竹直、犬山犬子の役は川面千晶が演じていると思われるので、医者(きこり)がいかにも三宅弘城がやりそうな役柄だと考えれば、大堀浩一は今回は声だけの存在だった顎のないセリグの上司が最後のシーンだけ現れたということだろうか。
 今回のキャストでは大竹直がいい。青年団本公演では絶対にないような役柄だが、一見青年団の俳優の中でも正統派のような雰囲気を漂わせながらもこの舞台やホエイ、キュイなどではまるきり違うタイプの役柄を担うなど守備範囲の広さは彼の魅力だ。今回は自然な流れで全裸になることもできる振り幅に感心させられた。川面も犬山のだと言えばある意味想像できちゃうようなところはあるけれども役の造形は面白かったと思う。初演キャストとの距離感が一番感じられたのは串尾一輝。平田オリザの芝居でそんなことを感じたことはなかったが、串尾の演技は私には大倉のような現実との解離を感じさせた。おかしなコンテストを操ることのできる俳優だ。
 残りの二人の女優は手がたく作品を支え好演。こんなことを書くとあまりよく言っている感触がなく思われそうだが、こういう舞台ではそういう存在が
本当に重要で奇優怪優だけでは空中分解を起こしてしまうのだ。
 この舞台は細かいディティールの積み重ねが大きな虚構を築き上げていく。そうした意味では俳優の演技と同様の重要性を持つのが、舞台美術である。舞台美術は部屋の壁に架けられた抽象画のような油絵を含み素晴らしい出来栄えだがクレジットはない。スタッフのクレジットから考えるとホエイで舞台美術や宣伝美術も手掛けている舞台監督の河村竜也の手によるものではないかと推測されるのだが、もし違っていたら申し訳ない。

ナイロン100℃本公演
ナイロン100℃では公演を「セッション」と銘打っている。本公演は基本的に「1st SESSION」「2nd SESSION」……を冠する。

1st SESSION『インタラクティブテクノ活劇 予定外』(1993年8月)
2nd SESSION『SLAPSTICKS』(1993年12月)
3rd SESSION『1979』(1994年5 - 6月)
4th SESSION『NEXT MYSTERY』(1994年11月)
5th SESSION『ウチハソバヤジャナイ ~Version 100℃~』(1995年5月)
6th SESSION『4.A.M.』(1995年11 - 12月/タイチ・演出によるアナザー・バージョンを含む)
7th SESSION『下北ビートニクス』(1996年5月・大阪〜公演あり)
8th SESSION『フリドニア ~フリドニア日記 #1~』(1996年7 - 8月)
9th SESSION『ノンストップサクセスストーリー ビフテキと暴走』(1996年9 - 10月)
10th SESSION ANNIVERSARY『カラフルメリィでオハヨ '97 ~いつもの軽い致命傷の朝~』(1997年4 - 5月・大阪公演あり)
11th SESSION『カメラ≠万年筆』近過去劇二本立て公演~1985~(1997年7 - 8月/12th SESSIONと二本立て)
12th SESSION『ライフ・アフター・パンク・ロック』近過去劇二本立て公演~1980~(1997年8月)
13th SESSION『フランケンシュタイン ~Version 100℃~』(原作:メアリー・シェリー/1997年12月)
14th SESSION『ザ・ガンビーズ・ショウ』(1998年2 - 3月・大阪公演あり) - KERAとともに宮藤官九郎、児島雄一(マギー)、故林広志、ブルースカイが劇作を担当。
15th SESSION『フローズン・ビーチ』(1998年8月/第43回岸田國士戯曲賞受賞作)
16th SESSION『薔薇と大砲 ~フリドニア日記 #2~』(1999年3 - 4月)
17th SESSION『テイク・ザ・マネー・アンド・ラン』(1999年9 - 10月・地方公演あり)
18th SESSION『テクノ・ベイビー ~アルジャーノン第二の冒険~』(1999年12月 - 2000年1月)
19th SESSION『絶望居士のためのコント』(作:いとうせいこう、ブルースカイ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ別役実/2000年3 - 4月)
20th SESSION『ナイス・エイジ』(2000年9月/東京都千年文化芸術祭優秀作品賞受賞)
21st SESSION『すべての犬は天国へ行く』(2001年4月)
22nd SESSION『ノーアート・ノーライフ』(2001年11 - 12月・地方公演あり/タイチ・演出によるアナザー・バージョンを含む)
23rd SESSION『フローズン・ビーチ』(再演/2002年7 - 8月・地方公演あり)
24th SESSION『東京のSF』(2002年12月)
ホリプロ×ナイロン100℃ SPECIAL SESSION『ドント・トラスト・オーバー30』(2003年5 - 6月・地方公演あり/ホリプロとの提携公演)
25th SESSION 10years Anniversary『ハルディン・ホテル』(2003年11 - 12月・地方公演あり)
26th SESSION『男性の好きなスポーツ』(2004年8 - 9月・札幌公演あり)
27th SESSION『消失』(2004年12月 - 2005年1月・地方公演あり)
28th SESSION『カラフルメリィでオハヨ ~いつもの軽い致命傷の朝~』(再演<劇団健康から通算4演>/2006年4 - 5月)
29th SESSION『ナイス・エイジ』(再演/2006年12月)
30th SESSION『犬は鎖につなぐべからず ~岸田國士一幕劇コレクション~』(作:岸田國士、潤色・構成・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/2007年5 - 6月)
31st SESSION『わが闇』(2007年12月 - 2008年1月・地方公演あり)
32nd SESSION 15years Anniversary『シャープさんフラットさん』(2008年9 - 10月)
33rd SESSION『神様とその他の変種』(2009年4 - 5月・地方公演あり)
34th SESSION『世田谷カフカフランツ・カフカ「審判」「城」「失踪者」を草案とする~』(2009年9 - 10月)
35th SESSION『2番目、或いは3番目』(2010年6 - 7月・地方公演あり)
36th SESSION『黒い十人の女 ~version100℃~』(原作:和田夏十<市川崑監督の1961年映画作品>/2011年5 - 6月)
37th SESSION『ノーアート・ノーライフ』(再演/2011年11 - 12月・地方公演あり)
38th SESSION『百年の秘密』(2012年4 - 6月・地方公演あり)
39th SESSION『デカメロン21 ~或いは、男性の好きなスポーツ外伝~』(26th SESSION『男性の好きなスポーツ』を改稿・再演/2013年2月 - 3月)
40th SESSION『わが闇』(再演/2013年6月 - 7月・地方公演あり)
41st SESSION『パン屋文六の思案 ~続・岸田國士一幕劇コレクション~』(作:岸田國士<会話劇7作をコラージュした作品>、構成・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/2014年4 - 5月)
42nd SESSION『社長吸血記』(2014年9 - 11月・地方公演あり)
43rd SESSION『消失』(再演/2015年12月)
44th SESSION『ちょっと、まってください』(2017年11 - 12月・地方公演あり)
45th SESSION『百年の秘密』(再演/2018年4 - 5月・地方公演あり)
46th SESSION『睾丸』(2018年7 - 8月・地方公演あり)
番外公演
番外公演は基本的に「Side SESSION #○」を冠する。

Side SESSION #1『喜劇 箸の行方』(1994年7月)
Side SESSION #2『カメラ≠万年筆』(1995年8 - 9月)
Side SESSION #3 三宅弘城ソロ・レイトショー『悟空先生対アメリカ先生』(作・演出・出演:三宅弘城、構成・監修:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/1995年8 - 9月)
Side SESSION SPECIAL『アリス・イン・アンダーグラウンド』(1996年3月)
Side SESSION #4『インスタント・ポルノグラフィ』村上龍「ラブ&ポップ」谷崎潤一郎「鍵」山田太一早春スケッチブック」他より(1997年6月)
Side SESSION #5『吉田神経クリニックの場合』(原作:別役実「受付」、モンティ・パイソンモンティ・パイソンズ・フライング・サーカス」/1998年5月)
Side SESSION #6『Φ(ファイ)』(1998年6 - 7月)
Side SESSION SPECIAL『偶然の悪夢』(原作:ギュンター・アイヒ<放送劇「夢」>/1998年10月)
Side SESSION #7『イギリスメモリアルオーガニゼイション』(作・構成・演出・出演:大倉孝二、ブルースカイ、峯村リエ村岡希美/1998年10月)
Side SESSION #8『ロンドン→パリ→東京』(1999年1月)
Side SESSION #9・若手公演『すなあそび』(作:別役実/2005年3月)
Side SESSION #10『亀の気配』(作・演出:喜安浩平、監修・脚色・演出協力:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/2010年9月)
Side SESSION #11『持ち主、登場』(作・演出・出演:大倉孝二峯村リエ村岡希美、KENTARO!!、ブルースカイ/2012年2月)
Side SESSION #12『ゴドーは待たれながら』(作:いとうせいこう、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、出演:大倉孝二/2013年4 - 5月・地方公演あり)
日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演 俳優部門『SEX, LOVE&DEATH 〜ケラリーノ・サンドロヴィッチ短編三作によるオムニバス〜』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチナイロン100℃/2013年10月)
シリーウォーク・プロデュース
SILLYWALK PRODUCE KERA MEETS M.BETSUYAKU『病気』(作:別役実/1997年10月)